年金を逸失利益として不法行為に基づく損害賠償請求することの可否 - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
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年金を逸失利益として不法行為に基づく損害賠償請求することの可否

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相続

年金を逸失利益として不法行為に基づく損害賠償請求することの可否


最高裁判決平成11年10月22日、 損害賠償請求事件
民集53巻7号1211頁、判例タイムズ1016号98頁

【判決要旨】 1 障害基礎年金及び障害厚生年金の受給権者が不法行為により死亡した場合には、その相続人は、加害者に対し、被害者の得べかりし右各障害年金額を逸失利益として請求することができる。
       2 障害基礎年金及び障害厚生年金についてそれぞれ加給分を受給している者が不法行為により死亡した場合には、その相続人は、加害者に対し、被害者の得べかりし右各加給分額を逸失利益として請求することはできない。
       3 障害基礎年金及び障害厚生年金の受給権者が不法行為により死亡した場合に、その相続人が被害者の死亡を原因として遺族基礎年金及び遺族厚生年金の受給権を取得したときは、当該相続人がする損害賠償請求において、支給を受けることが確定した右各遺族年金は、財産的損害のうちの逸失利益から控除すべきである。

【参照条文】 国民年金法30条 、厚生年金保険法47条、 民法709条
       国民年金法35条 、 厚生年金保険法53条 、民法896条
       国民年金法33条の2 、厚生年金保険法50条の2
       国民年金法37条 、厚生年金保険法58条

 一 はじめに
 本件における論点は、
〈1〉 障害基礎年金及び障害厚生年金(基本年金分)の逸失利益性、
〈2〉 右各障害年金についての加給分の逸失利益性、
〈3〉 遺族年金をもってする損益相殺的調整の対象となる損害費目
の3点である。本判決の示した判断は、いずれも当該論点に関する最高裁としての初判断である。そのほか、1、2審において、
〈4〉 遺族年金をもって損益相殺的調整をする場合における控除の対象者に関する判断が分かれている。
 二 障害年金の逸失利益性
 1 国民年金法(以下「国年法」という)30条に基づく障害基礎年金及び厚生年金保険法(以下「厚年法」という。)47条に基づく障害厚生年金の受給権者が、他人の不法行為により死亡したときは、いずれの受給権も消滅する(国年法35条1号、厚年法53条1号)。この場合において、相続人が、受給権者が生存していれば将来受けることのできた年金相当額を逸失利益として請求できるか否かについては、年金の目的・機能、逸失利益の性質論等の問題と関連して議論がある。本件で亡Aが受給していた障害基礎年金及び障害厚生年金については、いまだ最高裁の判断が示されておらず、下級審の判断も分かれている。
 2 各種公的年金の逸失利益性
 まず、各種公的年金の逸失利益性に関する判例の趨勢を概観しておきたい。
 (1) 恩給法に基づく普通恩給
 普通恩給に関して、最1小判昭和41・4・7民集20巻4号499頁が前提問題として逸失利益性を肯定し、次いで、最3小判昭和59・10・9裁判集民143号49頁、判例タイムズ542号196頁が、普通恩給の逸失利益性そのものが争点となった事案で、これを肯定した。後掲最3小判平成5・9・21も、重ねてその逸失利益性を肯定している。なお、現在では公務員の共済組合制度が確立されているため、国家公務員共済組合制度又は地方公務員共済組合制度の発足以前に退職、死亡した公務員及びその遺族が、恩給制度の対象となるにすぎない。
 (2)各種共済組合法に基づく退職年金
 いずれも昭和61年4月の新年金制度実施前の事案に関するものであるが、国家公務員共済組合法に基づく退職年金について、最2小判昭和50・10・24民集29巻9号1379頁が逸失利益性を肯定した。また、地方公務員等共済組合法に基づく退職年金について、最3小判昭和50・10・21裁判集民事116号307頁は、「地方公務員等共済組合法に基づく退職年金は、前記普通恩給とその趣旨・目的を同じくするものと解される」として、その逸失利益性を肯定した。
同じく地方公務員等共済組合法に基づく退職年金について、最大判平成5・3・24民集47巻4号3039頁は、「退職年金を受給していた者が不法行為によって死亡した場合には、相続人は、加害者に対し、退職年金の受給者が生存していればその平成均余命期間に受給することができた退職年金の現在額を同人の損害として、その賠償を求めることができる。」と判示している。
以上の判例によれば、他の共済組合法による退職年金の逸失利益性も、同様に肯定されることになるであろう。
 (3)老齢年金
 昭和61年4月の新年金制度実施前の国年法に基づく老齢年金について、最3小判平成5・9・21裁判集民事169号793頁、判例タイムズ832号70頁は、「その目的・趣旨は右(注 普通恩給)と同様のものと解される」として、その逸失利益を肯定した。新年金制度実施後の老齢基礎年金や厚年法に基づく老齢年金(老齢厚生年金)については、最高裁判例はない。
下級審判例は分かれているが、前掲最大判平成5・3・24の判旨や、右最3小判平成5・9・21が国年法に基づく老齢年金について逸失利益性を肯定していることからすれば、逸夫利益性を認めることになろう。最近は、東京地判平成8・1・31交通下民29巻1号190頁、大阪地判平成10・1・27交通下民31巻1号87頁など肯定例が多い。
 (4)障害年金
 いまだ最高裁判例はなく、下級審判例としては、岡山地判平成5・1・28交通下民26巻1号134頁が、国年法に基づく障害基礎年金について、逸失利益性を否定している。
 (5)労災保険法による障害補償年金、障害年金等
 いまだ最高裁判例はなく、東京地判平成7・3・28判例タイムズ904号184頁か障害補償年金及び障害特別年金について、また、東京地判平成8・1・25交通下民29巻1号108頁が通勤災害による障害給付金について、逸失利益性を肯定している。
 (6)遺族年金
 遺族年金(遺族基礎年金、遺族厚生年金)については、後掲・最高裁判決平成12年11月14日・民集54巻9号2683頁 が出されるまで、最高裁判例がなかった。
下級審判例は、逸失利益性を肯定した先例もあるが、最近は、東京地判平成6・11・25判時1535号105頁、高松高判平成7・11・30交通下民28巻6号1542頁、大阪地判平成9・11・20交通下民30巻6号1662頁(いずれも遺族厚生年金の事案)など、否定例が多い。
 3 以上のとおり、最高裁判例が各種公的年金の逸失利益性を肯定する傾向にあるのに対し、学説、殊に、社会保障法を専門とする学者の間では、老齢年金等の給付の生活保障機能、年金制度の中での受給権の「継受」制度(遺族年金)等に着目して、その逸失利益性を否定する見解が有力である。否定説は、要するに、本来、公的年金は受給権者とその扶養家族の生活保障のためのものであり、受給権者が死亡した後に残された扶養家族の生活保障は遺族年金によって行うことが年金保険法の趣旨であって、相続人である遺族は老齢年金等を逸失利益として請求することができないというものである。前掲最大判平成5・3・24における藤島裁判官の反対意見も、このような年金制度の理解の上に立っている。
 年金の逸失利益性を判断する上では、年金の目的・機能をどのように理解するかが1つのポイントとなる。従来の最高裁判例の多くは、年金の目的・機能は「損失補償ないし生活保障」にあるとして、その逸失利益性を肯定してきた。すなわち、最初、前掲最1小判昭和41・4・7は、「普通恩給は、当該恩給権者に対して損失補償ないし生活保障を与えることを目的とするものであるとともに、その者の収入に生計を依存している家族に対する関係においても、同一の機能を営む」と判示し、普通恩給の逸失利益性を肯定した。その後、年金の逸失利益性を肯定する最高裁判例のほとんどがこの理由付けを踏襲しており、本件の1、2審判決もこれに従っている。
もっとも、最高裁判例には、前掲最大判平成5・3・24のように、年金の目的・機能に触れることなく、差額説的な観点からその逸失利益性を肯定するものもある。
 ところで、昭和61年4月から、公的年金一元化を目的として新しい年金制度が実施されている。この新年金制度の下における年金に関する最高裁判例としては、本判決が公刊された最初の事例である。新年金制度の下においては、各年金の生活保障的要素が強くなったことが指摘されており、これが逸失利益性の判断にどのような影響を及ぼすかは1つの問題である。特に、いわゆる2階建て年金の1階部分を担う国年法による基礎年金は、すべての国民に共通の年金とされ、障害基礎年金は被保険者の収入や保険料の納付状況等にかかわりなく定額とされている。
しかし、他方、現行の国民年金制度は、依然として、いわゆる社会保険方式(拠出制)により運営されている。被保険者は保険料を納付しなければならず、国民年金が、備蓄した給与の後払い、掛金の払戻しという側面、あるいは、老齢、障害、死亡という事態に対する備えという性格を有することは否定できない。さらに、厚年法による障害厚生年金は、報酬比例年金であって、給与の後払い、掛金の払戻しという側面が一層濃厚である。拠出された保険料と年金給付との間には、広い意味における対価的関係が存するといえるであろう。
 本判決は、障害基礎年金と障害厚生年金の双方について、「程度の差はあるものの、いずれも保険料が拠出されたことに基づく給付としての性格を有している」として、その逸失利益性を肯定したが、これは、右のような点を考慮したものと思われる。この考え方によれば、老齢福祉年金(昭和60年法律第34号の附則32条参照)のように無拠出の年金給付については、社会政策に基づく福祉的な性格を有するとして逸失利益性が否定されることになろう。また、遺族年金のように拠出された保険料との関係が間接的な年金給付についても、逸失利益性につき慎重な検討を要するといえよう。
 三 加給分の逸失利益性
 1 本件において、亡Aは、基本となる障害年金のほか、国年法33条の2に基づき子の加給分を、厚年法50条の2に基づき配偶者(妻)の加給分を、それぞれ受給していた。この障害年金の加給分について、基本となる障害年金と同じように逸失利益性が認められるかどうかは検討を要する。
 2 障害年金の加給分は、本判決の判示するように、受給権者によって生計を維持している者がある場合にその生活保障のために基本となる年金に加算されるものであって、保険料との牽連関係が認められず、社会保障的性格が強い。
前記のとおり、改正後の年金制度の下においては、基本たる障害年金それ自体からして逸失利益性が弱くなっているといえるが、加給分はより一層逸失利益性が希薄である。
また、加給分の加算終了事由は、子の婚姻、養子縁組、配偶者の離婚など、本人の意思いかんにより決定し得る事由により加算が終了するものと定められている点において、遺族年金の支給終了事由と類似しており、基本となる障害年金と同じ程度に存続が確実なものともいえない(この点は、第1審被告側の上告理由が、前掲最大判平成5・3・24の判示を引き合いに出して強調するところである。)。
本判決は、このような点を考慮し、加給分について、民事上の逸失利益性を否定し、年金保険法の枠内における解決に委ねたものである。
 3 このような基本となる年金に加算して支給される加給分(加給年金)に関する規定は、各種の公的年金について設けられている。いずれも社会保障的性格が強いといえるが、その規定が設けられた経緯も支給要件も同一ではなく、これを一律」に論ずることはできないであろう。なお、給与所得者の扶養手当は、労働の対価であり、言わば形を変えた給与であるから、加給分の逸失利益性を否定した本判決の判旨が扶養手当に及ぶものではないことは当然といえよう。
 四 遺族年金控除の客観的範囲(控除対象となる損害費目)
 1 前掲最大判平成5・3・24の判示するところによれば、障害年金の受給権者が不法行為により死亡した場合において、その相続人のうちに、障害年金の受給権者の死亡を原因として遺族年金の受給権を取得した者があるときは、「損益相殺的な調整」として、遺族年金の支給を受けるべき者につき、支給を受けることが確定した遺族年金の額の限度で、その者が加害者に対して賠償を求め得る損害額からこれを控除すべきものである。
 2 この損益相殺的な調整をする場合、損害のうちどの費目(財産的損害のうちの積極損害・消極損害、精神的損害)から遺族年金受給確定分を控除すべきかが問題となる。
この点については、
(a)全損害から控除し得る、
(b)逸失利益から控除し得るにとどまる(藤田良昭「遺族年金控除の要否とその範囲」判例タイムズ825号62頁、飯村敏明「年金の受給権取得と損益相殺」判例タイムズ943号110頁)、
(c)年金相当部分の逸失利益のみから控除し得るにとどまる(渡邊和義「損害賠償額からの遺族年金の控除」判例タイムズ904号49頁、南敏文「不法行為と年金給付」貞家最高裁判事退官記念論文集423頁)、
という見解がある。
 原判決は、亡Aの逸失利益(障害年金受給権喪失分)を768万4595円と、慰謝料を1000万円と認定した上、X1(妻)がその2分の1を相続したとして、「X1は、相続に係る損害賠償請求権額884万2297円に固有の慰謝料600万円及び葬儀費用120万円を加え、さらに受給確定に係る遺族年金額714万1713円を控除した残額890万○584円の損害賠償請求権を有(する)」と判断した。原判決によればX1の逸失利益相続分は384万円余となるから、遺族年金受給確定分のうちこれを上回る約330万円については、逸失利益以外の損害費目(積極損害、慰謝料)を控除対象としていることになる(=(a)説)。
 3 ところで、労災保険法による休業補償給付等がされた場合には、一定の範囲で民事上の損害賠償責任が減縮するが、労災保険給付とてん補関係を生ずるのは逸失利益だけであって、労災保険給付を財産的損害のうちの積極損害又は精神的損害から控除することはできないと解されている(最2小判昭和62・7・10民集41巻5号1202頁。なお、精神的損害から控除し得ないことにつき、最3小判昭和58・4・19民集37巻3号321頁など)。
したがって、労災保険給付が現に認定された消極損害の額を上回るとしても、当該超過分を積極損害や精神的損害をてん補するものとして、これらとの関係で控除することはできない。
これに対し、自賠責保険給付は、交通事故による身体傷害から生じた損害賠償請求権全体を対象としててん補が行われる(最1小判平成10・9・10裁判集民事189号819頁、判例タイムズ986号189頁)。
本件で問題となっている遺族年金給付に関しては、控除の対象を扱った最高裁判例はない。
 4 本判決は、「遺族年金をもって損益相殺的な調整を図ることのできる損害は、財産的損害のうちの逸失利益に限られるものであって、支給を受けることが確定した遺族年金の額がこれを上回る場合であっても、当該超過分を他の財産的損害や精神的損害との関係で控除することはできない」と判示する。遺族年金の目的が年金受給権者の遺族の生計維持、生活保障にあることを考えると、(a)説を採るのは妥当でないといえよう。なお、本件においては、逸失利益の内容は障害年金受給権喪失分だけであり、(b)説、(c)説のいずれによっても結論に違いは出ないから、本判決は、(b)説、(c)説のいずれを採るかについては判断を示していないと考えられる。
 5 遺族年金控除の主観的範囲(控除の対象者)
 死亡した被害者の逸失利益賠償請求権は、法定相続分に応じて相続人全員に分割されるが、一部の相続人だけが遺族年金の受給権者となる場合には、その給付額は、受給権者である相続人の損害額だけから控除され、他の相続人の損害額からは控除することができないと解されている(前掲最2小判昭和50・10・24)。第1審判決(那覇地判平成7・10・31判例タイムズ893号198頁)は、相続人全貝が遺族年金の給付の利益を受けるものとして、亡Aの逸失利益の算定過程でこれを控除しているが(=相続前控除)、原審は、遺族年金給付額は、受給権者であるX1の損害賠償債権だけから控除すべきであり、子であるX2、X3の損害賠償債権から控除すべきでないとの立場から、第1審判決の右判示を改めている。もっとも、受給権者が相続した損害額だけから控除するのが果たして実質的に妥当な結果をもたらすのどうかは、疑問の余地がないではない。
 6 年金制度は転換期を迎えているといわれるが、最高裁は、本判決をもって、障害基礎年金と障害厚生年金の受給権を喪失した場合について、当面、これを民事上の救済の対象とするという従前の判例の態度を維持することを明らかにした。また、加給分について逸失利益性及び遺族年金をもってする損益相殺的調整の対象に関する判断も、最高裁としての新判断であって、実務に与える影響も少なくないであろう。


最高裁判決平成12年11月14日、損害賠償請求事件
民集54巻9号2683頁 、判例タイムズ1049号220頁

【判決要旨】 不法行為により死亡した者が生存していたならば将来受給し得たであろう遺族厚生年金は、不法行為による損害としての逸失利益に当たらない。

【参照条文】 厚生年金保険法58条、厚生年金保険法63条1項
       民法709 条

一 事案の概要
 本件は交通事故によって死亡した亡Aの相続人Xらが、加害者Y1及びY1が自動車損害賠償責任共済に加入していたY2(農協)に対して、損害賠償等の支払を請求をする事件である。
 Aの夫Bは厚生年金保険の被保険者であったが、市会議員もしていたことから、Bの死亡後、Aは、厚生年金保険法(以下「厚年法」という。)に基づく遺族厚生年金(同法58条)と、市議会議員共済会の共済給付金としての遺族年金(地方公務員等共済組合法163条)の支給を受けていた。
 本件訴訟においては、Aの逸失利益の額が争点となり、特に、Aが受給していた各遺族年金の逸失利益性が問題となった。
 第1審判決は、「不法行為制度は、加害行為がなかった場合に想定できる利益状態と当該加害行為によって現実に発生した不利益状態とを金銭的に評価して得られる差額を損害として把握してこれを賠償させるものであるから、Aが死亡によって遺族年金の受給権を喪失したことが事実である以上、遺族年金の逸失利益性は肯定される。」として逸失利益性を肯定した。これに対して、原審は、「遺族厚生年金は、その受給権者の死亡により更にその遺族が何らかの年金受給権を取得することは法律上予定されておらず、社会保障的性格ないし1身専属性が強いものである上、その受給権者の死亡のみならず、婚姻によっても消滅するなど、その存続自体に不確実性を伴うこと」を理由として逸失利益性を否定し、市議会議員共済の遺族年金についても同様に逸失利益性を否定した。
 これに対して原告らが上告受理の申立てをし、受理されたのが本件事件である。
論旨は、原審の判断は最大判平成5・3・24民集47巻4号3039頁に違反するというものである(他の申立ての理由は、受理決定の際に排除された。民訴法318条3項)。
 本判決は、判文に記載された理由から、被害者が将来受給し得たであろう遺族厚生年金は、不法行為による損害としての逸失利益に当たらないと判断した。
また、市議会議員共済の遺族年金についても逸失利益性を否定した。
二 説明
1 公的年金の受給権者が他人の不法行為によって死亡した場合(死亡によって被害者の受給権は消滅する。)、その者が平成均余命までの間に取得し得たであろう年金が逸失利益に当たるかどうかという問題は、逸失利益の性質論や年金の目的・機能などの問題と関連して議論があり、学説、下級審判決が区々に分かれていた問題である。
遺族年金には、厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金をはじめ、各種共済組合法に基づく遺族共済年金、恩給法に基づく扶助料など同種のものがあるが、最高裁の判断が示されておらず、下級審の判断も分かれていた。
2 各種公的年金の逸失利益性に関する最高裁の判断には次のようなものがある。
(1)恩給法に基づく普通恩給につき肯定するもの(最1小判昭和41・4・7民集20巻4号499頁、最3小判昭和59・10・9裁判集民事143号49頁、判例タイムズ542号196頁、最3小平成5・9・21裁判集民事169号793頁、判例タイムズ832号70頁)。
(2)各種共済組合法に基づく退職年金につき肯定するもの(最2小判昭和50・10・24民集29巻9号1379頁、最3小判昭和50・10・21裁判集民事116号307頁、判時799号39頁、最大判平成5・3・24民集47巻4号3039頁)、
(3)老齢年金につき肯定するもの(前掲・最3小平成5・9・21)、
(4)障害基礎年金、障害厚生年金につき肯定したが、子及び妻の加給分につき否定したもの(前掲・最2小判平成11・10・22民集53巻7号1211頁)。
3 以上のとおり、最2小判平成11・10・22を除く最高裁判例は、各種公的年金の逸失利益性を肯定するが、その理由として、
(1)年金の目的が「損失補償ないし生活保障を与えることを目的とするものであること」を挙げたり(前掲・最3小判昭和59・10・9など)、
(2)生命・身体による損害について差額説を前提として、平成均余命期間中に受給することができた年金は、被害者の損害に当たると述べていた(前掲・最大判平成5・3・24)。
 4 しかし、学説、特に社会保険法を専門とする学者は、このような判例の立場に反対し、
(1)「損失補償ないし生活保障」という包括的かつあいまいな概念は逸失利益性を肯定する理由とならない、
(2)年金は受給権者及びその者の収入に依存している家族の要扶養状態に応じて支給される給付であり、生活費に充てられないで蓄積されることは制度上予定されていないから、差額説に立っても損害はない、
(3)受給権者が死亡した場合に失われる利益の承継は、各年金制度の枠内で、一定の遺族に遺族年金が支給されるという形で図られており、これに加えて法定相続人に年金受給権の利益を享受させることは年金制度の構造に反する、
などと批判していた(保原喜志夫・判評318号35頁、岩村正彦・ジュリ1027号67頁、西村健一郎・リマークス1○号64頁、堀勝洋『社会保障法総論』268頁、松浦以津子・判評358号46頁など)。
 これに対して、各種年金は給与の後払い、過去の労務の対価等の性格を有するし、長年にわたって保険料を支払うことによって得たもので財産的性格を有するとの理由や差額説の立場から、判例の立場を支持する見解が実務家の間では有力である(広田富男・交通事故判例百選第2版114頁、塩崎勤「年金の逸失利益性」『交通事故賠償の新たな動向』326頁、南敏文「不法行為と年金給付」貞家退官記念『民事法と裁判上』414頁、野邊寛太郎「年金と逸失利益」『現代裁判法大系6』307頁など)。
5 右のような状況下において、前掲・最2小判平成11・10・22は、国民年金法30条に基づく障害基礎年金及び厚年法47条に基づく障害厚生年金につき逸失利益性を肯定する一方で、子と配偶者の加給分(国民年金法33条の2、厚年法50条の2)については逸失利益性を否定した。
右判決は、従前の判例の理由付けとは異なり、
(1)給付と拠出された保険料との間の牽連性及び、
(2)存続の確実性
という新たな2つの判断要素から逸失利益性を判断するという手法を採り、保険料が拠出されたことに基づく給付としての性質を有する障害基礎年金及び障害厚生年金については逸失利益性を肯定し、逆に、給付と拠出された保険料との牽連性がなく、また子の婚姻、配偶者の離婚等の事由により加算が終了されその存続が確実とはいえない加給分については逸失利益性を否定した。
 給付と保険料との牽連性によって逸失利益性が左右されるのは、牽連性が強いと給付には備蓄した給与の後払い、あるいは掛金の払戻しという性格が強くなって逸失利益性が肯定し易くなり、逆にこれが希薄だと社会保障的性格が強くなって逸失利益性を否定する方向に傾くとの趣旨ではないかと思われる。
また、年金の存続の確実性の点は、前掲・最大判平成5・3・24が、退職年金を受給していた被害者が死亡し、相続人が被害者の逸失利益を相続するとともに逸失利益の受給権を取得した場合、損益相殺として損害額から控除できる遺族年金は存続が確実なものに限られるとしていたところが考慮されているものと思われる。
6 前述のとおり、本件以前に、遺族年金については最高裁の判例はなく、下級審の判断も分かれ、実務家の論稿も逸失利益性を肯定する説(野邊寛太郎・前掲316頁など)と否定する説(南敏文・前掲415頁など)に分かれていた。
逸失利益性を肯定する裁判例として、大分地豊後高田支判昭和48・7・27判時717号83頁、札幌地判平成6・10・7自動車保険ジャーナル1108号2頁、大阪地判平成7・5・25交民28巻3号841頁、東京地判平成9・5・6交民30巻3号688頁などがあり、
他方、否定する裁判例としては、東京高判昭和48・7・23判時718号55頁、浦和地判昭和57・1・25交民15巻1号108頁、松山地判昭和61・5・26交民19巻3号688頁、大阪地判平成4・10・5交民25巻5号1189頁、東京地判平成6・11・25判時1535号105頁、大阪地判平成7・11・15判例タイムズ910号173頁、高松高判平成7・11・30交民28巻6号1542頁、東京地判平成7・12・13交民28巻6号1749頁、大阪地判平成9・11・20交民30巻6号1662頁などがある。
近時は、逸失利益性を否定するものが多数となりつつあり、本判決が掲げる理由のすべて又は一部を掲げるものが多い。
 そして、前掲・最2小判平成11・10・22が、障害年金の加給分について逸失利益性を否定したことから、遺族年金について最高裁がどのような判断をするかが注目されていたところである(南敏文・判例タイムズ1033号155頁、若林三奈・法時72巻9号99頁など)。
 本件判決は、遺族厚生年金の逸失利益性を否定する理由として、
(1)専ら受給権者自身の生計の維持を目的とした給付という性格を有するものであること、
(2)受給権者自身が保険料を拠出しておらず、給付と保険料との牽連性が間接的であり、社会保障的性格の強い給付であること、
(3)存続が不確実であること、
という3点を掲げている。
 この判断は、前掲・最2小判平成11・10・22の延長上にあるものと思われるが、本判決は、給付と保険料との牽連性、存続の確実性に加えて、遺族厚生年金が専ら受給権者自身の生計の維持を目的とした給付であることを指摘しており、これらの要素から判断される年金の目的・性格を考慮して逸失利益性を判断しているものと思われる。
つまり、遺族厚生年金は、受給権者自身の生計を維持するために所得の不足を補うという社会保障的性格が他の公的年金に比して強い給付であるから、他の公的年金と異なり、受給権者が死亡した場合に、加害者に賠償を求めることができる逸失利益が生ずるとはいえないと解しているものと思われる。
 なお、市議会議員の共済制度は、旧互助年金法に定められた制度であったものが、地方公務員等共済組合法に組み入れられたもので、いささか特殊な制度であるが(自治省行政局公務員部福利課『新地方公務員共済制度解説』731頁)、遺族年金の基本的構造は遺族厚生年金とほぼ同じであり、遺族厚生年金と目的、性格を同じくするので、本判決は同様に逸失利益性を否定している。
 本判決は、最高裁の判例が存在しなかった各種の遺族年金のうち、代表的な年金である遺族厚生年金について逸失利益性を否定したものであり、実務に与える影響も大きいので、紹介する次第である。なお、本判決と同日に言い渡された、最高裁判決平成12年11月14日、判例タイムズ1049号218頁の第3小法廷判決も参照されたい。