最高裁平成18年1月16日・刑集60巻1号1頁 - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
弁護士

注目の専門家コラムランキングRSS

対象:民事家事・生活トラブル

専門家の皆様へ 専門家プロファイルでは、さまざまなジャンルの専門家を募集しています。
出展をご検討の方はお気軽にご請求ください。

最高裁平成18年1月16日・刑集60巻1号1頁

- good

  1. 暮らしと法律
  2. 民事家事・生活トラブル
  3. 民事家事・生活トラブル全般
相続

最高裁平成18年1月16日・刑集60巻1号1頁
廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反被告事件

【判示事項】 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平成15年法律第93号による改正前のもの)25条4号にいう「第12条第3項(中略)の規定に違反して,産業廃棄物の処理を他人に委託した」の意義

【判決要旨】 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平成15年法律第93号による改正前のもの)25条4号にいう「第12条第3項(中略)の規定に違反して,産業廃棄物の処理を他人に委託した」とは,上記12条3項所定の者に自ら委託する場合以外の,当該処理を目的とするすべての委託行為をいう。

【参照条文】 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平15法93号改正前)25条
       廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平15法93号改正前)12条3項

 1 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平成15年法律第93号による改正前のもの。以下「廃棄物処理法」という。)12条3項は,「排出事業者は,産業廃棄物の処分を他人に委託する場合には,許可業者等に委託しなければならない」旨定め,同法25条4号は,「12条3項に違反して,産業廃棄物の処分を他人に委託した者」を処罰するとしている。
 本件は,この罰則により,木くず等の産業廃棄物の処分を無許可業者に委託したとして,排出事業者である被告会社とその代表者である被告人が起訴された事案である。委託先の業者は,産業廃棄物収集運搬業の許可を受けた業者ではあったが,処分業の許可は受けていなかったところ,被告会社は,この業者の下に木くず等の産業廃棄物を搬入し,処分費を含む処理費用を一括して支払った。業者は,受け入れた産業廃棄物を実際には処分場に持ち込むことなく,自ら野焼や不法投棄をするなどして,無許可で産業廃棄物を処分した。
 被告人は,捜査・公判で,「委託先の業者は正規の処分場に持ち込んで処理していたものと考えていた」旨弁解した。
 第1審判決は,上記罰則について明確な法解釈は示していないが,被告人の前記弁解を直ちに虚偽として排斥できないとし,本件では,故意の証明が不十分であるとして被告人らを無罪とした。
 2 これに対し,検察官が控訴し,法令適用の誤りの主張として,「廃棄物処理法25条4号により処罰されるのは,処分業の許可のない受託者自らに処分させる趣旨で委託した場合に限らず(この場合に限る,としたのが第1審判決の前提とした解釈であると検察官は理解したものと思われる。),受託者が他の者に処分を再委託することを予定して委託する場合も含むとし,仮に,委託者が,委託の時点で,再委託先として許可処分業者を具体的に指示していたとしても,処罰の対象となる」旨の法解釈を展開した。
 本件は,被告会社において,処分先や処分方法を具体的に指示した形跡はなく,いわば上記業者に対し丸投げして処分を委託した事案であって,控訴審判決は,このような場合は処罰の対象となるとし,被告人の故意を認めた上,第1審判決を事実誤認を理由に破棄し,第1審に差し戻した。しかし,その判文中では,委託に際し,「許可を受けた産業廃棄物処分業者のところまで運搬して処分を委託するように指示するなど,法が要求する適正な処理の努めを果たしたと評価されるような行動をした」場合には,処罰の対象とはならない旨の説示をし,検察官の主張する前記の解釈論は,立法政策としては魅力があるが,再委託する処分先を指示して委託した場合にまで処罰するのは行き過ぎであるとした。
 3 この控訴審判決に対し,被告人が上告し,弁護人は,上告趣意において,「排出事業者が,許可を受けた収集運搬業者に対し,引き渡した産業廃棄物の処分を一任して委託する行為は,違反行為を構成しないと解すベきである」などと主張した。
 本決定は,上告趣意は単なる法令違反の主張であり,刑訴法405条の上告理由に当たらないとしたが,職権で次のとおり判示し,原判決の前記法解釈を正した上で,上告を棄却した。
「上記25条4号にいう『第12条第3項(中略)の規定に違反して,産業廃棄物の処理を他人に委託した』とは,上記12条3項所定の者に自ら委託する場合以外の,当該処理を目的とするすべての委託行為を含むと解するのが相当であるから,その他人自らが処分を行うように委託する場合のみならず,更に他の者に処分を行うように再委託することを委託する場合も含み,再委託先についての指示いかんを問わないというべきである。」
 4 本件は,丸投げで無許可業者に処分を委託した場合であり,控訴審判決が故意を認定し,破棄・差戻しをした結論自体には誤りのないことは明らかであると思われる。しかし,控訴審判決の「再委託する処分先を指示して委託した場合にまで処罰するのは行き過ぎ」との解釈論については,次のような理由から採用し難いのではないかと思われる。
 すなわち,廃棄物処理法は,排出事業者に対し,自らの責任で適正に廃棄物を処理する責任を定め(法3条1項,11条1項),他人に処理を委託する場合には,許可を受けた処理業者等に処理を委託しなければならない旨規定し(法12条3項),その際,一定事項を記載した委託契約書を作成するなどの法所定の委託基準による義務(法12条4項,施行令6条の2)を課すとともに,産業廃棄物管理票(マニフェスト)を作成して受託者に交付し,産業廃棄物の最終処分終了まで確認させることとし(法12条の3),その履行担保のための関連罰則(管理票不交付の罪等。29条)も置き,排出事業者に対し適正処理の責任を最後まで持たせることとしている。これら法の仕組みからすると,排出事業者(なお,中間処理がされる場合は,「中間処理業者」を含む。法12条3項)は,収集運搬業者に対する収集運搬の委託契約とは別個に,「自ら」処分業者との間で委託契約を締結することが当然に予定されていると思われる。さらに,平成9年の法改正(平成9年法律第85号)により,無許可の処理業者が産業廃棄物の処理を受託することを禁止し(改正後14条9項,現14条13項),受託に止まり処理に至らなかった場合や自ら処理せずに他へ委託した場合でも,処罰の対象とされるようになった(改正後26条5号。現26条1項8号)。この受託禁止規定は,再委託を予定して処分を委託する排出事業者の行為に対応する,受託者側の行為の違法性を明らかにしたものといえる(増田啓祐「廃棄物の処理及び清掃に関する法律における受託禁止違反の罪等について」研修607号91頁)。
 このような法全体の趣旨,改正の経緯等に照らすと,決定要旨にあるとおり,「法12条3項に違反して,産業廃棄物の処理を他人に委託した」とは,同条所定の者に自ら委託する場合以外の,当該処理を目的とするすべての委託行為を含むと解するのが相当であり,排出事業者が処分業者との間で委託契約を締結せずに,原判決がいうように,委託の相手方に,「許可処分業者に処分を再委託するように指示する」ということは,そもそも法の予定していない行為であるといわざるを得ないように思われる。
 仮に,事業者が,控訴審判決がいうような「法が要求する適正な処理」,すなわち,収集運搬業者に対し,許可を受けた処分業者に処分を委託するように具体的な指示を与えたとしても,その収集運搬業者が許可を受けた処分業者に処分を委託する保障はなく,収集運搬業者としては,処分代金込みの委託料金から自らの利益を大きく得ようとして他に委託することなく自ら不法投棄等したり,低廉な料金の無資格処分業者に再委託したりするおそれもあり(現に,本件はそのような事案である。),法は,そのような事態が生じることも想定して,事業者(「中間処理業者」を含む。法12条3項参照)に対し,自ら許可を受けた処分業者に「直接」委託すべきことを求めたと思われる。したがって,具体的に処分先を指示したとしても,自らが直接許可処分業者に委託していない以上,そのような委託も違反行為に該当すると解するのが相当であろう。また,廃棄物処理法12条3項違反の罪は,委託行為(契約)の時点で成立する形式犯であるから,後に,仮に正規の業者に再委託され,かつ適正に処分がされたからといって,後発的に犯罪の成立が否定されるというのも不合理な解釈であると思われる。原判決の解釈を前提とすると,無許可業者により不法投棄等の不適正な処分がされた場合であっても,排出事業者は,再委託先として許可処分業者を指示していたから故意はない旨の弁解により、安易に罪を免れる余地を残すことになり,排出事業者に適正処理の責任を最後まで持たせようとした法の趣旨が損なわれることにもなろう。
 本決定は,このような考え方から,控訴審判決の法解釈を正し,前記のように判示したものと推察される。
 5 なお,本件に関連する裁判例として東京地判平1年11月2日・判タ718号211頁がある。上記裁判例は,無許可業者に対し産業廃棄物を委託したものとは認められないなどとして無罪を言い渡したものであるが,その中に,「本件証拠に現れた限りのものではあるが,道路工事等の業界の実情としては,委託の相手が収集・運搬について許可を有するにすぎない業者である場合でも,廃棄物の排出業者が直接処分先を確保することは少なく,処分先の確保については右収集・運搬業者に依存し一任していることが多いようである。この場合,処分について別に委託や指示をしていない以上,処分を含めて委託したと見るべきであるということになると,収集・運搬業者が,その後,資格を有する処分業者等に委託して適法な処分をした場合でも,収集・運搬業者に委託した時点で委託基準違反の罪が成立することになる。これは実害のない行為を処罰するものであって,妥当ではない。処分の不法について責任を問うのは,収集・運搬業者が無許可業者に対して処分の委託をするなど違法な行為に出た場合で足りる」旨の判示部分がある。この判示部分の趣旨は,「処分の委託」の事実認定の在り方に言及したものであって,必ずしも一定の解釈論を示したものではないと思われる。原判決の説示内容は,上記判示部分に類似するが,上記東京地裁判決の当時は,未だマニフェスト制度がなく,受託禁止規定も存在しなかった(受託行為が違法でないのに,それに対向する委託行為を処罰することには疑義があったともいえる。)のであるから,前提となる法の仕組み自体が大きく異なっており,その判示部分に示された価値判断は、法改正後は妥当するものではないと解される。
 6 廃棄物処理法25条4号にいう「他人に委託した」の意義について特に論じた文献はなく,公刊物に登載された裁判例としても,前記東京地裁判決があるにすぎない。本決定は,上記条項の意義について,一般的な法解釈を示したものであって,先例としての価値は大きいと思われる。