最高裁平成17年3月10日、土地明渡請求事件 - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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最高裁平成17年3月10日、土地明渡請求事件

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相続

最高裁平成17年3月10日、土地明渡請求事件
最高裁判所裁判集民事216号379頁、判例タイムズ1180号187頁

【判決要旨】 土地の賃借人が同土地を無断で転貸し,転借人が同土地に産業廃棄物を不法に投棄したという事実関係の下では,賃借人は,賃貸人に対して、賃貸借契約の終了に基づく原状回復義務として,転借人が不法に投棄した上記産業廃棄物を撤去すべき義務を負う。
【参照条文】 民法616条、 民法597条1項、 民法612条1項

1 本件は,Xらがその所有する土地(本件土地)をAに賃貸したところ,AがこれをBに無断転貸し,Bが同土地に大量の産業廃棄物等を埋めたことから,Xらが,賃貸借契約を解除した上,Aの連帯保証人であるYに対し,原状回復義務の不履行による損害賠償を求めた事案である。
 2 Xらは,本件土地を資材置場としてAに賃貸し,Yは,Aが賃貸借契約に基づき負担する債務につき連帯保証した。この賃貸借契約においては,無断転貸の禁止及び本件土地に産業廃棄物等を捨てないことが特約として定められていた。しかし,Aは,賃貸借契約締結の3日後,Xらに無断で本件土地をBに転貸した。そして,Bは,その後本件土地を産業廃棄物の処分場として使用し,本件土地には解体資材等の産業廃棄物が大量に投棄された。なお,AはBが本件土地に産業廃棄物を投棄するつもりであることは知らなかった。
 本件土地に産業廃棄物が投棄されていることを知ったXらは,本件賃貸借契約を無断転貸及び用法違反を理由として解除した。
しかし,Aは,本件土地を明け渡したものの、産業廃棄物を放置したため,Xらが,Aの保証人であるYに対し,賃貸借契約上の原状回復義務の不履行による損害賠償を求めたのが本件訴訟である。
 3 原審は,一般に,賃借人の連帯保証人は賃貸借契約の解除に伴う原状回復義務の不履行による損害賠償債務についても賃借人と同様の責任を負うとしながら,本件では,賃借人であるAは,Bが産業廃棄物を投棄することを前提として本件土地を転貸したのではないから,Bが単独で行った犯罪行為である産業廃棄物の投棄についてまで原状回復義務を負うものではないとして,Aの保証人であるYがこの点について責任を負う余地はないとし,Xらの請求を棄却した。
 これに対し,本判決は,不動産の賃借人は,賃貸借契約上の義務に違反する行為により生じた賃借目的物の毀損については,賃貸借契約終了時に原状回復義務を負うのであるから,本件のように,賃借人が賃貸借契約上の義務に違反して土地を無断で転貸し,その結果転借人が本件土地に産業廃棄物を不法に投棄したという事実関係の下では,Aは,本件土地の原状回復義務として,産業廃棄物を撤去すべき義務を免れることはできないとの判断を示した。そして,原判決を破棄し,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻した。
 4(1)一般に,賃借人は,賃貸借契約の終了に伴い目的物を返還するに際し,原状回復義務を負うと解されている。これは,明文の規定はないものの,民法616条の準用する民法597条1項の解釈として当然のことと解されている。
原状回復義務の内容及びその範囲については議論があり,通説は,賃借物が自然に又は使用収益の正常の過程において損傷した場合や,不可抗力により毀損したような場合には,これを現状のまま返還すれば足り,賃借人は原状回復義務を負わないと解している(『新版注釈民法(15)』302頁〔石外克喜〕)。しかし,少なくとも,賃借物の毀損について賃借人に帰責事由がある場合には,賃貸人の賃貸物の所有権侵害・賃貸借契約違反・不法行為に基づく損害賠償請求を理由として、賃借人が原状回復義務を負うことについて異論はない。
 これを本件について見ると,本件土地に産業廃棄物が投棄されたのは,Aが本件賃貸借契約上の義務に違反して本件土地をBに無断転貸した結果であるから,Aは,たとえBの産業廃棄物の投棄を予見していなかったとしても,原状回復義務を免れることはできないものと思われる。本判決は,ごく簡単な判示しかしていないが,このような趣旨でAの責任を肯定したものと考えられる。
(2)承諾のある転貸借の場合
転借人の行為につき賃借人がどの範囲で責任を負うかという点については,賃貸人の承諾を得た転貸借に関して、従来から議論がある。
大審院の判例は,転借人を賃借人の「履行補助者」類似の者として取り扱い,転借人の故意・過失を賃借人の故意・過失と同視するという理論構成により,転借人の失火により目的物が滅失した場合(大審院昭和4年6月19日・民集8巻10号675頁)や,船舶の賃貸借において転借人の過失により船舶が座礁難破した場合(大審院昭和4年3月30日・民集8巻6号363頁)につき,いずれも賃借人の損害賠償責任を認めている。
これに対し,学説は,大別して、以下の3つに分類できる。
[A]大審院判例に賛成する説(柚木馨・高木多喜男『判例債権法総論〔補訂版〕』95頁等)と,
[B]これに反対し,賃貸人の承諾を得た転貸借においては,賃借人は転借人の選任・監督に過失がある場合にのみ責任を負うとする有力説(我妻栄『民法講義Ⅳ』109頁,同「履行補助者の過失に因る債務者の責任」法協55巻7号1314頁等)、
[C]承諾を得た転貸借の場合を履行補助者の問題とは切り離し,民法613条の解釈問題として、賃借人は賃借物の使用収益に関する転借人の過失について担保責任を負うと考える説も有力である(加賀山茂・阪法103号113頁,平井宜雄『債権総論』86頁)。
(3)無断転貸の場合
 しかし,本件のように無断転貸がされた場合には,賃借人は,転借人の行為につき,無断転貸という自らの義務違反が招いた結果として当然に責任を負うと解するのが自然であるように思われ,この場合には,特に履行補助者という概念を持ち出すまでもなく,賃借人の責任を肯定することができると考えられる。本判決も,このような趣旨で,履行補助者の概念を持ち出すことなく,Aの責任を肯定したものと解される。
 5 本判決は,特に目新しい判断を示したものではないが,賃借人が負う原状回復義務の範囲について判示した最高裁判例として参考になる。