Blog201401、商標法(その1) - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
弁護士

注目の専門家コラムランキングRSS

対象:民事家事・生活トラブル

専門家の皆様へ 専門家プロファイルでは、さまざまなジャンルの専門家を募集しています。
出展をご検討の方はお気軽にご請求ください。

Blog201401、商標法(その1)

- good

  1. 暮らしと法律
  2. 民事家事・生活トラブル
  3. 民事家事・生活トラブル全般
相続

Blog201401、商標法(その1)

ブログ2014年1月

今月(2014年1月)は、独占禁止法、借地借家法、宅地建物取引業法、労働法、金融商品取引法、金融法、会社法、会社非訟、商標法、意匠法、不正競争防止法、信託法、破産法、土壌汚染対策法、行政法などに関するテーマを中心に、以下のコラムを作りamebro(アメーバ・ブログ)とAllAbout(専門家プロファイル)に掲載しました。


商標法

立体商標の登録要件
立体商標の登録要件として、著名性または周知性が必要である。
以下の条文が問題となる。
商標法第2条1項  商標法で「商標」とは、文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合(以下「標章」という。)であって、次に掲げるものをいう。
一  業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
二  業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)
(商標登録の要件)
第3条1項  自己の業務に係る商品・役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
三  その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。)、価格・生産・使用の方法・時期又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格・提供の方法・時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
五  極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標
六  前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品・役務であることを認識することができない商標
2  前項第3号から第5号までに該当する商標であっても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品・役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。
(商標登録を受けることができない商標)
商標法第4条1項  次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
十  他人の業務に係る商品・役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標・これに類似する商標であって、その商品・役務又はこれらに類似する商品・役務について使用をするもの
十一  当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標・これに類似する商標であって、その商標登録に係る指定商品・指定役務(第6条第1項(第68条第1項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品・役務をいう。)又はこれらに類似する商品・役務について使用をするもの
十五  他人の業務に係る商品・役務と混同を生ずるおそれがある商標(第1号から前号までに掲げるものを除く。)
十六  商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標
十八  商品・商品の包装の形状であって、その商品・商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標
十九  他人の業務に係る商品・役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一・類似の商標であって、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。)をもって使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)
(商標登録出願)
 商標登録を受けようとする商標が立体的形状(文字、図形、記号若しくは色彩又はこれらの結合との結合を含む。)からなる商標(以下「立体商標」という。)について商標登録を受けようとするときは、その旨を願書に記載しなければならない(商標法5条2項)。
 商標登録を受けようとする商標を記載した部分のうち商標登録を受けようとする商標を記載する欄の色彩と同一の色彩である部分は、その商標の一部でないものとみなす。ただし、色彩を付すべき範囲を明らかにしてその欄の色彩と同一の色彩を付すべき旨を表示した部分については、この限りでない(商標法5条4項)。


商標法
商標権の専用権・禁止権

専用権
商標法25条は、商標の専用権を定めている。ただし、その例外として、26条などがある。
(商標権の効力)
第25条  商標権者は、指定商品・指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。ただし、その商標権について専用使用権を設定したときは、専用使用権者がその登録商標の使用をする権利を専有する範囲については、この限りでない。

禁止権
商標法36条(差止請求権 )は、商標の専用権の範囲と一致する。
(注)また、差止請求権 以外に、損害賠償請求権(商標法38条、民法709条)、不当利得返還請求権(民法703条・704条)、信用回復措置請求権(商標法39条による特許法106条準用)、混同防止表示付加請求権(商標法32条2項、32条の2第2項、33条3項など)がある。

(差止請求権)
第36条  商標権者・専用使用権者は、指定商品・指定役務と「同一の指定商品・指定役務について、登録商標と同一の商標について」、自己の商標権・専用使用権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2  商標権者・専用使用権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。

商標法37条1号は、禁止権がおよぶことを規定している。
(侵害とみなす行為)
第37条1号  当該商標権・専用使用権を侵害するものとみなす。
1号は、以下のとおりに、分説できる。
①  指定商品・指定役務についての登録商標に「類似する商標」の使用
②  指定商品・指定役務に「類似する商品・役務」についての登録商標の使用
③  指定商品・指定役務に「類似する商品・役務」についての登録商標に「類似する商標」の使用

侵害とみなされる行為
第37条  次に掲げる行為は、当該商標権・専用使用権を侵害するものとみなす。
二  指定商品又は指定商品・指定役務に類似する商品であって、その商品・その商品の包装に登録商標・これに類似する商標を付したものを譲渡・引渡し・輸出のために所持する行為
三  指定役務又は指定役務・指定商品に類似する役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に登録商標・これに類似する商標を付したものを、これを用いて当該役務を提供するために所持し、又は輸入する行為
四  指定役務又は指定役務・指定商品に類似する役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に登録商標・これに類似する商標を付したものを、これを用いて当該役務を提供させるために譲渡し、引き渡し、又は譲渡・引渡しのために所持し、輸入する行為
五  指定商品・指定役務又はこれらに類似する商品・役務について登録商標・これに類似する商標の使用をするために登録商標・これに類似する商標を表示する物を所持する行為
六  指定商品・指定役務又はこれらに類似する商品・役務について登録商標・これに類似する商標の使用をさせるために登録商標・これに類似する商標を表示する物を譲渡し、引き渡し、又は譲渡・引渡しのために所持する行為
七  指定商品・指定役務又はこれらに類似する商品・役務について登録商標・これに類似する商標の使用をし、又は使用をさせるために登録商標・これに類似する商標を表示する物を製造し、輸入する行為
八  登録商標・これに類似する商標を表示する物を製造するためにのみ用いる物を業として製造し、譲渡し、引き渡し、輸入する行為

防護標章
周知商標について防護標章を登録している場合には、侵害とみなされる範囲が広がる(商標法67条)。
防護標章の登録の要件は商標法64条に規定されている。
商標法64条1項により、商品の商標権について、
商標権者は、
商品に係る登録商標が自己の業務に係る指定商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている場合において、
その登録商標に係る指定商品及びこれに類似する商品以外の商品又は指定商品に類似する役務以外の役務について
他人が登録商標の使用をすることによりその商品・役務と自己の業務に係る指定商品とが混同を生ずるおそれがあるときは、
そのおそれがある商品・役務について、
その「登録商標と同一の標章」についての防護標章登録を受けることができる。
商標法64条2項により、役務商標権について、
商標権者は、
役務に係る登録商標が自己の業務に係る指定役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている場合において、
その登録商標に係る指定役務及びこれに類似する役務以外の役務又は指定役務に類似する商品以外の商品について
他人が登録商標の使用をすることによりその役務・商品と自己の業務に係る指定役務とが混同を生ずるおそれがあるときは、
そのおそれがある役務・商品について、
その登録商標と同一の標章についての防護標章登録を受けることができる。
商標法64条3項により、地域団体商標について、
地域団体商標に係る商標権に係る防護標章登録についての商標法64条1項2項の規定の適用については、これらの規定中「自己の」とあるのは、「自己・その構成員の」とする。

(侵害とみなす行為)
第67条  次に掲げる行為は、当該商標権・専用使用権を侵害するものとみなす。
一  指定商品・指定役務についての登録防護標章の使用
二  指定商品であって、その商品・その商品の包装に登録防護標章を付したものを譲渡、引渡し又は輸出のために所持する行為
三  指定役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に登録防護標章を付したものを、これを用いて当該指定役務を提供するために所持し、又は輸入する行為
四  指定役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に登録防護標章を付したものを、これを用いて当該指定役務を提供させるために譲渡し、引き渡し、又は譲渡・引渡しのために所持し、若しくは輸入する行為
五  指定商品・指定役務について登録防護標章の使用をするために登録防護標章を表示する物を所持する行為
六  指定商品・指定役務について登録防護標章の使用をさせるために登録防護標章を表示する物を譲渡し、引き渡し、又は譲渡・引渡しのために所持する行為
七  指定商品・指定役務について登録防護標章の使用をし、又は使用をさせるために登録防護標章を表示する物を製造し、又は輸入する行為


商標権に対する商標法上の不服申立方法
・異議申立て
登録異議の申立て(商標法43条の2以下)。申立ができるのは、商標掲載公報の発行の日から2月以内に限られている。ただし、登録を維持する旨の決定には不服申立できない(商標法43条の3第5項)。

・無効審判
登録無効審判請求(商標権46条。除斥期間として商標法47条)

・取消審判
・不使用取消審判
商標登録の不使用取消の審判(商標法50条)
・不正使用取消審判
商標権者の故意による他人の登録商標と混同させる不正使用による商標登録取消(商標法51条)
商標権が移転された場合の不正競争目的の誤認混同による取消審判(商標法52条の2)
使用権者による商標権の誤認混同(商標法53条1項)
上記の不正使用取消の審判は、いずれも、商標の不正使用の事実がなくなった日から5年を経過した後は、請求することができない(除斥期間。商標法52条、52条の2第2項、53条3項)。
(注)商標法51条以下の「不正使用」は、他の周知・著名な商標と誤認混同、偽ブランドが典型例である。
・代理人による無断登録取消審判(商標法53条の2。 除斥期間につき商標法53条の3)。


商標法に関する最高裁判例
商標登録拒絶事由の商標法4条1項8号の「他人の名称の著名な略称を含む商標」
 最判平成17・7・22、国際自由学園事件、『商標・意匠・不正競争判例百選』10事件
商標法4条1項8号の趣旨は、人・法人等の肖像・氏名・名称等に対する人格的利益を保護することにあると解される。(注)
学校法人の名称である「学校法人自由学園」の略称「自由学園」が,教育及びこれに関連する役務に長期間にわたり使用され続け,書籍,新聞等で度々取り上げられており,教育関係者を始めとする知識人の間でよく知られているという事実関係の下においては,上記略称が学生等の間で広く認識されていないことを主たる理由として,「技芸・スポーツ又は知識の教授」等を指定役務とする登録商標「国際自由学園」が商標法4条1項8号所定の「他人の名称の著名な略称を含む商標」に当たらないとした原審の判断には,違法がある。
判決文によれば以下のとおりである。
 商標法4条1項は,商標登録を受けることができない商標を各号で列記しているが,需要者の間に広く認識されている商標との関係で商品・役務の出所の混同の防止を図ろうとする同項10号,15号等の規定とは別に,8号の規定が定められていることからみると,8号が,他人の肖像又は他人の氏名,名称,著名な略称等を含む商標は,その他人の承諾を得ているものを除き,商標登録を受けることができないと規定した趣旨は,人(法人等の団体を含む。以下同じ。)の肖像,氏名,名称等に対する人格的利益を保護することにあると解される。
すなわち,人は,自らの承諾なしにその氏名,名称等を商標に使われることがない利益を保護されているのである。
略称についても,一般に氏名,名称と同様に本人を指し示すものとして受け入れられている場合(注、著名な場合)には,本人の氏名,名称と同様に保護に値すると考えられる。
 そうすると,人の名称等の略称が8号にいう「著名な略称」に該当するか否かを判断するについても,常に,問題とされた商標の指定商品・指定役務の需要者のみを基準とすることは相当でなく,その略称が本人を指し示すものとして一般に受け入れられているか否かを基準として判断されるべきものということができる。
(注)商標法4条1項8号の制度趣旨が、出所の混同防止の目的ではなく、人の人格的利益の保護にあると解するのが判例( 最判平成16・6・8、LEONARD KAMHOUT事件、『商標・意匠・不正競争判例百選』11事件)・通説(特許庁『工業所有権逐条解説』、網野誠『商標』、渋谷達紀『知的財産法Ⅲ』)である。なお、少数説として、田村善之『商標法』参照。
商標法4条1項8号が、芸名等や略称について、著名な場合に限定した立法趣旨は、フルネームとは違って、一定の恣意性があるから、保護対象を著名な場合に限定した(前掲・特許庁『工業所有権逐条解説』)。
商標法4条1項8号  他人の肖像又は他人の氏名・名称・著名な雅号、芸名・筆名・これらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)


商標法4条1項8号の「他人の承諾」の有無の判断基準時
 最判平成16・6・8、LEONARD KAMHOUT事件、『商標・意匠・不正競争判例百選』11事件
商標法4条1項8号の趣旨は、人・法人等の肖像・氏名・名称等に対する人格的利益を保護することにあると解される。(注1)
 他人の肖像又は他人の氏名,名称,その著名な略称等を含む商標について商標登録を受けるために必要な当該他人の承諾の有無を判断する基準時は,商標登録査定又は拒絶査定の時(拒絶査定に対する審判が請求された場合には,これに対する審決の時)である。
判決文によれば以下のとおりである。
 商標法4条1項8号は,その括弧書以外の部分(以下,便宜「8号本文」という。)に列挙された他人の肖像又は他人の氏名,名称,その著名な略称等を含む商標は,括弧書にいう当該他人の承諾を得ているものを除き,商標登録を受けることができないとする規定である。その趣旨は,肖像,氏名等に関する他人の人格的利益を保護することにあると解される。したがって,8号本文に該当する商標につき商標登録を受けようとする者は,他人の人格的利益を害することがないよう,自らの責任において当該他人の承諾を確保しておくべきものである。
 また,3項は,8号に該当する商標であっても,商標登録出願の時(以下「出願時」という。)に8号に該当しないものについては,8号の規定を適用しない旨を定めている。
これ(商標法4条3項の立法趣旨)は,商標法4条1項各号所定の商標登録を受けることができない商標に当たるかどうかを判断する基準時が,原則として商標登録査定又は拒絶査定の時(拒絶査定に対する審判が請求された場合には,これに対する審決の時。以下「査定時」と総称する。)であることを前提として,出願時には,他人の肖像又は他人の氏名・名称・その著名な略称等を含む商標に当たらず,8号本文に該当しなかった商標につき,その後,査定時までの間に,出願された商標と同一名称の他人が現れたり,他人の氏名の略称が著名となったりする等の出願人の関与し得ない客観的事情の変化が生じたため,その商標が8号本文に該当することとなった場合に,当該出願人が商標登録を受けられないとするのは相当ではないことから,このような場合には商標登録を認めるものとする趣旨の規定であると解される。
 8号及び3項の上記趣旨にかんがみると,3項にいう出願時に8号に該当しない商標とは,出願時に8号本文に該当しない商標をいうと解すべきものであって,出願時において8号本文に該当するが8号括弧書の承諾があることにより8号に該当しないとされる商標については,3項の規定の適用はないというべきである。
したがって,出願時に8号本文に該当する商標について商標登録を受けるためには,査定時において8号括弧書の承諾があることを要するのであり,出願時に上記承諾があったとしても,査定時にこれを欠くときは,商標登録を受けることができないと解するのが相当である。
 (参照条文)
商標法4条1項8号  他人の肖像又は他人の氏名・名称・著名な雅号、芸名・筆名・これらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)
商標法4条3項  第1項第8号、第10号、第15号、第17号又は第19号に該当する商標であっても、商標登録出願の時に当該各号に該当しないものについては、これらの規定は、適用しない。 (注2)
(注1)商標法4条1項8号の制度趣旨が、出所の混同防止の目的ではなく、人の人格的利益の保護にあると解するのが判例( 最判平成17・7・22、国際自由学園事件、『商標・意匠・不正競争判例百選』10事件)・通説(特許庁『工業所有権逐条解説』、網野誠『商標』、渋谷達紀『知的財産法Ⅲ』)である。なお、少数説として、田村善之『商標法』参照。
(注2)商標法4条3項の出願の後における事情としては、例えば、出願後に他人の略称・芸名などが著名になった場合(4条1項8号)、出願後に他人の商標が周知性を獲得した場合(4条1項10号)などである。


商標の類否判断、氷山印事件
最高裁昭和43・2・27、『商標・意匠・不正競争判例百選』15事件、氷山印事件
商標の類否判断に関するリーディング・ケースである。
[判決要旨] 糸一般を指定商品とし「しようざん」の称呼をもつ商標と硝子繊維糸のみを指定商品とし「ひようざん」の称呼をもつ商標とでは、右両商標が外観および観念において著しく異なり、かつ、硝子繊維糸の取引では、商標の称呼のみによって商標を識別しひいて商品の出所を知り品質を認識するようなことがほとんど行なわれないのが実情であるときは、両者は類似でないと認めるのが相当である。
判決文によれば以下のとおりである。
 商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。
 ところで、本件出願商標は、硝子繊維糸のみを指定商品とし、また商標の構成のうえからも硝子繊維糸以外の商品に使用されるものでないことは明らかである。従って、原判決が、その商標の類否を判定するにあたり、硝子繊維糸の現実の取引状況を取りあげ、その取引では商標の称呼のみによって商標を識別し、ひいて商品の出所を知り品質を認識するようなことはほとんど行なわれないものと認め、このような指定商品に係る商標については、称呼の対比考察を比較的緩かに解しても、商品の出所の誤認混同を生ずるおそれがない旨を判示したのを失当ということはできない。
論旨は、これに対して、原判決は商号取引一般の経験則を商標の類否の判断に適用する過誤をおかしたものと非難するが、原判決は、硝子繊維糸の取引において、商標が商品の出所を識別する機能を有することを無視したわけではなく、そこには商標の称呼の類似から商品の出所の混同を生ずるというような一般取引における経験則はそのままには適用しがたく、商標の称呼は、取引者が商品の出所を識別するうえで一般取引におけるような重要さをもちえない旨を判示したものにほかならない。
 また論旨は、硝子繊維糸取引の実情に関する原判示をもって、それは実験則といえるほどの普遍性も固定性もないもので、新製品開発当初の特殊事情に基づく過去の一時的変則的な取引状況のように主張するが、原判決が認定したところは、本件出願商標の出願当時およびその以降における硝子繊維糸の取引の状況であって、かつ、それが所論のように局所的あるいは浮動的な現象と認めるに足りる証拠もない。
 本件についてみるに、出願商標は氷山の図形のほか「硝子繊維」、「氷山印」、「日東紡績」の文字を含むものであるのに対し、引用登録商標は単に「しようざん」の文字のみから成る商標であるから、両者が外観を異にすることは明白であり、また後者から氷山を意味するような観念を生ずる余地のないことも疑なく、これらの点における非類似は、原審において上告人も争わないところである。
そこで原判決は、上記のような商標の構成から生ずる称呼が、前者は「ひようざんじるし」ないし「ひようざん」、後者は「しようざんじるし」ないし「しようざん」であって、両者の称呼が比較的近似するものであるとしても、その外観および観念の差異を考慮すべく、単に両者の抽出された語音を対比して称呼の類否を決定して足れりとすべきでない旨を説示したものと認められる。
そして、原判決は、両商標の称呼は近似するとはいえ、なお称呼上の差異は容易に認識しえられるのであるから、「ひ」と「し」の発音が明確に区別されにくい傾向のある一部地域があることその他諸般の事情を考慮しても、硝子繊維糸の前叙のような特殊な取引の実情のもとにおいては、外観および観念が著しく相違するうえ称呼においても右の程度に区別できる両商標をとりちがえて商品の出所の誤認混同を生ずるおそれは考えられず、両者は非類似と解したものと理解することができる。
原判決が右両者は称呼において類似するものでない旨を判示した点は、論旨の非難するところであるが、硝子繊維糸の取引の実情に徴し、称呼比考察を比較的緩かに解して妨げないこと前叙のとおりであって、この見地から右の程度の称呼の相違をもってなお非類似と解したものと認められる右判示を、あながち失当というべきではない。


結合商標の類否判断
 最判平成5年9月10日、『商標・意匠・不正競争判例百選』16事件、SEIKO EYE事件
我が国における著名な時計等の製造販売業者の取扱商品ないし商号の略称を表示する文字である「SEIKO」と、眼鏡と密室に関連しかつ一般的、普通的文字である「EYE」との結合から成り、時計・眼鏡等を指定商品とする商標「SEIKO EYE」中の「EYE」の部分のみからは、出所の識別標識としての称呼、観念は生じない。
 審決引用商標「SEIKO EYE」は、眼鏡をもその指定商品としているから、右商標が眼鏡について使用された場合には、審決引用商標の構成中の「EYE」の部分は、眼鏡の品質、用途等を直接表示するものではないとしても、眼鏡と密接に関連する「目」を意味する一般的、普遍的な文字であって、取引者、需要者に特定的、限定的な印象を与える力を有するものではないというべきである。一方、審決引用商標の構成中の「SEIKO」の部分は、わが国における著名な時計等の製造販売業者である株式会社服部セイコーの取扱商品ないし商号の略称を表示するものであることは原審の適法に確定するところである。
 そうすると、「SEIKO」の文字と「EYE」の文字の結合から成る審決引用商標が指定商品である眼鏡に使用された場合には、「SEIKO」の部分が取引者、需用者に対して商品の出所の識別標識として強く支配的な印象を与える(注、これを「要部」という。)から、それとの対比において、眼鏡と密接に関連しかつ一般的、普遍的な文字である「EYE」の部分のみからは、具体的取引の実状においてこれが出所の識別標識として使用されている等の特段の事情が認められない限り、出所の識別標識としての称呼、観念は生じず、「SEIKO EYE」全体として若しくは「SEIKO」の部分としてのみ称呼、観念が生じるというべきである。
(参照条文)
商標法4条1項


商標の類似、木林森事件
最高裁平成4年9月22日
「大森林」の楷書体の漢字から成る登録商標と「木林森」の行書体の漢字から成る商標は、全体的に観察し対比してみて、少なくとも外観、観念において紛らわしい関係にあり、取引の状況によっては、類似する関係にあるものと認める余地がある
(参照条文)
商標法36条、商標法37条
 1 上告人は、昭和五八年一二月八日商標登録出願、同六一年四月二三日設定登録、指定商品を第四類「せっけん類、歯みがき、化粧品、香料類」とする登録商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)を有している。本件商標は、「大森林」の漢字を楷書体で横書きした文字から成る。
 2 被上告人は、化粧品等の製造販売を業とするが、頭皮用育毛剤及びシャンプー(以下「被上告人商品」という。)に、第一審判決別紙標章目録記載の各標章(以下「被上告人標章」という。)を付して販売し、また、広告宣伝に被上告人標章を付している。被上告人標章は、「木林森」の漢字を行書体で縦書き又は横書きした文字から成る。
 原審は、右事実関係の下において、被上告人標章は、外観、称呼及び観念のいずれについてみても本件商標に類似するものではなく、また、これらを総合して考察しても、被上告人標章は本件商標に類似するものではないと認定判断し、被上告人標章が本件商標に類似することを前提として被上告人商品の製造販売の差止め等を求める上告人の本訴請求を棄却した第一審判決に対する上告人の控訴を棄却した。
 二 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 1 商標の類否は、同一又は類似の商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、しかもその商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものであって(最高裁昭和43年2月27日判決・民集二二巻二号三九九頁参照)、綿密に観察する限りでは外観、観念、称呼において個別的には類似しない商標であっても、具体的な取引状況いかんによっては類似する場合があり、したがって、外観、観念、称呼についての総合的な類似性の有無も、具体的な取引状況によって異なってくる場合もあることに思いを致すべきである。
 2 本件についてこれをみるのに、本件商標と被上告人標章とは、使用されている文字が「森」と「林」の二つにおいて一致しており、一致していない「大」と「木」の字は、筆運びによっては紛らわしくなるものであること、被上告人標章は意味を持たない造語にすぎないこと、そして、両者は、いずれも構成する文字からして増毛効果を連想させる樹木を想起させるものであることからすると、全体的に観察して対比してみて、両者は少なくとも外観、観念において紛らわしい関係にあることが明らかてあり、取引の状況によっては、需要者が両者を見誤る可能性は否定できず、ひいては両者が類似する関係にあるものと認める余地もあるものといわなければならない。
 3 原審は、観念による類否について説示するに当たり、本件商標及び被上告人標章が付されている頭皮用育毛剤等の需要者は育毛、増毛を強く望む男性であるところ、かかる需要者は当該商品に付された標章に深い関心を抱き、注意深く商品を選択するものと推認されるなどとしているのであるが、必ずしも右のような需要者ばかりであるとは断定できないことは経験則に照らして明らかであるし、上告人は、本件商標権について通常使用権を許諾し、通常使用権者は薬用頭皮用育毛料に本件商標を付してその関連会社に販売させていると主張しているのであるから、この主張事実から現れる可能性のある商品の取引の状況も勘案した上、本件商標と被上告人標章との類否判断がされなければならない。
したがって、原審がした右の推認事実のみをもってしては、両者が類似しないとする理由として十分でないといわざるを得ない。
原審は、右のほかに、本件商標が使用される指定商品の想定可能な取引の状況及び被上告人標章が使用された被上告人商品について現に行われている取引の状況を考慮しても、両者は観念において類似するものと認めることはできないとしたのみであり、被上告人商品が訪問販売によっているのかあるいは店頭販売によっているのか、後者であるとしてその展示態様はいかなるものであるのかなどの取引の状況についての具体的な認定のないままに、本件商標と被上告人標章との間の類否を認定判断したものであって、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の解釈適用の誤りないしは理由不備の違法があるというべきである。


「商標」の類似
他人の商標と同一または類似の商標は、登録を受けることができない(商標法4条1項10号、11号,12号,15号,16号、19号、商標法5条)。そこで、商標の類似が問題となる。
(商標登録を受けることができない商標)
第4条1項  次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
十  他人の業務に係る商品・役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標・これに類似する商標であって、その商品・役務又はこれらに類似する商品・役務について使用をするもの
十一  当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標・これに類似する商標であって、その商標登録に係る指定商品・指定役務(第6条第1項(第68条第1項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品・役務をいう。)又はこれらに類似する商品・役務について使用をするもの
十二  他人の登録防護標章(防護標章登録を受けている標章をいう。)と同一の商標であって、その防護標章登録に係る指定商品・指定役務について使用をするもの
十五  他人の業務に係る商品・役務と混同を生ずるおそれがある商標(第1号から前号までに掲げるものを除く。)
十六  商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標
十九  他人の業務に係る商品・役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一・類似の商標であって、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。)をもって使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)
3  第1項第8号、第10号、第15号、第17号又は第19号に該当する商標であっても、商標登録出願の時に当該各号に該当しないものについては、これらの規定は、適用しない。


最高裁昭和31・7・3、コーラコーラ事件
 「Coca Cola」なる文字で示した商標と「Cola Cola」なる文字の部分を要部とし、これと図形、記号との結合、着色による商標とは、称呼上および外観上類似し、両商標は「類似ノ商標」というべきである。

最高裁昭和35・10・4、シンガーミシン事件
 「シンガーミシン」がその呼称で世界的に著名な裁縫機械として取引されているという取引事情の下では、裁縫機械を指定商品とする商標「シンカ」と「シンガー」とは類似するものと認めるべきである。

商標の類似判断
最高裁昭和36・3・26
一つの商標から二つの称呼を生ずるものと認定しても差支えない。
判決文によれば以下のとおりである。
 商標の一部が圧倒的に重要であり他の部分が附加されているに過ぎないような場合は格別、本件出願商標のような図形においては、二つの称呼が出ることも考えられないことではない。原判決が、右商標について、「亀甲」の称呼、観念を生ずるとともに、「三桝」の称呼、観念を生ずる旨を認定したことをもつて違法とすべき理由はない。

最高裁昭和38・12・5、リラ宝塚事件
一 1個の商標から二つ以上の称呼、観念が生ずる場合、一つの称呼、観念が他人の商標の称呼、観念と同一または類似であるとはいえないとしても、他の称呼、観念が他人の商法のそれと類似するときは、両商標はなお類似するものと解するのが相当である。
二 石鹸を指定商品とし、リラと呼ばれる抱琴の図形と「宝塚」の文字との結合からなる商標は、判示のような事実関係のもとにおいては、リラ宝塚印の称呼、観念のほかに、単に宝塚印なる称呼、観念も生ずるから、同じく指定商品を石鹸とする商法「宝塚」と類似するものと認めるべきである。

特別顕著性―自他識別性
最高裁昭和50・4・8、雷おこし事件
いわゆる「雷おこし」に関する商標中の「雷おこし」の文字及びこの文字に添えて描かれる雷神等の図形につき、なんら商品の出所を表示するに足りる特別顕著性がないとされた事例
判決文によれば以下のとおりである。
 原判決は、いわゆる「雷おこし」(又は「雷おこし」。以下単に「雷おこし」という)につき、その由来、江戸時代末期から本件審決当時までの製造販売に関する実情、品質形状、浅草等の風物に関する文献・辞典類等における取扱い等に関して事実認定したうえ、右各事実によれば、おそくとも本件商標の登録出願がされた昭和11年頃には、当該取引業者たると需要者たるとを問わず、「雷おこし」の名称をもって、何びとか特定の業者の商品にのみ用いられるべき商標であると認識する者はなく、古くから浅草雷門附近で製造販売されてきた認定のような品質形状のおこしを指称する普通名称として、このような商品に付して自由に使用される語であると一般に認識され、そして、「雷おこし」の語に添えて古くから右の商品の包装、看板などに描かれ用いられてきた雷神等の図形も、それ自体は、「雷おこし」の文字と併用されることにより、雷おこしという商品を印象づけるにすぎない、何びとも自由に使用しうる慣用的な図形として一般に認識されていたというべきであり、そのような世人一般の認識は、本件審決の当時においてもなお存在していたというべきであるから、本件商標の構成中の「雷おこし」「元祖」「浅草雷門角」の文字と、雷神、連鼓、雷光、雲、寺院の堂塔等の図形は、それら個々のものとしてはなんら商品の出所を表示するに足りる特別顕著性がないとし、結局、本件のイ号、ロ号各標章は本件商標の権利範囲に属するものではないとしているのである。
(注)特別顕著性は、旧商標法の条文の用語である。現行商標法の講学上の用語では、「自他識別性」という。
現行商標法では、登録要件である商標法3条1項1号(普通名称)または2号(慣用商標)に該当し、かつ商標法3条2項には該当しないから、商標登録できない。