意匠法3条の解釈が問題となった昭和49年最高裁判決 - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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意匠法3条の解釈が問題となった昭和49年最高裁判決

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相続

意匠法3条の解釈が問題となった昭和49年最高裁判決

 意匠の登録要件

(ⅰ)新規性(意匠法3条1項2号)、

(ⅱ)創作容易性(意匠法3条2項)

(ⅲ)先願(意匠法9条1項2項)

(意匠登録の要件)

意匠法第3条  工業上利用することができる意匠の創作をした者は、次に掲げる意匠を除き、その意匠について意匠登録を受けることができる。

 意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠

 意匠登録出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠

 前2号に掲げる意匠に類似する意匠

 意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状・模様・色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたときは、その意匠(前項各号に掲げるものを除く。)については、前項の規定にかかわらず、意匠登録を受けることができない。

新規性(意匠法3条1項)と創作容易性(意匠法3条2項)との関係

最高裁昭和49・3・19、『商標・意匠・不正競争判例百選』49事件、可撓伸縮ホース事件

(判決要旨)意匠法3条2項は、同一又は類似の物品の意匠についても適用がある。

判決文が長文で分りにくいので、分りやすく書き下してみました。

・意匠法3条1項と3条2項との関係

・意匠法3条1項

意匠は物品と一体をなすものであるから、登録出願前に日本国内・外国において公然知られた意匠又は登録出願前に日本国内・外国において頒布された刊行物に記載された意匠と同一又は類似の意匠であることを理由として、意匠法31項により登録を拒絶するためには、まずその意匠にかかる物品が同一又は類似であることを必要とし、更に、意匠自体においても同一又は類似と認められるものでなければならない。

3条1項3号は、意匠権の効力が、登録意匠に類似する意匠すなわち登録意匠にかかる物品と同一又は類似の物品につき一般需要者に対して登録意匠と類似の美感を生ぜしめる意匠にも及ぶものとされている(意匠法23条)ところから、右のような物品の意匠について一般需要者の立場からみた美感の類否を問題とする

・意匠法3条2項

3条1項が具体的な物品と結びついたものとしての意匠の同一又は類似を問題とするのに対して、3条2項は観点を異にし、物品との関係を離れた抽象的なモチーフとして日本国内において広く知られた形状・模様・色彩又はこれらの結合を基準として、それから当業者が容易に創作することができた意匠でないことを登録要件としたものであり、そのモチーフの結びつく物品の異同類否はなんら問題とされていない。

32項は、物品の同一又は類似という制限をはずし、社会的に広く知られたモチーフを基準として、当業者の立場からみた「意匠の着想の新しさ・独創性」(すなわち、「創作容易」でないこと)を問題とするものであって、両者(3条1項と2項)は考え方の基礎を異にする規定であると解される。

・3条1項と3条2項との関係

したがって、同一又は類似の物品に関する意匠相互間においても、その意匠的効果の類否による3条1項3号の類似性の判断と、その一方の意匠の形状・模様・色彩等に基づいて当業者が容易に他方の意匠を創作することができたかどうかという3条2項の創作容易性の判断とは必ずしも一致するものではない。

・3条の具体的な適用

3条1項3号に該当する類似意匠であって、しかも3条2項の創作が容易な意匠にも当たると認められる場合がある。ただし、この場合には、3条2項かっこ書により、3条1項の規定を適用して登録を拒絶すれば足りるものと規定されている。
 他方、意匠的効果が異なるため類似意匠とはいえず意匠法3条1項は適用されないが、3条2項の創作容易性は認められ、意匠の登録が拒絶されるという場合もあり得る。

・意匠法改正前49条との関係は省略する。

 

最高裁昭和50・2・28、『商標・意匠・不正競争判例百選』100頁、帽子事件

意匠法3条1項3号の類似と意匠法3条2項の創作の容易とは、考え方の基礎を異にするものであって、右の意匠法3条1項3号の「類似」の意味を意匠法3条2項の「創作の容易」と同義に解することはできない(前記最高裁昭和49・3・19と同旨)。

上記の2つの判決を受けて、平成18年改正により、意匠法24条2項が新設された。

(登録意匠の範囲等)

意匠法第24条  登録意匠の範囲は、願書の記載及び願書に添附した図面に記載され又は願書に添附した写真、ひな形若しくは見本により現わされた意匠に基いて定めなければならない。

2  登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする。

(注)意匠法24条2項における「需要者」は「取引者、一般需要者」と解されている(産業構造審議会知的財産政策部会意匠制度小委員会)。