学生生活を終え長野に戻ってから本物を観たい聴きたいという思いが強くなりました。
埼玉に住んでいた学生時代は時間とお財布の中身の都合がつく限り都内のコンサートホールへ通いました。
地元でもなるべくホールに通っていますが、音楽以外のものでも本物に触れるよう心がけています。
その中で「映画館で映画を観る」ということに出会いました。
このコラムでも時々私が観た映画について書きましたが「シネコラ」と通しのタイトルをつけて、最近観た作品から一作品を取り上げ「シネマのコラム」を綴りたいと思います。
一番難しいのはネタバレにならないようにかつ作品の魅力を伝える、ということですががんばります。
今回は「二郎は鮨の夢を見る」。
アメリカ映画で、原題は「JIRO DREAMS OF SUSHU」。
東京銀座にある鮨店「すきやばし次郎」の店主、小野二郎さんとその周りの人々を追ったドキュメンタリー作品。
ニューヨークのわずか2館の映画館から上映をスタートしたのですが瞬く間に口コミで全米に伝わり、ドキュメンタリー映画としては異例の大ヒットと遂げた作品です。
ところで小野二郎さんって何者? かというと「ミシュランガイド東京」で6年連続三ツ星の評価を受けた鮨職人、といえばどれだけ注目されている人かがわかると思います。
御年87歳の現役の鮨職人です。
二郎さんや二郎さんのお弟子さん、親子であり師弟でもある2人の息子さんが鮨について、仕事について、人生について、の熱い思いを語っているインタビューを聴くと名言が泉のように湧き出ていて端からメモしたい言葉が流れ出ています。
ひとつのことを突き詰め、自分と向き合い、仕事と向きあうことで職人として自らの言葉を持つことができるのだと感じました。
2つだけ紹介。
「上と前をみるんだよ。」
昨日よりいいものを、昨日より更にうまい鮨を目指してるんだ。
多少のことがあってもうじうじと過去は見ない。前向きでいかなきゃ。
映画の中でインタビューを受けていた山本益博氏は、
「二郎さんの握る鮨はねえ、コンチェルトなんですよ。上質な音楽なんです。
急緩のような波があって、名人芸があって。」
音楽にも造詣の深い山本さんならではの言葉です。
この映画の中では有名な曲から現代的な曲まで多くのクラシック音楽が使われていました。
それはまるで鮨職人として伝統的なものを引き継ぐことと、伝統にのっとりながらも自らの創意工夫を重ねた鮨、すなわち一番新しい鮨、とを音楽も使いながら演出しているように感じました。
チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲から華々しく始まり、現代ものとしてはフィリップ・グラスの弦楽四重奏などが使われています。
バッハの無伴奏チェロソナタも一工夫して使われたものも印象的でした。
今日本では世界中の優れた映画を上映しているミニシアター(単館映画館)が閉館となっています。
最近の話題では銀座シネパドスや銀座テアトルシネマの閉館という残念なニュースをご存知の方もおられると思います。
町の映画館だけでなくシネコンですら存続するのが厳しい状況になっています。
家で観るDVDとは違う迫力のある大画面、優れた音響を体感しながら観る映画は総合芸術として大変素晴らしいものです。
映画館に足を運び劇場で鑑賞することで映画という貴重な文化を守る事に繋がります。
私も劇場に足を運び「映画館で映画を観る」ことを楽しみながら感性を磨きたいと思います。
※追記
ラジオを聴きながらこの原稿を書いていた時、5月に閉館になる銀座テアトルシネマの支配人、野崎千夏さんのインタビューが流れてきました!
偶然性に驚きました。
閉館まで残り少ない時間ではありますが上質な映画をお客様に提供したい、と明るく話す声が印象的でした。
このコラムの執筆専門家
- 成澤 利幸
- (長野県 / 音楽家、打楽器奏者)
- 成澤打楽器音楽教室
音楽はみんなのもの
楽器の演奏は専門家からのちょっとしたアドバイスによりスムーズに上達したり音楽の奥深さに触れることがあります。ドラムやマリンバ、いろいろな打楽器のレッスンを通して皆さんのお力になれればと思います。
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