別居8年で有責配偶者からの離婚請求を認めるべきとされた判例 - 離婚問題全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
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別居8年で有責配偶者からの離婚請求を認めるべきとされた判例

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最高裁判所平成2年11月8日判決、家庭裁判月報43巻3号72頁、最高裁判所裁判集民事161号203頁、判例タイムズ745号112頁

 

【判示事項】

有責配偶者からの離婚請求において別居期間が相当の長期間に及んだものとされた事例

【判決要旨】

有責配偶者である夫からされた離婚請求において、夫が別居後の妻子の生活費を負担し、離婚請求について誠意があると認められる財産関係の清算の提案をしているなど判示の事情のあるときは、約8年の別居期間であっても、他に格別の事情のない限り、両当事者の年齢及び同居期間との対比において別居期間が相当の長期間に及んだと解すべきである。

 

 

一 原審が確定した事実関係は、次のとおりである。

  (1) 上告人と被上告人とは、昭和33年5月婚姻し、昭和36年6月に長男を、昭和39年4月に二男をそれぞれもうけた(原審の口頭弁論が終結した平成元年1月において、上告人は52歳、被上告人は55歳、長男は29歳、二男は24歳である。)。

  (2) 上告人は、婚姻後の約3年間は被上告人の父方におけるロープとシートの製造販売等の仕事を手伝っていたが、その後、被上告人と共に独立して同種の商売を始めた。しかし、商売のやり方について、上告人と被上告人との意見が異なることが多く、口論が絶えず、上告人は被上告人が商売から手を引いて専業主婦となることを望み、被上告人は昭和44年ころから商売への関与を止めた。上告人は、昭和47年ころ、世田谷区代沢一丁目所在の建物の建替えを計画していたところ、被上告人から反対されたため、これを断念した。上告人は、昭和56年夏ころ、被上告人に対して「一人になって暫く考えたい、疲れた。」と言って、被上告人と同居していた家を出て別居し、当初の2、3か月間は週に2日位は被上告人方に帰って来ていたが、その後はこれも止め、現在に至っている。

  (3) 上告人は、右別居の前から訴外人と情交関係があり、右別居後に同人と同棲するようになり、間もなく同人とは別れたものの、被上告人及び子らに自己の住所を明かさず、被上告人との連絡も上告人の仕事上の事務所にさせている。

  (4) 上告人は、被上告人に対する生活費として、昭和61年2月ころまでは月額60万円を、その後は35万円を交付してきたが、被上告人が上告人名義の不動産の持分2分の1に対して処分禁止の仮処分の執行をしたことに立腹して、昭和62年1月から右金員の交付を中止した。しかし、その後、婚姻費用分担の調停が成立し、上告人は昭和63年5月からは被上告人に対して月額20万円を送金しており、被上告人は、ほかに内職により月額6万円の収入を得ている。

  (5) 上告人は、従来、離婚に伴う財産関係の清算として、被上告人の居住している上告人名義の土地建物を処分し、抵当権の被担保債務を弁済した残金を被上告人と折半するという提案をしていたが、原審の和解においては、処分代金から税金、手数料等の経費を控除した残金を折半し、抵当権の被担保債務は上告人の取得分の中から弁済するとの譲歩案を示している。

  (6) 長男は、法政大学大学院を修了して、現在、国費留学生としてフランスに留学中であり、二男は、千葉大学工学部に在学中であり、その学費等は、本人のアルバイトのほか被上告人の収入から賄われており、両名との離婚については、被上告人の意思に任せる意向である。

  二 原審は、右事実関係に基づき、次の理由により上告人の離婚請求を棄却した。

  (1) 上告人と被上告人との婚姻関係は既に破綻し、回復の見込みはないが、その原因は、上告人が守操義務及び同居義務に違反して、訴外人と情交関係をもち、被上告人と別居して同訴外人と同棲するようになり、間もなく同人とは別れたものの、その後も被上告人には住所さえ知らせず別居を継続していることにあるから、本件における婚姻関係の破綻についての責任は、専ら上告人の側にある。

  (2) 上告人と被上告人との間の子らは、いずれももはや未成熟子ということはできない。また、上告人から被上告人に対しては、財産関係の清算について具体的で相応の誠意があると認められる提案がされており、離婚が認容されこの提案が実行された場合には、現在の生活と比べて、被上告人が社会的・経済的により不利な状態に置かれるとは考えられない。

  (3) しかし、被上告人は、現在においても、上告人との婚姻関係の継続を希望しており、本件での約8年の別居は、当事者の年齢、同居期間と対比して考えた場合、いまだ有責配偶者としての上告人の責任と被上告人の婚姻関係継続の希望とを考慮の外に置くに足りる相当の長期間ということはできない。かえって、現段階において被上告人の意に反して上告人からの離婚請求を認めることは、自ら婚姻関係破綻の原因を作出した上告人がこれを理由として離婚の請求をすることを安易に承認する結果となって、相当でない。

  三 しかし、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

 別居期間が相当の長期間に及んだかどうかを判断するに当たっては、別居期間と両当事者の年齢及び同居期間とを数量的に対比するのみでは足りず、右の点(最判昭和62年大法廷判決が示した3つの基準)をも考慮に入れるべきである。

事実関係によれば、上告人と被上告人との別居期間は約8年ではあるが、上告人は、別居後においても被上告人及び子らに対する生活費の負担をし、別居後間もなく不貞の相手方との関係を解消し、更に、離婚を請求するについては、被上告人に対して財産関係の清算についての具体的で相応の誠意があると認められる提案をしており、他方、被上告人は、上告人との婚姻関係の継続を希望しているとしながら、別居から5年余を経たころに上告人名義の不動産に処分禁止の仮処分を執行するに至っており、また、成年に達した子らも離婚については婚姻当事者たる被上告人の意思に任せる意向であるというのである。そうすると、本件においては、格別の事情の認められない限り、別居機関の経過に伴い、当事者双方についての諸事情が変容し、これらのもつ社会的意味ないし社会的評価も変化したことが窺われるのである(最高裁平成元年3月28日判決・裁判集民事156号417頁)は事案を異にし、本件に適切でない。)。

  以上によれば、右の点について十分な審理を尽くすことなく上告人の離婚請求を棄却した原判決は、民法1条2項、770条1項5号の解釈適用を誤り、ひいては審理不尽、理由不備の違法を犯したものといわざるを得ず、右違法が原判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。


 

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