堀江 健一
ホリエ ケンイチグループ
愛着障害2 愛を求め過ぎる、回避する、求める事を諦める
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意識も芽生えない赤ちゃんの時期に、中心になって面倒を見てくれる養育者(母親や保育士さん、事情により祖父母や親せきの人)と密接な時間が過ごせない事により、
愛着感情に問題が生じてしまうことになると、
大きくなってからのそのような記憶もないし、身に覚えも無いのに、なぜか知らぬ間に「心に重大な傷」を負ってしまうことがあります。
自分の存在意義への不安
どのような傷となって残ってしまうかと言うと、もちろん赤ちゃんですから記憶として残るのではないのですが、小学生くらい大きくなってきたくらいから、
漠然とした「自分は愛される存在ではないのではないだろうか?」
「誰も自分を大切に守ってくれないのではないか?」
「自分はここにいて良いのだろうか?」
「人は自分をいつか見捨てて、どこかへいってしまうのではないだろうか?」
「自分は生きていて良いのだろうか?」
というような様々な不安や自己否定感となって残ることとなります。
しかしまだ子供ですから、そんな考えをきちんと意識化して、言葉で表現できるわけではありません。
それは無意識下での不安として、本人の自覚も無いまま、様々な問題行動として表れることとなります。
愛着障害による問題行動の例
●身体的発育・知能の遅れ
●成長してからのおねしょ
●成長してからの夜鳴き・悪夢
●チック症(例えば北野武さんが首をクィッとひねる癖がありますが、そのように付随運動として身体の一部が動く症状)
●反抗的態度や乱暴
●感受表現の欠如(泣かない・笑わない)
●万引きや盗み・ウソをつく
●人が怖くて友達が出来ない
●自己主張の欠如(人に拒絶されるのが怖くて、甘えられない、欲求を言えない)
そしてその傷の深さと、本人の生まれ持った性格によって、将来的に人との関係の持ち方に違いが出てくるようです。
簡単に言うと大きく3つの道に分かれます。
愛着障害による愛着感情の持ち方
●もっと愛情を求めようと、過剰に深い関係を要求するようになる
●愛情を求めても無駄のように感じ、人との親密な関係を回避するようになる
●人に対する愛着感情がわかなくなる(愛着を感じても、それに応えてもらえる事は無いとあきらめてしまうから、愛着感情を持つことを抑圧してしまう)
愛を求め過ぎてしまったり
愛から逃げてしまったり
何も求めようとしなくなったり
一見それぞれ真逆の性格のようですが、実は根っこは同じなのです。
もう少し解説してみましょう
●もっと愛情を求めようと、過剰に深い関係を要求するようになる
良く「重い女」と言われてしまうようなタイプの人物です。
パートナーがいくら大切に想い、愛している事を態度や行動に示しても、それがきちんと信じることが出来ず、常に不安が付きまとってしまうものです。
そうした不安の根底には「見捨てられ不安」がある場合が多いようです。
読んで字のごとく、いつかこのパートナーは自分を捨てるのではないかと言う不安にさいなまれ、
相手の真意を疑ってしまい、
ちょっとしたことにも疑惑が生じて、
結果として相手を束縛してしまったり、
無理な難題を押し付けて愛を確かめようとしてしまう傾向が生じてしまいます。
相手が今どこにいるか?常に連絡を取ろうとしたくなってしまったり、仕事なのに浮気だと疑ってしまったり、パートナーがはずせない用事の時に限って体調が悪くなり出かけられなくなったり。
また、極端に例えれば、「私を愛してくれているのなら、今すぐここから飛び降りてみて」的な要求をしたくなり、
パートナーを困らせてしまったりする事もあります。
本人も辛いのにそうしてしまうのは、無意識的にでもそうした不安が強いためです。
●愛情を求めても無駄のように感じ、人との親密な関係を回避するようになる
上の「見捨てられ不安」や、
愛を求めても拒否されるような「自分は愛されることなどないのではないか」との不安が強くなり、
自分からそうした関係になる事を回避する無意識的心情や行動が生じるようになることがあります。
意識的に回避する場合もあるでしょうが、意識では求めているのに結果として良い関係が出来る事を自分からダメにしてしまうような場合は、無意識が本当の愛情を得ることを回避してしまっている可能性があります。
わかり易い例えでは、
好意を持ってくれる人に嫌悪感を抱いてしまったり
好きな人から告白されても逃げてしまったり、
あえて最初から上手く合わなさそうな人ばかり好きになってしまったり
自分を幸せにはしてくれないヒモのような人に貢いでしまったり
することで、結果的に「あぁやっぱり私は愛される事なんてないんだ」と、自分が愛される存在ではない事を証明してしまうことになります。
●人に対する愛着感情がわかなくなる
赤ちゃんは世話をしてもらいたくて泣くものですが、泣いても誰も助けて世話をしてくれないと、諦めて泣く事さえしなくなってしまいます。
それと同じで、もう人から愛情を受ける事を求めようともしなくなってしまう心情が生じてしまいます。
恋愛したいと思っていても、人を好きになる感情が出て来ない事になります。
これらの心的状態は非常にアダルトチルドレンと重なる心的特長と言えるでしょう。
ただ、アダルトチルドレンは、概念上アルコール中毒である親の愛情不足が原因で生じる、子供の心理的症状を指してアメリカで命名され広まった名称ですが、
愛着障害はもっと広い意味で使われる言葉であるかと思われます。
次回は、アダルトチルドレンとは少し違う側面から、
まさかこんな事が後々の自分の人間関係、恋愛にまで影響を及ぼすとは!
と思われるような愛着障害の原因となる生活環境の例をご紹介してみたいと思います。
今回のブログシリーズのメインのお話となります。
参考文献 『愛着障害』光文社新書 著者 岡田尊司(おかだたかし) 1960年香川県生まれ。精神科医、作家。