山本 雅暁
ヤマモト マサアキグループ
日経記事;『垂直統合へ「賢く」回帰』に関する考察
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皆様、
こんにちは。
グローバルビジネスマッチングアドバイザー 山本雅暁です。
4月14日付の日経新聞に、『垂直統合へ「賢く」回帰』のタイトルで記事が掲載されました。本日は、、この記事に関して考えを述べます。
本記事は、FINANCIAL TIMESのチーフ・ビジネス・コメンテーターである ブルック・マスターズ氏が寄稿したものです。
本記事の冒頭部分は、以下の通りです。
『物事をきっちりやりたければ人任せにするなという英語の格言がある。これを地で行くように、米製薬大手ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)は3日、新型コロナウイルスの自社製ワクチンの主成分を製造する委託先の工場の経営権を取得した。J&Jは、生産委託していた米エマージェント・バイオソリューションズのメリーランド州ボルティモアにある工場について「すべての責任を負う」と説明した上で、「製造、品質管理、技術面での業務」の専門人材を新たに投入するとした。。。』
日本の製造企業は、元来一気通貫の垂直統合方式で、競合技術・商品に対して、新規性や差別化・差異化などを実現してきました。
垂直統合方式は、商品の企画、デザイン、開発、設計、製造、販売までの全てのプロセスを自社内で行うことにより強みを引き出すやり方です。
日本の製造業は、日本国内で伝統的にもっている身内意識の高さもあって、この垂直統合方式が採用されてきました。
日本の電気機器産業、自動車産業などでは、大手企業が採用した垂直統合方式の中で、自社内では賄えない材料や部品・モジュールの供給、製造機能などを委託する、多くの関連企業群を抱えていました。
これらの関連企業群は、大手・中堅・中小企業から構成されており、系列企業と呼ばれていました。
この日本の垂直統合方式は、米国勃興した大手IT企業によるインターネット・ITをフル活用した急速な既存事業基盤を急速に破壊・再構築された動きにより、崩壊しました。先ず、その洗礼を受けたのが、電気機器産業です。日立製作所、東芝、パナソニックなどの大手企業は、既存の垂直統合方式を見直し、止めました。
さらに、追い打ちをかけたのが、中国、韓国、台湾などの製造企業による、大幅なコストダウンした部品や商品の供給です。当時の日本では、労働者賃金などがこれらの国より高く、製造コストの競争力で太刀打ちできませんでした。
現在の日本で100年に1度の変革時期に直面しているのが、自動車産業です。CO2削減を実現するために、今後、ガソリンエンジン車から電気自動車(EV)や水素燃料電池車へのパラダイムシフトが起こるとともに、米大手IT企業のような既存の自動車メーカーが数多く自動車産業に入りつつあります。国内自動車メーカーの中では、トヨタが数年前からこの急激な変化に対応すべく、様々な対応を行っています。
例えば、アップル、アマゾン、グーグルなどの米大手IT企業が、スマートフォン、タブレット端末、パソコンなどの電子機器を開発・実用化し、製造、販売する場合、これらの企業は製造機能を他社に委託します。これらの自前で工場を持たない事業のやり方をファブレスといいます。商品の企画・開発・設計のみを行い、製造を外部の専門企業に委託するやり方です。
台湾や中国には、数多くのEMS;electronics manufacturing serviceと呼ばれる製造事業に特化した製造受託企業が存在します。ホンハイ(台湾)、TSMC、UMCなどが事例となります。
米大手IT企業がEMSを活用してスマホなどの商品化するやり方は、垂直統合方式に対する水平分業方式と呼ばれるものになります。水平分業方式は、他社との協業・連携(アライアンス)により成り立ちます。つまり、製造を委託する企業と、受託する企業が共に「Win/Win」の関係構築できることが、イコールパートナーシップで実行する水平分業方式の基本となります。
対して、垂直統合方式は、上記の系列系企業の中に製造を受託する中小企業が数多く存在ます。これらの企業は、一般的に下請と呼ばれます。下請は、製造を発注する企業からの指定される購入単価などに基づいて製造行為を行います。これは、イコールパートナーシップで実行するやり方とは異なります。
垂直統合方式、水平分業方式は、各々強みと弱みがあります。
垂直統合方式は、一気通貫によりすべて自社内で行うことができますので、当該商品を生み出す競争力の源泉;ノウハウを蓄積できます。一方、この方式は、既存事業基盤を急速に破壊・再構築される動きや、急速な製造コストダウンの動きに対しては、柔軟に対応できないことが多々あります。国内大手電気機器メーカーが、競争に負けた要因の一つです。
水平分業方式は、お互いの強みを持ち寄ってイコールパートナーシップで実行するやり方ですので、私の経験則では大きなメリットがあります。最近、この水平分業方式のネック・リスクとして認識されているのが、地政学リスクです。典型的な事例は、米中摩擦によるグローバル化に対する逆風です。
例えば、中国国内の製造受託企業に委託して製造している商品が、政治的な要因などで日本に輸出できなくなるリスクです。米国では、新型コロナに対するワクチンやCPUなどの半導体に対する供給リスクに関する関心が高まっています。このため、本日の記事にありますように米国政府は米国企業に補助金を出して、米国内に製造拠点をもってもらうようにする動きを強めています。
EVベンチャーであるテスラモーターズは、EVのコア部品である車載用電池の内製化も含めて、一気通貫の自動車メーカーになろうとしています。創業者がプログラマーであったことも含めて、柔軟な発想と行動力により現時点では競争力のあるEVを開発・実用化しています。
中小企業の場合、垂直統合方式でも、水平分業方式のやり方にとらわれずに、自社の経営資源やノウハウ、経営環境などを勘案して、柔軟に対応することが重要になります。
国内AIベンチャーの有力企業の一つであるPFN;Preferred Networksは、深層学習に適したサーバーを自前で開発・実用化しました。これは、PFNの強みであるAIの深層学習を開発・実用化する上でサーバーを内製化すると判断したことによります。
今後、国内の中小製造事業者は、自社の強みの源泉を見直して、その強みを最大化させる事業のやり方を工夫し実現することが重要になります。現在、多くの中小企業は、製造機能を外部に委託しています。この委託先が、強みの源泉を引き出すために必要かどうか、製造コストからみて適正かどうか、地政学リスクがあるかどうかなどの視点から、客観的・合理的に見直して、最適化を継続的に行うことが必要であり、重要になります。
私の支援先業の中には、競争力の源泉となる部分を内製に戻した会社もあります。
よろしくお願いいたします。
グローバルビジネスマッチングアドバイザー GBM&A 山本 雅暁
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