米国特許法改正規則ガイド 第7回 (第4回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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米国特許法改正規則ガイド 第7回 (第4回)

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米国特許法改正規則ガイド 

 第7回 (第4回)

河野特許事務所 2012年10月11日 執筆者:弁理士  河野 英仁

 

(3)新規性喪失の例外(102条(b))

 米国特許法第102条(b)は所謂グレースピリオドについて規定しており有効出願日前1年以内の開示行為によっては新規性を喪失しない旨規定している。改正前は「合衆国若しくは外国において特許を受けた若しくは刊行物に記載されたか,又は合衆国において公然実施若しくは販売」と規定されていたが、改正後はあらゆる「開示」行為を含むようになった。102(b)(1)102(a)(1)に対する新規性喪失の例外を規定しており、102(b)(2)102(a)(2)(拡大先願の地位)に対する新規性喪失の例外を規定している。

 

(i)発明者による開示 102条(b)(1)(A)

 有効出願日1年以内の開示であれば、当該開示が発明者若しくは共同発明者、又は直接的若しくは間接的に発明者若しくは共同発明者により開示された主題を得た他人によりなされた場合は102条(a)(1)における先行技術に該当しない。すなわち、参考図2に示すように、公表から1年以内に出願すれば、新規性を喪失することなく、他の要件具備を条件に特許を受けることができる。

 

 参考図2

 

 また、発明者のみならず、直接的・間接的に発明者により開示された発明を得た他人(例えば譲受人である企業)により開示された場合も新規性を喪失しない。

 

 従って審査において審査官は、開示が発明者または共同発明者によることが明らかな場合、102条(a)(1)は適用しない。具体的には以下の条件を満たす場合、102条(a)(1)拒絶を審査官は行わない。

(a)開示がクレーム発明の有効出願日から1年以内である場合、

(b)開示が著者または発明者として、発明者または共同発明者を記入している場合。かつ、

(c)開示が刊行物に著者として、または、特許発明者として、追加の者を記入していない場合。

 

  例えば、出願は発明者A、B及びC、刊行物には著者としてA及びBが記載されている場合、その刊行物の開示が1年以内である場合、グレースピリオドの適用を受けることができ、当該刊行物は102条(a)(1)における先行技術には該当しない。

 

 逆に、出願における発明者数が刊行物より少ない場合、例えば出願は発明者A及びB、刊行物には著者としてA、B及びCが記載されている場合、刊行物から、それが発明者または共同発明者によりなされたとは、ただちに明らかとはいえないため、当該刊行物は、102条(a)(1)における先行技術に該当する。

 

 日本では新規性喪失の例外適用を受ける場合、出願時にその旨を記載すると共に、出願から30日以内に証明書面を提出する必要がある[1]。米国では規則1.77(b)のフォーマットに従い、新規性を喪失した旨を明細書に事前に記載しておくことが可能である。

 

規則1.77出願要素の配置

* * * * *

(b) 明細書は,次の事項を次の順番で含んでいなければならない。

(1) 発明の名称。これには,出願人の名称,国籍及び居所を記載した序言部分を添えることができる(それらが出願データシートに含まれている場合を除く)。

***

(6)発明者または共同発明者による先行開示に関する陳述

 

 また、出願人は、開示の写し(例えば刊行物の写し)を提供することができ、その他後述する米国特許法第102条(b)(1)(B)に基づく中間開示(自身の開示後の他者の開示)を非適格とするために、開示の写しを提供するよう要求される。

 

 拒絶を克服するのに必須でない限り、出願人は、規則1.77で規定されるフォーマットを使用すること、または、発明者または共同発明者による先行開示を特定することは必要とされていない。しかし、USPTOは、発明者または共同発明者による先行開示を特定することは、出願人及びUSPTOのコスト低減及び審査迅速化につながることから、規則1.77による陳述を推奨している。

 

 規則1.77による陳述が十分でない場合、規則1.130に基づく宣誓書または宣言書を提出する必要がある。

 

規則  1.130  AIAに基づく帰属、先の開示または由来手続に関する宣誓書または宣言書

 (a)出願または再審査に基づく特許の何れかのクレームが拒絶された場合、出願人または特許権者は,以下の事項を立証すべく、適切な宣誓書又は宣言書を提出することができる。:

 (1)拒絶の根拠となった開示が発明者または共同発明者によりなされ、

開示された主題が、拒絶の根拠となる主題の開示の前に、発明者または共同発明者により公衆に開示され、若しくは、

開示された主題が、拒絶の根拠となる特許または出願における主題が有効に出願された日前に、発明者または共同発明者により公衆に開示され、

または、

 (2)拒絶の根拠となった開示が、直接的若しくは間接的に発明者若しくは共同発明者から開示された主題を得た他人によりなされ、

開示された主題が、拒絶の根拠となった当該主題の開示前に、直接的若しくは間接的に発明者若しくは共同発明者から開示された主題を取得した他人により、公衆に開示された場合、若しくは、

開示された主題が、拒絶の根拠となる特許または出願における主題が有効に出願された日前に、直接的若しくは間接的に発明者若しくは共同発明者から開示された主題を取得した他人により公衆に開示された場合。

 

 規則1.130には「直接的または間接的に他人に開示に係る主題を知らせたことを十分に示したものを提供しなければならない」と規定されているが、出願人は、当業者がクレームされた主題を作りことができる程度に十分な開示の主題を知らせたこと(伝達)を示さなければならないことを意味する[2]。

 

(ii)発明者公衆開示後の第三者の開示(中間開示) 102条(b)(1)(B)

 開示された主題がそのような開示前に、発明者若しくは共同発明者、又は直接的若しくは間接的に発明者若しくは共同発明者により開示された主題を得た他人により公衆に開示された場合も、1年以内に出願した場合に限り、102条(a)(1)における先行技術に該当せず、新規性を喪失しない。

 条文の記載は非常に複雑であり理解しがたいが、簡単に言えば参考図3に示すように、先に発明者が公衆に開示しさえすれば、その後に別途独自に発明した第三者が同一内容を開示したとしても、当該発明者が1年以内に出願すれば、新規性を喪失しない。

 

参考図3

 

 ただし、102条(b)(1)(B)における例外を適用するためには、米国特許法第102条(a)に基づく先行技術における主題開示と、当該開示前の発明者により公衆に開示された主題と同一“主題”であることが必要とされる。すなわち、先の発明者による開示に係る主題と、後の開示(中間開示)に係る主題とが同一主題であることが必要とされる。

 

 米国特許法第102条(a)に基づく先行技術における主題開示と、当該開示前の発明者により公衆に開示された主題との相違が、単にごくわずかな変化、または、ささいな若しくは自明なバリエーションにすぎない場合でも、米国特許法第102(b)(1)(B)の規定は適用されない。

 

 このように同一性の要件が厳しく課されていることから、公表した場合には、速やかに出願することが好ましい。

 

(以降は経済産業調査会知財「ぷりずむ」誌に掲載の予定です。)

                                                                           以上



[1]日本国特許法第30条第3項 前項の規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を特許出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、第二十九条第一項各号のいずれかに該当するに至つた発明が前項の規定の適用を受けることができる発明であることを証明する書面を特許出願の日から三十日以内に特許庁長官に提出しなければならない。

[2] Gambro Lundia AB v. Baxter Healthcare Corp., 110 F.3d 1573, 1577 (Fed. Cir. 1997). 「発明の着想全体についての伝達があったことを立証する必要は無く、発明分野の通常の知識を有するものには発明が自明になる程度に発明の内容の伝達があったことの証明で十分である」

 

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