- 松山 淳
- アースシップ・コンサルティング コンサルタント/エグゼクティブ・カウンセラー
- 東京都
- 経営コンサルタント
対象:キャリアプラン
- 宇江野 加子
- (キャリアカウンセラー)
- 冨永 のむ子
- (パーソナルコーチ)
人は弱いからちゃんとした人になれる【第2章-3】
電車が駅に停まる。扉が開き、人が群れになってなだれこんできた。
美咲は人の波に押され中村さんに寄りかかる。足を踏んでしまった。
「あっ、すいません」
「ああ」
「大丈夫ですか」
「大丈夫だよ」
扉が閉まり、電車は動き出す。
美咲は何かを話そうと思ったが、無言のままだ。
中村さんも、何も言わない。
言葉が喉の奥に沈殿している。自己嫌悪が襲ってくる。親指の爪を噛み出す。
美咲は口ベタだ。
自分の思っていること、考えていることを、
どうしてもうまく喋ることができない。
書くことでならいくらでもできるのに・・・。
だから、好きな人へ告白する時は、いつも手紙にまかせていた。
そして、口べたは自分の最大の短所であり、
気の弱い自分をかたちづくる原因だと固く信じていた。
さっきだって苛立つオーナーを前にして「すいません」しか言えなかった。
あんなに謝らなくてもいいのに。
中村さんが来なかったら、どうなっていたのだろう。
そう思うと「ありがとうございます」を言っていない自分に気づき、
美咲は落ち着かなくなった。
「あの、さっきはありがとうございました」
「ああ、別にいいんだよ、謝るのは慣れてるから」
「そうなんですか」
「ああ、それでなんとかリストラされずに済んでいるからな。
部長代理なんて、会社の中で俺だけだろ」
「・・・・」
「なに、美咲ちゃん、今、笑うところだよ」
「えっ、すいません」
電車はカーブにさしかかり、吊り革で懸命に身体を支えようとするが、
横から迫る人に押され、どうしても中村さんに寄りかかってしまう。
*1
*1この物語はフィクションです。 登場する人物名・団体名等は実在のものと一切関係ありません。