- 松山 淳
- アースシップ・コンサルティング コンサルタント/エグゼクティブ・カウンセラー
- 東京都
- 経営コンサルタント
対象:キャリアプラン
- 宇江野 加子
- (キャリアカウンセラー)
- 冨永 のむ子
- (パーソナルコーチ)
人は弱いからちゃんとした人になれる【第2章-4】
「あっ、ごめんなさい」
「きっといいデザインするんだろうね」
と、美咲の言葉を受け流して、中村さんは言った。
「えっ、そんなことありません。だって、今は・・・」
言葉をつまらせる。
「だって、優しいじゃない。優しくないとデザインはきな臭くなるからね」
美咲は目を細め、唇を噛んだ。
小さい頃好きだった「優しい」という言葉は今、
美咲にとって褒め言葉ではなくなっている。
「わたし、優しくなんてありません。
さっきだって、もっと何か言い返せばよかったんです。
弱いだけなんです。そんな自分があまり好きじゃないし・・・」
(何、言ってるのわたし)
美咲は、自分がこぼした言葉に驚き赤面した。
中村さんは、それから黙ってしまった。
電車は規則正しい音をたて進み続けている。
部長が予定を変更して会社で待っている。
茜色は薄れ、闇が街に降りようとしている。
ビルの側面や屋上にあるいくつものネオンが、
けたたましく輝き出していた。
美咲は爪を噛み続ける。
何か会話をつがなければと、心が急げば急ぐほど、
適切な言葉は喉の奥に隠れ出てこない。
すると、誰かが右肩をたたいた。
横を向こうとすると、目の前に予定の書かれていない空白だらけの
手帳が見開かれていた。
そこにはたった今、
走り書きしたような文字でこんな言葉が書かれていた。
「人はしばしば、弱いことからちゃんとした人になるし、
臆病なことから大胆な人になる」*1
中村さんの顔を見た。何も言わず、笑っていた。
美咲は下を向き、顔をあげられなくなった。
涙があふれている。
*2