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村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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村田 英幸
村田 英幸
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小竹 広光
(行政書士)

閲覧数順 2016年12月06日更新

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取締役の不当解任を理由とする損害賠償請求(会社法339条2項)

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4 不当解任を理由とする損害賠償請求(会社法339条2項)

(1)損害賠償責任の法的性格

 会社法339条2項の法的責任をどのように解するかは,同項の「解任についての正当な理由」の解釈に関連しますので,簡単に説明します。

 旧商法257条1項ただし書の法的性格については,法定責任説,不法行為責任説,債務不履行責任説の3説が対立していました。

 法定責任説は,旧商法257条1項ただし書の損害賠償責任を,故意・過失を要件としない,株式会社に特別に課された法定責任であると解する説です。

 不法行為責任説は,解任そのものを理由として損害賠償請求をなし得るのは,解任について不法行為の成立が認められる場合であるとする説です。

 債務不履行責任説は,旧商法257条1項ただし書が任期の定めがある場合にのみ損害賠償責任を認めていたことを根拠に,旧商法257条1項ただし書の損害賠償責任を,任期中はみだりに解任しないという不解任特約に違反したことを理由とする債務不履行責任と解する説です。

 不法行為責任説に立つ場合,正当理由は,解任が不法行為を成立させるときに限って否定されることになりますから,正当な理由は広く認められることになります。債務不履行責任説に立つ場合,不解任特約があるのに,解任して,なお損害賠償を免れ得る正当の理由がある場合を指しますから,正当の理由が認められる範囲は狭くなります。

 株主が持つ取締役解任の自由と取締役の任期に対する期待との調和の観点から,本書では,多数説である法定責任説にしたがいます(江頭憲治郎『株式会社法第3版』369頁,大阪高判昭和56・1・30判タ444号140頁,東京地判平成20・3・26LLI登載)。

(2)正当な理由の具体的検討

 法定責任説を前提とすれば,正当理由の内容は,会社・株主の利益と取締役の利益の調和の上に決せられることになります。具体的には,当該取締役に経営を行わしめるにあたって障害となるべき状況が客観的に生じた場合に限り認めるべきとされます(江頭憲治郎ほか『会社法判例百選』113頁 近藤光男)。

ア 職務執行における不正の行為や法令・定款違反行為

 後述する,取締役解任の訴え(会社法854条)の要件である職務執行における不正の行為や法令・定款違反行為があった場合については,正当理由を肯定することに争いはありません。法令違反の疑いのある,著しく不相当な職務行為について,正当理由を肯定した裁判例(東京地判平成8・8・1商事1435号37頁)があります。もっとも,解任の訴えに基づき裁判所が解任を認める場合と,取締役から会社に対する損害賠償を与えずに多数派株主が解任できる場合とでは場面が異なりますから,取締役解任の訴えの場合の要件と完全に一致するわけではありません。会社所有者たる株主が,取締役を自由に解任できるのが原則と考えられますから,取締役解任の訴えの場合に要求される「重大」性がなくとも,法令・定款違反行為があれば,正当理由は肯定されるものと考えられます。

イ 取締役の心身の故障

 持病が悪化し治療に専念している場合など取締役としての責務に耐えられない場合にも正当理由は認められます(最判昭和57・1・21判時1037号129頁)

ウ 職務への著しい不適任

 職務への著しい不適任(経営能力の著しい欠如)も正当理由として認められます(監査役に関して,東京高判昭和58・4・28判時1081号130頁)。

エ 経営判断の失敗

 経営判断の失敗が正当理由となるかどうかについては,争いがあります。裁判例の中にも,取締役の経営判断を尊重して,解任事由なしとしたもの(神戸地判昭和51・6・18判時843号107頁)や経営判断の誤りによって会社に損害を与えた以上,正当理由ありとしたもの(広島地判平成6・11・29判タ884号230頁)があります。

 取締役の経営判断を制約することに反対し,正当理由を否定する説も有力ですが(江頭憲治郎『株式会社法第3版』369頁),経営判断の尊重は取締役の会社に対する損害賠償責任を制約する考え方であって,また,経営に失敗した取締役の責任追及が制約されます。取締役が経営判断に失敗した場合には,株主としては取締役に対する制裁として解任することは当然といえるでしょう。会社所有者たる株主の取締役の解任権限には制約をするべきではないと考えられます。

 したがって,取締役の経営判断の失敗についても,これを正当理由と考えるべきと思われます(江頭憲治郎ほか『会社法判例百選』113頁 近藤光男)。

オ 主観的な信頼関係喪失

 正当理由は,当該取締役に経営を行わしめるにあたって障害となるべき状況が客観的に生じた場合に限り認めるべきとされます(江頭憲治郎ほか『会社法判例百選』113頁 近藤光男)から,大株主の好みや,より適任者がいるというような主観的な事情では,正当理由は認められません(東京地判平成8・8・1商事1435号37頁)。

 裁判例の中にも,代表者との折り合いが悪くなったことが原因で,社内で孤立した場合に正当理由を否定したもの(東京地判昭和57・12・23金判683号43頁),事前に大株主に相談することなく株主割当てによる新株発行を行い,大株主との信頼感を失わせる言動があったことを認めながら正当理由を否定したもの(名古屋地判昭和63・9・30判時1297号136頁)があります。

(3)損害賠償の範囲

 法定責任説を前提とすれば,損害賠償の範囲は,取締役が解任されなければ在任中および任期満了時に得られた利益の額になります(江頭憲治郎『株式会社法第3版』369頁)。

ア 残存任期中の役員報酬

 残存任期中の役員報酬が損害に含まれることに異論はありません。

イ 退職慰労金

 退職慰労金については,定款に定めがある場合を除き,株主総会の決議により,初めて支給が認められるものですから,当然には損害に含まれるものではありません。もっとも,裁判例の中には,損害として認めたものがあります(東京地判昭和57・12・23金判683号43頁)。他方,損害として認めなかった裁判例もあります(大阪高判昭和56・1・30判タ444号140頁)。

 この点,取締役の退職金に関する定めがなくとも,従業員の退職金に関する定めがあれば,これに拠って算出された額が特段の事情のないかぎり,損害に含まれるものと考えられます(東京地判昭和57・12・23金判683号43頁)。解任取締役の退職金請求が否定された裁判例(大阪高判昭和56・1・30判タ444号140頁)をみると,退職金に関する定めが従業員に関しても存在せず,過去に退職金を支給していた慣行もない点が重視されたものと考えられます。

ウ 賞与

 この点,旧商法下においては,賞与の支払いは会社の利益処分として行われていましたが,会社法の下では,取締役の報酬とともに,報酬等として会社法361条の株主総会決議により支給されます。したがって,退職慰労金と同じ議論が妥当すると考えられます。旧商法下の裁判例の中にも,損害と認めなかったもの(東京地判昭和57・12・23金判683号43頁)や損害と認めたもの(大阪高判昭和56・1・30判タ444号140頁)があり,対立がみられます。

 取締役解任後も特に業績に変化がなく配当可能利益が生じており,毎年,定額の賞与を支給していた場合には,賞与が損害に含まれる可能性は高いと思われます。

エ 慰藉料

 慰藉料については,損害に含まれないとするのが多数説です(東京地判昭和57・12・23金判683号43頁)。

オ 弁護士費用

 弁護士費用についても,損害に含まれないとするのが多数説です(東京地判昭和63・2・26判時1291号140頁)が,不当応訴等の特段の事情がある場合には損害として認められる余地があります(大阪高判昭和56・1・30判タ444号140頁)。

(4)代表取締役の解職への類推適用

代表取締役が,正当な理由なくして取締役会で代表者としての職を解職され,平取締役にされた場合に,会社法339条2項を類推適用して,損害賠償責任を認めるべきであるとする見解があります(上柳克郎ほか編『新版注釈会社法(6)』149頁)。

 

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