(続き)・・この事実から言えることは、仕事が多いことや残業が長いこともストレスの原因の一つとはなりますが、それ以上に大きい要因は、仕事をする上で一定範囲の裁量度を認められているかどうか、また仕事をやり遂げた時の達成感や周囲からの承認が得られるかどうかなのです。
従って職場の管理者は、残業時間を管理することと並行して、個々の社員の自由度を可能な限り認めながらのびのびと活動させ、社員のモチベーションを上げることに全力を注ぐべきです。
それでは社員を自由に活動させ、モチベーションを上げるには、具体的にどのような取り組みが有効なのでしょうか。そのための一つのアプローチ法が「コーチング」です。
コーチングとは、相手の自発的な意思決定と行動を引き出すコミュニケーション法で、30年ほど前に米国から日本へ伝わり、ビジネス界や医療、教育分野などで普及してきています。例えば職場に於いては、上司による部下育成や社員教育、さらには顧客対応などの場面で活用されています。
部下や若手がやる気を失う要因の一つが、上司による一方的な指示命令です。これによって部下は表面的には上司の言い分に従うものの、「やらされ感」が募る一方で、本当のやる気は起こってきません。また自分で考える習慣がつかなくなるので、部下はなかなか成長しません。
一方で上司が社員に適切な質問をし、自分で考えさせ、自分からの行動を促すようなコーチング的アプローチをしている職場では、社員が生き生きと仕事をし、とても活気のある職場となります。
具体的には、上司が部下に対して「この案件に対して、君はどのような結果を出したい?」とか「今の職場で、君は最終的にどのような仕事を成し遂げたい?」といった、社員が自ら考え活動するような質問を投げかけます。
また今の仕事や職場に直接関係はありませんが、「もし何の制約もなければ、どのような仕事をしたい?」「何でも可能だとして、どのような生活ならば最も充実している?」などといった質問をすることで、社員のモチベーションは自然と上がってくるものです。
一方で、職場内の「環境」にも配慮が求められます。職場の環境の優劣によって、社員の健康度やメンタル面の健全性に差が生じることは意外と知られていません。例えばオフィスの壁が真っ白で壁紙も何もなく、しかも光が射さずに暗い職場だったとしたら、そこの社員はどんな気分で毎日を暮らすでしょうか。
そのような職場では、うつ病など心の病が多発することが知られています。またゴミや段ボールなどが散乱している職場では、社員がイライラしてもめ事が多くなりがちです。
さらにホルムアルデヒドに代表される有害物質が一定基準以上に存在していたり、有害電磁波が観測されるようなオフィスは、身体面のみならずメンタル面にも支障を来たしやすくなります。
一方で社員が気軽に会話やディスカッションをするスペースもないような職場では、社員が個々のデスクに閉じこもりやすくなってコミュニケーションは極端に減ってしまいます。その結果、うつ病など心の病が多発する要因となります。
オフィス環境を改善するポイントとしては、以下の取り組みが推奨されています。
有害物質や電磁波を可能な限り除去すること、壁や床の色を真っ白ではなく暖かいカラーにすること、絵や壁紙などを工夫して視覚に訴えること、窓や照明などを活用して室内を適度に明るくすること、静かな音楽や香りなどを利用してリラクゼーションを図ること、コミュニケーションを取りやすいスペースを用意すること・・
そのように、オフィス環境を整えることが社員の心身の健康に直結し、企業のパフォーマンスにも大きく影響するのです・・(続く)
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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病気を治したり予防するにあたり、いちばん大切なのは、ご本人の自然治癒力です。メンタルヘルスを軸に、食生活の改善、体温の維持・細胞活性化などのアプローチを複合的に組み合わせて自然治癒力を向上させ、心と身体の両方の健康状態を回復へと導きます。
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