米国特許判例紹介:ネットワーク関連発明の直接侵害成立要件(5) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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米国特許判例紹介:ネットワーク関連発明の直接侵害成立要件(5)

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米国特許判例紹介:ネットワーク関連発明の直接侵害成立要件(第5回)

~BlackBerry事件を考慮したシステムクレームの権利範囲解釈~

河野特許事務所 2011年5月13日 執筆者:弁理士  河野 英仁

       Centillion Data Systems, LLC,

                        Plaintiff Appellant,

              v.

Qwest Communications International, Inc., et al.,

                  Defendants-Cross Appellants.

(4)月次方式

 CAFCは月次方式も同様に「使用」に該当し、直接侵害が成立すると判断した。月次方式は、毎月課金レポートを受信させるべく、ユーザに予約を要求する。いったんユーザが予約しておけば、被告のバックエンドシステムは月次レポートを生成し、月次レポートをユーザにダウンロード等の手段により提供する。

 

 被告は、また月次レポートをさらに有効に活用させるべく、ユーザのパソコン上にダウンロードすることが可能なソフトウェアを提供している。オンデマンド方式と異なり、月次方式は、月次でしか行われないという相違点はあるものの、オンデマンド方式と同様に、全てはユーザの要求に起因して処理が実行される。

 

 CAFCはユーザの当該処理要求を起因として全体的なシステムがサービスに供され、BlackBerry事件と同様にユーザは本発明の利益を享受していることから、ユーザの「使用」行為に該当し、直接侵害が成立すると判示した。

 

争点2:被告の行為は米国特許法第271条(a)のもと、システムクレームに係る発明の「使用」に該当しない。

 CAFCは、被告はシステムクレームに係る発明を「使用」していないと判断した。システムを「使用」するためには、被告はクレームされた発明をサービスに供していることが条件とされる。すなわち、BlackBerry事件に従い、被告が、システム全体を管理し、かつ、システムから利益を享受する必要がある。

 

 被告は、バックエンドシステムに係る構成要件1~3を「生産”make”」している。しかしながら、被告は構成要件4「パソコンデータ処理手段」をサービスに供していないことから、クレーム全体としての発明を「使用」してはいない。CAFCは、被告がユーザに構成要件4の機能を実行するためのソフトウェアを提供しているものの、サービスに供したのはあくまでユーザであるから、被告の「使用」行為には該当しないと述べた。

 

 

 以上の理由により、被告には米国特許法第271条(a)に規定する「使用」行為が存在しないと判示した。

 

争点3:被告の行為は米国特許法第271条(a)のもと、システムクレームに係る発明の「生産」に該当しない。

 CAFCは、被告はシステムクレームに係る発明を「生産”make”」していないと結論づけた。

 

 被告はシステムクレームの一部、すなわち構成要件1~3だけを製造”manufactures”した。米国特許法第271条(a)のもと、システムの「生産」というためには、被告が、全てのクレーム構成要件を組み合わせる必要がある。しかしながら、構成要件4の「パソコンデータ処理手段」をユーザのパソコンにインストールして、システムを完成させたのはユーザであった。以上の理由からCAFCは、被告はシステムクレームに係る発明を生産していないと判断した。

 

 

5.結論

 CAFCは、直接侵害が成立しないと判断した地裁の判断を無効とし、ユーザの行為はシステムクレームに係る発明の「使用」行為にあたり、直接侵害が成立すると判断した。

 

 

6.コメント

 ネットワーク関連発明のシステムクレームにとって本判決は非常に重要な意義を有する。クレームの作成にあっては、複数当事者ではなく単一の当事者を狙い撃ちしたクレームを作成するのが大原則である。

 

 しかしながら、本事件のように、業者のサーバコンピュータとユーザのパソコンとにより構成されるシステムの場合、複数の当事者に係るコンピュータを構成要件中に含まざるを得ない。もちろん、片方の当事者のコンピュータについて権利化を図ればよいが、先行技術と差別化できず、自明である(米国特許法第103条)として特許を取得できない場合も多い。その結果、本事件及びBlackBerry事件の如く、複数の当事者が絡むシステムクレームが多数成立しているのである。

 

 本事件ではシステムクレームに係る発明をユーザがサービスに供し、かつ、ユーザが発明による利益を享受している場合、「使用」行為であり、ユーザの直接侵害が成立すると判示された[1]。ユーザによる直接侵害が成立すれば、被告の寄与侵害を追求することが可能となる。すなわち、寄与侵害が成立するためには直接侵害の存在が前提となるところ、本事件の如く権利行使し難いユーザの直接侵害の存在を根拠に、構成要件1~3を実行する被告を寄与侵害として訴追することが可能となる。

 

 ネットワーク関連発明に関する特許を所有する特許権者にとって、本判決は朗報であり、特許の価値が大幅に向上する。逆に第3者にとっては再度、このようなネットワーク関連発明におけるシステムクレームの解析を精査する必要がある。一部の構成要件がユーザのコンピュータ側に存在するから非侵害と判断していた特許についても、寄与侵害の存否までをも考慮して分析する必要があるからである。

 

判決 2011年1月20日

以上

【関連事項】

判決の全文は連邦巡回控訴裁判所のホームページから閲覧することができる[PDFファイル]。

http://www.cafc.uscourts.gov/images/stories/opinions-orders/10-1110%20-1131.pdf


[1] なお、米国特許法では日本国特許法第68条に規定する「業として」の要件は課されていない。

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