- 野村佳代
- 出版/広告プロデュース〜企画・ライティングからデザイン・印刷まで 株式会社アスラン編集スタジオ 代表取締役
- ライター
文章の書き出しテクニック(3)
やってはいけない「書き出し」の言葉
書く文章の種類によって最適な書き出しが異なりますが、共通するテクニックはあります。
それは、「私は」で始めないということです。
どんな種類の文章でも言えることですが、文章は「読み手」がいます。
その文章に評価を下すのは読み手ですから、ある意味で「主役は読み手」と言うこともできます。
それなのに、「私は」とこちら側の話から始まると、引きつけられる文章にはなりません。
相手を引きつけるには、「主役は読み手」であることを意識させなければならないからです。
たとえば、川端康成の「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」にしても、その前に「私は」がついていたら、名文とは呼ばれなかったのではないでしょうか。
あくまでトンネルを抜けて雪国についたのは主人公の「私」であって、「読み手」にはならないからです。
この文章には「私は」がありません。このことで、「読み手」も一緒にトンネルを抜け、雪国についたような気分にさせられるわけです。まるで自分の目の前に視界が開けたような気分になり、小説の主人公にぐっと感情移入できます。小説の主人公と、主役としての読み手が並び立つわけです。
また、これには書き出しのバリエーションが増えるというメリットもあります。
「私は」で始めるのは、楽な方法です。どうしても、「私は」で書き出してしまいがちですが、そこをグッとガマンして他の方法で書くことで、文章にバリエーションが増えます。そのため、読者を飽きさせないわけです。
書き出しバリエーションが豊富なのは喜ばしいことですが、一方で書き出しに頭を悩ませて、筆が進まないのも問題です。
そのため、文章を書き慣れないうちは、自分なりの「定型パターン」を持っておくとよいでしょう。もちろん、この定型パターンは書く文章の種類について異なります。
次回は、セールスレターや小冊子で便利な書き出しの「定型パターン」について、紹介します。