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河野 英仁
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インド特許法の基礎(第15回)(2)~特許の譲渡及び実施許諾~

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インド特許法の基礎(第15回)(2)

~特許の譲渡及び実施許諾~


2014年8月22日

執筆者 河野特許事務所 

弁理士 安田 恵

 

4.契約による譲渡及び実施許諾の要件

(1)譲渡及び実施許諾の主体

 特許の被付与者又は所有者[1]として登録された者が特許を譲渡し、特許に基づく実施許諾を行うことができる(第70条)。特許が共有に係る場合、各特許権者は別段の合意が無い限り、均等の持ち分を有し(第50条(1))、他の者に報告すること無しに自己の権利を行使することができるが(第50条(2))、特許の譲渡又は実施許諾に関しては他の共有者の合意が必要である(第50条(3))。

 

(2)譲渡及び実施許諾の対象及び内容

 現に登録簿に登録されている特許が譲渡及び実施許諾の客体となる。特許は全部を譲渡することはもちろん、特許の一部を部分的に譲渡することもできる。実施許諾も特許の範囲を地域的、時間的、内容的に限定して許諾することができる。

 ただし、特許の譲渡及び実施許諾は、登録簿に登録された他の者の権利を害するものであってはならない(第70条)。

 

(3)書面によって適法に締結されていること(第68条)

(a)特許の譲渡及び実施許諾契約は、書面によるものでなければならない(第68条)。一般的な契約は口頭でも有効であるが、特許の譲渡契約及び実施許諾契約等は書面による必要がある。

(b)関係当事者間の合意がそれぞれの者の権利義務を規制する全ての条件が書面に記載され、適法に締結されている必要がある(第68条)。

 

(4)インド契約法[2]を遵守すること

 譲渡及び実施許諾が適法に締結されるためには、インド契約法の規定に従う必要がある。当事者間の申込み[3]と承諾[4]によって形成された合意[5]が法的強制力を有する契約[6]となるためには、インド契約法第10条の条件を満たす必要がある。同法第10条の概要は次の通りであり、英米法と同様、契約には約因が必要である。

・合意は当事者間の自由意思による同意であること(インド契約法第10条、第13条、第14条)

・適法な約因が存在すること(インド契約法第10条、第23条~第25条)

・契約の目的が合法であること(インド契約法第10条、第23条、第25条)

・無効なものと明示的に宣言されたもので無いこと(インド契約法第10条)

 

(5)制限条件(第140条)

 実施許諾契約においては、次表のような条件を契約に挿入することは違法であり、かかる条件は無効である(第140条(1))。また特許権侵害訴訟において、侵害に係る特許に関する契約に当該条件が含まれていた場合、抗弁事由となる(第140条(3))。第140条の制限条件に留意すべきである。なお上記条件を含む契約を実施許諾と別途締結しても、当該条件は無効である(第140条(2))。

①非特許物品(※1)の取得の禁止・制限(第140条(1)(a))

・実施権者に対して,実施許諾者等から非特許物品を取得するように要求すること

・実施権者が非特許物品を取得することを禁止すること

・何人からも非特許物品を取得できる実施権者の権利を制限すること

・実施権者が実施許諾者等以外から非特許物品を取得することを禁止すること

②非特許物品の使用の禁止・制限(第140条(1)(b))

・実施許諾者等によって供給されない非特許物品の実施権者による使用を禁止すること

・実施許諾者等によって供給されない非特許物品を使用できる実施権者の権利を制限すること

③非特許方法(※2)の使用の禁止・制限(第140条(1)(c))

・実施権者による非特許方法の使用を禁止すること

・非特許方法を使用できる実施権者の権利を制限すること

④排他的グラントバック(第140条(1)(d))

・排他的グラントバックを規定すること

・特許の有効性に対する異議申立の抑止を規定すること

・強制的包括ライセンスの許諾を規定すること

※1:非特許物品:特許物品以外の物品又は特許方法以外の方法で製造された物品

※2:非特許方法:特許方法以外の方法

 

(6)権原の登録(第69条)

(a)特許の譲受人又は実施権者は、長官に対して、その者の権原を登録簿に登録すべき旨を様式16により書面で申請しなければならない(第69条(1)、規則90(1))。特許の譲渡人又は実施許諾者が当該申請を行うこともできる(第69条(2)、規則90(1))。特許又は実施権の権原に影響を及ぼす全ての譲渡契約書又は実施許諾契約書の原本及び写し(申請人又は代理人により正本と証明された譲渡契約書又は実施許諾契約書)2通を様式16の申請書に添付して長官に提出しなければならない(第69条(4),規則91)。なお、長官は、権原に関するその他の証拠又は同意書を要求することができる。権原の登録申請には契約書の原本が必要といわれているが、実務上は公証人によって適法に認証された写しを原本に代えて提出することもできるようである。

 また、実施許諾の場合、権原の申請人は実施許諾の条件を開示しないよう請求することができる(第69条(4))。

 

(b)登録と契約の有効性

 2005年改正前のインド特許法第68条には、特許の譲渡及び実施許諾は、譲渡契約書等の登録申請を所定の方法で契約締結日から6ヶ月以内に行わなければ、その効力を生じない旨が規定されていた。この改正前第68条の規定に基づき、ライセンス契約が特許庁に登録されていないことを理由に実施許諾契約が無効であるとする判断が下された判例がある[7]。ただ2005年特許法改正により、登録に係る規定部分は「かつ、適法に締結され」と改正され、第68条から、譲渡契約書及び実施許諾契約書の登録に係る記載が削除された。上記判例は実施許諾の有効性及び権原登録に係る説明で良く引用されるが[8]、上記判例が改正後の第68条に直ちに適用できるものであるかどうか疑問である。

 ただ、登録簿に譲渡及び実施許諾の契約書が登録されていない場合、当該契約書は、長官又は裁判所によって特許に係る権原の証拠として認定されないため(第69条(5))、いずれにせよ譲渡及び実施許諾の登録がなければ、当該譲渡及び実施許諾は事実上、法的強制力を有する契約として機能しないと考えられる。結論としては、取得した権利に係る法的強制力を獲得するためには、権原の登録が必須であると考える。

 

(7)登録の期限

 特許の譲渡又は実施許諾に係る権原の登録申請の期限はインド特許法に規定されていないが、遅滞なく登録申請を行うことが好ましく、契約締結日から6ヶ月以内を目処に登録申請を行うと良い。後述するように特許又は実施権に係る権原の登録を行わずに放置していると、種々の問題が生ずる可能性があると思われる。

 

 なお、2005年改正前のインド特許法第68条には、権原の登録申請を所定の方法で契約締結日から6ヶ月以内に行わなければ、その効力を生じない旨が規定されていたが、2005年特許法改正により、登録に係る規定部分は「かつ、適法に締結され」と改正され、登録申請期限の規定が無くなった。現地においては、改正前の第68条に規定されていた「6ヶ月」の期限に倣って実務を行っているようである。


第3回へ続く



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[1] 特許の「被付与者(grantee)」は審査の結果、第43条の規定により特許を付与された者、「所有者(proprietor)」は、譲渡又は何らの原因による移転によって特許又はその持ち分を取得した者と解される。

[2] The Indian Contract Act, 1872

[3] インド契約法第2条(1)(a)

[4] インド契約法第2条(1)(b)

[5] インド契約法第2条(1)(e)

[6] インド契約法第2条(1)(h)

[7] National Research Development Corp vs ABS Plastics Limited

[8] 例えば、Kalyan C. Kankanala,Arun K. Narasani & Vinita Radhakrishnan (2010). Indian Patent Law And Practice: pp. 171-172

 

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