早わかり中国特許:第43回 特許の権利範囲解釈 - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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対象:特許・商標・著作権

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早わかり中国特許:第43回 特許の権利範囲解釈

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早わかり中国特許

~中国特許の基礎と中国特許最新情報~

2014年12月9日

執筆者 河野特許事務所

弁理士 河野英仁

(月刊ザ・ローヤーズ 12月号掲載)

 

 第43回 特許の権利範囲解釈

 特許の権利範囲解釈について第42回に引き続き解説する。

 

1.オールエレメントルールと余分指定原則

 中国も日本・米国と同じく、オールエレメントルールが採用されており、イ号製品が文言上全ての構成要件を具備する場合、特許権侵害が成立する。

 従って請求項の構成要件がA、B及びCであり、イ号製品がA及びBの場合、後述する間接侵害の場合を除き特許権侵害は成立しない。これに対する原則として、余分指定の原則がある。これは、請求項の構成要件の内重要でないものは、たとえイ号製品に存在していなくとも侵害を認める原則である。すなわち上述の例では構成要件Cが重要でない要素である場合、イ号製品は侵害と認定される。

 

 このような原則は中国特許実務家のクレーム作成レベルが低い時代に認められていたものである。クレーム作成に当たってはできるだけ権利範囲が広くなるよう明細書作成者は知恵を絞って余分な構成要件をクレームから極力排除する。クレーム作成能力が不十分である場合、余計な構成要件までもクレームに含めてしまう。以前は人民穂運にて許容されていたが、国際的なオールエレメントルールに反するものであり廃止された(司法解釈[2009]第21号第7条)。

 

2.献納原則

 献納原則とは、明細書または図面においてのみ表され、請求項に記載されていない技術方案について、権利者が特許権侵害紛争案件においてこれを特許権の技術的範囲に加えた場合、人民法院はこれを支持しないことをいう(司法解釈[2009]第21号第5条)。

 

 献納原則については、バス停実用新型特許侵害訴訟事件[1]が参考となる。請求項に「駅到着予報電子表示スクリーン」と記載されていた。これに対し、イ号製品の表示スクリーンは、駅到着予報ではなく、天気予報、ニュース等の各種情報をリアルタイムで表示するものであった。特許権者は駅到着予報と、天気予報及びニュース等の各種情報とは均等であるとの主張を行った。

 

 ところが、明細書第4頁には以下の記載がなされていた。

「駅到着予報電子表示スクリーンは電子標識の上部にあり,駅名表示器の下方に連接されており,本実施例中では一般の三行表示LEDドットマトリクスキャラクタ表示スクリーンを採用しており,各路線の到着が最も近い車両の予測到着時間及び本駅に到達するまでの距離等の動態情報をスクロール表示し,また天気予報、ニュース、ビジネス上の広告等公衆が関心を持つ情報を表示することもできる。

 

 人民法院は、原告は敢えて請求項に「駅到着予報電子表示スクリーン」と限定し、天気予報、ニュース、ビジネス広告等の公衆が関心を持つ情報の技術特徴を表示することを請求項に記載していないことから、均等論は成立しないと判示した。

 

 従って、権利範囲解釈に当たっては明細書に記載されているが請求項に記載されていない要素が存在するか否かも十分検討する必要があると言える。

 

3.均等論

 中国訴訟実務において均等論侵害は頻繁に認められており、また日本の均等5要件とは相違する部分もあるため、十分な注意が必要である。

 

 均等については、司法解釈[2001]第21号第17条第2項に以下のとおり規定されている。

 

 均等な特徴とは、記載された技術的特徴と基本的に同一の手段により、基本的に同一の機能を実現し、基本的に同一の効果をもたらし、且つ当該領域の普通の技術者が創造的な労働を経なくても連想できる特徴を指す。

 

 また、司法解釈[2009]第21 号第7条は以下のとおり規定している。

 

第7条 人民法院は、権利侵害と訴えられた技術方案が特許権の技術的範囲に属するか否かを判断する際、権利者が主張する請求項に記載されている全ての技術的特徴を審査しなければならない。

 権利侵害と訴えられた技術方案が、請求項に記載されている全ての技術的特徴と同一または均等の技術的特徴を含んでいる場合、人民法院は権利侵害と訴えられた技術方案は特許権の技術的範囲に属すると認定しなければならない。権利侵害と訴えられた技術方案の技術的特徴が、請求項に記載されている全ての技術的特徴と比較して、請求項に記載されている一以上の技術的特徴を欠いている場合、または一以上の技術的特徴が同一でも均等でもない場合、人民法院は権利侵害と訴えられた技術方案は特許権の技術的範囲に属しないと認定しなければならない。

 

 すなわち、中国では手段、機能、及び効果が実質的に同一であり、かつ、容易に連想することができるものであれば、均等と認定される。当然後述する禁反言の法理により均等論の主張が制限される場合もあるが、日本と相違し、均等物が非本質的であることが要件とされていない。また、実用新型特許は審査を経ていないため禁反言が生じにくい。以上の理由により、中国では均等侵害が比較的認められやすい傾向にある。

 

続きは、月刊ザ・ローヤーズ201412月号をご覧ください。



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[1]上海市高級人民法院2011年2月10日判決 (2010)沪高民三(知)終字第89号

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