不利益な遡及立法の合憲性(その3) - 会計・経理全般 - 専門家プロファイル

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不利益な遡及立法の合憲性(その3)

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発表 実務に役立つ判例紹介
今日は、その2同様、納税者敗訴であった
千葉地裁平成20年5月16日判決について検討したい。

千葉地裁は、まず不利益遡及適用は違憲であることを指摘した上で、
「実質的に考えても、本件譲渡がされた時点においては、その譲渡による
損失を他の各種所得の計算上において損益通算できるとする改正前の
措置法が効力を有していたのであり、一般納税者としては、
その損益通算による利益をも予め考慮して譲渡に及ぶことが
通常予想される。とりわけ、本件譲渡を行った者が租税の専門家とは
いえない一般納税者の場合には、譲渡が行われた年度内に譲渡による
損失の損益通算が廃止されることを予想して、その危険を回避する
措置を期待することが必ずしも容易ではないとみられ、したがって、
原告の場合は、本件改正附則が本件譲渡にも適用されることによる
不利益は決して少なくはないといえる。」と指摘する。

「しかしながら、遡及立法が禁止の対象とする行為は、過去の事実や取引を
課税要件とする新たな租税を創設し、あるいは過去の事実や取引から生じる
納税義務の内容を納税者の不利益に変更する行為であるところ、
所得税はいわゆる期間税であり、これを納付する義務は、国税通則法15条
2項1号の規定により暦年の終了の時に成立し、また、その年分の
納付すべき税額は、原則として所得税法120条の規定により確定申告の
手続により確定するものであり、また、損益通算については、所得税法の
関係規定によれば、所得税の納税義務が成立し、納付すべき税額を
確定する段階において、その年間における総所得金額等を計算する際に、
譲渡所得等の金額の計算上損失が生じている場合には、その金額を
他の各種所得の金額から控除するという制度であり、個々の譲渡の段階
において適用されるものではなく、対象となる譲渡所得の計算も、
個々の譲渡の都度されるものではなく、暦年を単位とした期間で把握される
ものである。
そうすると、本件において、平成16年分の所得税の課税期間が開始
したものの、その所得税の納税義務が成立する以前に行われた本件譲渡
についても改正措置法を適用する旨を定めた本件改正附則は、
厳密に言えば、遡及立法には該当しないといわざるを得ない。」

「もっとも、期間税の場合であっても、納税者は、通常その当時存在する
租税法規に従って課税が行われることを信頼して各種の取引行為を
行うものであるといえるから、その取引によって直ちに納税義務が
発生するものではないとしても、そのような納税者の信頼を保護し、
租税法律主義の趣旨である国民生活の法的安定性や予見可能性の維持を
図る必要はある。もっとも、期間税について、年度の途中において
納税者に不利益な変更がされ、年度の始めにさかのぼって適用される
場合とはいっても、立法過程に多少の時間差があるにすぎない場合や、
納税者の不利益が比較的軽微な場合であるとか、年度の始めに
さかのぼって適用しなければならない必要性が立法目的に照らし
特に高いといえるような場合等種々の場合が考えられるのであるから、
このような場合を捨象して一律に租税法規の遡及適用であるとして、
原則として許されず、特段の事情がある場合にのみ許容されると
解するのは相当ではない。」
と判示して、遡及適用を認めていない。

また、本件改正が立法裁量を逸脱・濫用したか、については、
以下のように判示して、原告の請求を棄却している。

「本件改正措置法の立法目的については、本件譲渡との関係では、
税率引下げによる土地取引の活性化を促すことが低迷するわが国経済の
現状に鑑みて急務とされていたことに加えて、株式に対する課税との
不均衡是正の見地(略)から、土地建物等の長期譲渡所得に係る
損益通算をできるだけ早期に廃止する必要があったことが挙げられる。
そして、本件改正附則を設けたのも、措置法の改正において、
損益通算の廃止は、長期譲渡所得税率の引下げと一体の措置として
実施することを予定していたところ、仮に損益通算の廃止のみの
施行時期を遅らせれば、駆け込み目的の安売りによる資産デフレの
助長が懸念されたことから、改正措置法31条の規定を平成16年分の
所得の課税開始時以後に行う土地等の譲渡について適用する必要性が
高かったことによる。」

「土地建物等の長期譲渡所得について損益通算の制度を廃止することは、
同所得に分離課税方式が採られていることとの整合性を図り、かつ、
損益通算がされることによる不均衡を解消して適正な租税負担の要請に
応えるものとして、合理性があるということができる。」
「平成16年度税制改正における譲渡所得についての損益通算の廃止は、
長期譲渡所得の税率引下げ等の措置と相まって、使用収益に応じた
適切な価格による土地取引を促進し、収益性の高い土地の流動性を高め、
もって、土地市場を活性化させ、これにより土地価格の下落に歯止めが
かかることが期待されたものであり、その目的に照らして、
損益通算廃止措置は合理性を有すると考えられる。」

「本件の場合、不動産譲渡による損失を他の所得の金額の計算上、
損益通算する制度の問題性については、平成16年税制改正の
数年前ごろから政府税制調査会において既に度々指摘されていた
ものであり、これが自由民主党の決定した平成16年度税制改正大綱の
中に損益通算制度廃止という内容で盛り込まれた。そして、
その大綱の内容は、平成15年12月18日の日本経済新聞に
掲載され、その周知の程度は完全なものとはいえないまでも、
平成16年分所得税から長期譲渡所得について損益通算制度が
適用されなくなることを納税者において予測できる状態になった
ということができる。したがって、平成16年1月1日からの
土地建物等の譲渡時を基準とすると、確かに切迫していたことは
否定できないものの、同日以降の土地建物等の譲渡について
損益通算ができなくなることを納税者においてあらかじめ予測する
ことができる可能性がなかったとまではいえない。」

この論理がとんでもない暴挙であることは自明であろう。
つまり、国会論議の中でどのように改正されるか分からない
政府税調及び与党税調の改正大綱の中身は、
日経新聞等に掲載されているから、周知されていたというのである。
この論理をそのまま適用されてしまうならば、
我々税理士は、税調の答申の内容を即時に理解し、
クライアントに周知徹底させなければ、
クライアントとの関係悪化を機に、
税理士賠償訴訟のターゲットにされることを
裁判所が認めたことになるのである。

また、東京地裁でも指摘されているが、もう1点として、
本件改正が先延ばしになっていたら、
「年内の駆け込み土地売却を勧める税理士等の提案が
インターネットのホームページに掲載される等の動きがみられた
ことからも、単なる懸念にとどまらず現実性を帯びていた」
と指摘する。
しかし、改正大綱の中身が周知されていたのならば、
一部の税理士がわざわざHPで節税への呼びかけはしないし、
むしろ、クライアントに周知していなかったら職務怠慢なわけで、
税理士がプロフェッショナルであることをやめたことを
意味するのではないでしょうか?
千葉地裁の論理は、「卵が先か鶏が先か」であって、
自己撞着はなはだしいおかしな判決である。

次回において、この3事例を総括して、検討することとしたい。

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