早わかり中国特許:第36回 中国特許民事訴訟の基礎 - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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早わかり中国特許:第36回 中国特許民事訴訟の基礎

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早わかり中国特許

~中国特許の基礎と中国特許最新情報~

2014年6月6日

執筆者 河野特許事務所

弁理士 河野英仁

(月刊ザ・ローヤーズ 2014年5月号掲載)

 第36回 中国特許民事訴訟の基礎

 

1.概要

 第35回に引き続き中国における特許民事訴訟について解説する。

 

2. 特許民事訴訟と特許無効との関係

(1)特許無効の抗弁の禁止

 日本においては平成16年法改正により追加された日本国特許法第104条の3[1]の規定に基づき、裁判所において特許無効を抗弁として主張することができる。しかしながら、中国においては人民法院において特許の無効を抗弁として主張することはできず、別途復審委員会に対し無効宣告請求を行わなければならない。

 

(2)現有技術・現有設計の抗弁

 人民法院において無効の抗弁を主張することはできないが、専利法第62条の規定に基づき、現有技術の抗弁が認められる。

 

 専利法第62条

 特許権侵害紛争において、侵害被疑者が、その実施した技術又は外観設計が現有技術又は現有設計であることを証明できる場合、特許権侵害に該当しない。

 

 ここでいう現有技術とは専利法第22条第5項に規定されている。

 専利法第22条第5項

 本法にいう現有技術とは、出願日前に国内外で公衆に知られている技術をいう。

 

 日本と異なり中国では民事訴訟において無効の抗弁を行うことができない。特許の有効性については復審委員会にて無効宣告請求を行うほか無い。ただし、民事訴訟においてもイ号製品が現有技術、すなわち公知、公用、刊行物公知に係る技術であることが立証できれば、特許権侵害が成立しないこととなる。

 

 司法解釈[2009]第21号第14条では現有技術の抗弁に関し、さらに詳細な解釈を行っている。

 

第14条 訴えられた、特許権の技術的範囲に属する全ての技術的特徴が、一の現有技術方案の対応する技術的特徴と同一または実質的相違がない場合、人民法院は、権利侵害の被告が実施した技術は専利法第62条に規定される現有技術に属すると認定しなければならない。

 

 すなわち、現有技術と「同一または実質的相違」がないことが条件とされている。ここで問題となるのが、実質的相違の範囲である。一の現有技術とイ号製品とが完全に同一であることは少ないから、一の現有技術の一部を周知技術に置き換えたものも実質的装置がないとして現有技術の抗弁が認められる可能性がある。実務上は被告側から現有技術の抗弁がなされることが多く重要な論点である。現有技術の抗弁については別途回を改めて解説する。

 

(3)発明特許に対する無効宣告が請求された場合

 専利法第45条[2]の規定に基づき、被疑侵害者は訴訟開始後を含め、いつでも無効宣告を復審委員会に請求することができる。ここで、訴訟開始後に無効宣告請求を行った場合に、人民法院が訴訟を中止するか否かが問題となる。司法解釈では、人民法院が受理した発明特許侵害紛争案件において、答弁書期間内に被告が無効宣告を請求した場合、人民法院は訴訟を中止しなくても良い、と規定されている(司法解釈[2001]第21号第11条)。

 

司法解釈[2001]第21号11

 人民法院が受理した特許権侵害紛争案件又は特許復審委員会の審査を経て権利を維持した実用新型特許権、外観設計特許権侵害紛争案件において、被告が答弁期間内に当該権利の無効宣告を請求した場合、人民法院は訴訟を中止しなくても良い。

 

 このように、発明特許権侵害訴訟においては原則として、無効宣告請求がなされたとしても、訴訟は中止されないが、実務上は裁判官の裁量に委ねられており、中止される場合もある。無効宣告請求が復審委員会に請求された場合でも、人民法院は民事訴訟の審理を一旦進め、判決を各段階で審理を中止することが多い。判決文を記載した後に特許が無効となれば時間の無駄となるからである。このような場合、裁判官から無効宣告請求の審理状況について問い合わせを受けることが多い。

 

(4)実用新型・外観設計に対する無効宣告が請求された場合

 一方、審査を経ずに権利が成立する実用新型特許権及び外観設計特許権に対しては、原則として訴訟が中止される。特許が無効と宣告された場合、特許権は初めから存在しなかったものとみなされ(専利法第47条第1項)、同時進行していた訴訟が無駄となるからである。

 

司法解釈[2001]第21号第9条

人民法院が受理する実用新型特許権、外観設計特許権侵害紛争案件において、被告が答弁期間内に当該権利の無効宣告を請求する場合、人民法院は訴訟を中止するものとする。但し、次の各号のいずれかに該当する場合は、訴訟を中止しなくても良い。

(1)原告が提出した検索報告に、実用新型特許権の新規性、創意性の欠如をもたらした技術的文書がない。

(2)被告が提供した証拠により、その使用する技術がすでに周知されていると証明するに足りる。

(3)被告が当該特許権の無効宣告を請求する際に提供した証拠又はその依拠となる理由が明らかに不十分である。

(4)人民法院が訴訟を中止してはならないと認めるその他の事情。

 

 第9条に示すとおり、原則として訴訟は中止されるものの、特許権評価報告により権利の有効性が高いことが裏付けられている場合、または、被告の主張に根拠がない場合等は訴訟が中止されない。

 

 特許権評価報告は、日本の実用新案技術評価書に類似するものであり、審査官による特許の有効性に関する見解が記載されている(専利法第61条第2項)。実用新型特許権者または外観設計特許権者は事前に特許権評価報告を取得しておくことで、権利の有効性を確認でき、また訴訟の中止を防止することができる。実務上は特許権を行使したものの、すぐさま無効となっては訴訟コストが無駄となるため、事前に特許権評価報告を得てから、訴訟を提起することが多い。

 なお、答弁書提出期間経過後に、被告が実用新型特許または外観設計特許に対し無効宣告請求を行った場合、時期遅れであるとして原則として人民法院は訴訟を中止してはならない(司法解釈[2001]第21号第10条)。

 

司法解釈[2001]第21号第10条

 人民法院が受理した実用新型特許権、外観設計特許権侵害案件において、被告が答弁期間満了後、当該権利の無効宣告を請求する場合、人民法院は訴訟を中止してはならない。但し、審査を経て訴訟を中止する必要があると認められる場合を除く。

 

 

続きは、月刊ザ・ローヤーズ20145月号をご覧ください。




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[1] 日本国特許法第104条の3

1 特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。

2 前項の規定による攻撃又は防御の方法については、これが審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められるときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。

[2] 専利法第45条

国務院特許行政部門が特許権を付与することを公告した日から、いかなる機関又は組織又は個人もその特許権の付与が本法の規定に適合しないと認めたときは、特許復審委員会に当該特許権の無効を宣告するよう請求することができる。

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