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早わかり中国特許
~中国特許の基礎と中国特許最新情報~
2013年11月1日
執筆者 河野特許事務所
弁理士 河野英仁
(月刊ザ・ローヤーズ 2013年9月号掲載)
第28回 中国特許民事訴訟の基礎(第2回)
(ii)管轄異議の申し立ての流れ
管轄異議の申立ては、当然管轄の適否を巡り争われる場合もあるが、実務上は被告の時間稼ぎのために請求されることが多い。つまり、特許権侵害に係る訴状を受け取った場合、15日(在外企業の場合30日(民事訴訟法第125条、第268条))という極めて短時間で答弁書を提出しなければならず、十分な対応を取ることができない。そこで、管轄の適否はともかく、管轄異議の申し立てを行い、訴訟の準備期間を得るのである。以下、管轄異議申立てのプロセスについて説明する。
人民法院が事件を受理した後に、当事者が、管轄権について異議を有する場合、答弁書提出期間内に異議を申立てなければならない(民事訴訟法第127条)。管轄異議の申立てがなされた場合、異議申立ての副本が被申立人に送付される。被申立人は、異議申立てに対する答弁書を提出することができる。人民法院は、当事者が申立てた異議について審査を行う。ここで、異議が成立する場合には、管轄権を有する人民法院に事件を移送する旨の裁定[1]を行い、異議が成立しない場合には、却下する旨の裁定を行う。
この裁定に対しては、一級上の人民法院へ上訴することができる。上訴期間は裁定の場合、裁定書送達の日から10日以内である(民事訴訟法第164条)。また、在外企業の場合、30日である(民事訴訟法第269条)。一般の特許訴訟の場合、高級人民法院へ上訴する。訴訟のための準備期間がさらに必要である場合、高級人民法院へ上訴する。上訴後の手続き概要は以下のとおりである。
上訴した場合、副本が相手方に送付され、相手方は15日以内(日本企業は30日)以内(民事訴訟法第167条、第269条)に答弁意見を提出することができる。一級上の人民法院は再度当事者が申立てた異議について審査を行う。ここで、異議が成立する場合には、管轄権を有する人民法院に事件を移送する旨の裁定を行い、異議が成立しない場合には、原審を維持する裁定がなされる。
3.管轄の衝突
中国では特許権侵害が存在しない事の確認を求める差し止め請求権不存在確認訴訟を提起することができる。被疑侵害者が差し止め請求権不存在確認訴訟を被疑侵害者の所在地を管轄する人民法院に提訴(例えば上海)し、その後、特許権者が被疑侵害者に対し、特許権侵害訴訟を被疑侵害製品の販売地を管轄する人民法院に提訴(例えば北京)した場合、管轄の衝突が発生する。
この場合、2つの異なる人民法院にて同一特許についての審理がおこなわれることになることから、人民法院はいずれか一方に審理を併合させることとなる。併合させる場合、人民法院は原則として、最初に訴状が提出された人民法院側に審理を併合する。
米国イーライリリー事件[2]では審理の併合先を巡り争いとなった。米国イーライリリー社は中国における特許権者であり、中国にて中国企業を相手取った訴訟を検討していた。ここで、中国企業は彼らの地元である江蘇省の人民法院に対し、先に特許権非侵害を主張すべく、差止請求権不存在確認訴訟を提起した。これに対し、特許権者たる米国イーライリリーは、特許権侵害であるとして、山東省の人民法院に提訴した。この際、審理を併合するにあたり、江蘇省の人民法院に併合するのか、或いは、山東省の人民法院に提訴するのかが問題となった。最高人民法院は、先に請求のあった人民法院が裁判管轄権を有すると判示した。つまり、中国企業の地元人民法院で、特許侵害の有無が争われることとなったのである。
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