中国特許判例紹介(37) 物の製造方法特許の立証責任(第2回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国特許判例紹介(37) 物の製造方法特許の立証責任(第2回)

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物の製造方法特許の立証責任

~物が新製品でない場合の立証責任はどちらが負うか?~

中国特許判例紹介(37)(第2回)


2014年11月21日

執筆者 河野特許事務所

弁理士 河野 英仁

 

濰坊恒連漿紙有限公司

                   再審申請人(一審被告、二審上訴人)

v.

宜賓長毅漿粕有限責任公司

                           再審被申請人(一審原告、二審被上訴人)

 

4.最高人民法院の判断

争点: 被告は挙証責任を十分に果たしていない

 民事訴訟において、挙証責任の分配は一般に「主張する者が挙証する」の原則が採用される。しかし、製造方法発明に関しては、上述したとおり専利法第61条第1項により、被告に新製品の製造方法と特許方法とが相違することを挙証させている。また最高人民法院民事訴訟証拠に関する若干規定第4条第1項第1号も以下のとおり規定している。

 

第四条 以下の権利侵害訴訟においては,以下の規定に基づき挙証責任を負担する:

 (一)新製品の製造方法に係る発明特許により引き起こされた特許権侵害訴訟においては,同様の製品を製造した単位または個人により、その製品の製造方法が特許方法と同じでないことの挙証責任を負う;

 

 一方、非新製品の製造方法の発明特許紛争の挙証責任分配について、関連法律及び司法解釈は共に具体的に規定していない。一般的に、製品製造過程は、生産ステップ及び工程のパラメータに関わり、具体的なフロー及びデータは、生産現場または生産記録を実地調査することによってのみ知ることができる。

 

 通常の状況下では、特許権者は、被疑侵害者の生産現場及び生産記録に接して、完全な生産方法の証拠を取得することは困難であり、製品の製造方法証拠が完全に被疑侵害者の手中に掌握されている状況下において、侵害可能性の大小及び双方当事者の挙証能力を結合せず分析を行い、簡単に「権利を主張する者が挙証責任を負う」との一般原則を適用し、特許権者により全て立証させるのは、明らかに不利であり、公平の原則に反する。

 

 さらに、民事訴訟証拠規定第7条は以下のとおり規定している。

 

民事訴訟証拠規定第7条

 法律に具体的な規定が存在しない場合、本規定及びその他司法解釈に基づき、挙証責任負担を確定する術がない場合、人民法院は、公平原則及び誠実信用原則に基づき、当事者の挙証能力等の要素を結合して、挙証責任負担を確定することができる。

 

 本規定から、証拠を掌握する当事者は証拠を提供して客観事実を原状に復する責任を負い、挙証責任の分配原則は公平及び誠実信用の基礎上にあり、最大限度にて客観事実を調べて明らかにすることを確保しなければならないといえる。

 

 製品製造方法発明の特許権侵害紛争に関していえば、特許方法を使用して得た製品が、新製品に該当する場合、専利法では被疑侵害者が新製品を生産する製造方法に対し、挙証責任転換の規則を適用することを規定している。その理由は、新製品が方法特許の出願前に公衆に知られていないということは、特許方法により製造された可能性が比較的高いからである。製造方法の証拠は被疑侵害者の制御下にあり、証拠に対する距離がより近い被疑侵害者により、当該証拠を提供させ、自己の侵害行為が成立しないことを証明させることとしているのである。

 

 特許方法を使用して獲得した製品が、新製品に属さない場合、それは方法特許の出願前にその他の方法で既に同様の製品が製造されていたことを意味し、それゆえ、同様の製品が特許方法により製造された可能性は新製品の場合と比較して小さく、挙証責任転換規則を適用し、一律に被疑侵害者がその製造方法に対し挙証するとすれば、特許権者による乱用により、被疑侵害者の商業秘密が取得される可能性があり、被疑侵害者の商業秘密保護上不利となる。そのため、専利法及び司法解釈では、非新製品について挙証責任転換規則を規定していない。

 

 しかしながら、この類の製品の製造方法は往々にして、被疑侵害者だけが知っており、特許権者は挙証が困難であり、簡単に「権利主張する者が挙証責任を負う」の原則を適用し、一律に特許権者が被疑侵害者の製造方法に対し挙証させるとすれば、確かに困難で不公平であり、案件事実の調査上不利である。

 

 案件事実を調査することができるようすると共に、被疑侵害者の商業秘密が漏れないことを確保し、特許権者と被疑侵害者の利益とのバランスを図るべく、訴訟実践に基づき、最高人民法院は、以下のとおり判断した。

 

 特許権者が、被疑侵害者が同様の製品を製造したということを十分に証明し、合理的な努力を行ったものの依然として、被疑侵害者は当該特許方法を確かに使用していたことを証明する術がなく、案件の具体的状況に基づき、既に知った事実及び日常生活経験を総合的に結合し、該同様の製品が特許方法により製造した可能性が大きいと認定するに足りる場合、民事訴訟証拠規則第7条の規定に基づき、挙証責任を被疑侵害者に負わせ、特許権者にさらに進んだ証拠を要求させることなく、被疑侵害者によりその製造方法が特許方法と異なる証拠を提供させるのが妥当である。

 

 本案は、製品の製造方法発明特許侵害紛争に関わり、対象となった木製パルプは必ずしも新製品ではない。一審において、原告は、撮影した被告の生産現場、関連機器設備及び原材料である木板パルプが投入された過程の動画資料を提供した。これらの証拠は、完全な生産ステップ及び工程パラメータを形成するものではなく、被告が対象製品を生産する製造方法を証明するには足りないが、被告は一審において、当該動画資料により示されるものは、被告公司の生産現場であることを認めている。

 

 同時に、一審法院は、原告の証拠保全申請に基づき、2度も被告公司のところに赴き、調査を行い、証拠取得を行った。第1回目の証拠取得において、被告は、責任者は不在であると称し、法院が生産現場に入ることを阻止した。第2回目の証拠取得時には、被告は、法院をコットンパルプ生産現場に連れて行き、上述した動画資料により示される木製パルプの生産現場に連れて行かなかった。

 

 このことから、原告は、既に対象製品と、対象特許方法で生産した製品とが同一であることの挙証責任を完成しており、対象製品の製造方法の証拠が、被告に掌握されている状況下で、積極的に生産現場の動画資料を提供し、かつ、法院に証拠保全を申請しており、対象製品の製造方法が、対象方法特許権の保護範囲に属することを証明するために、合理的努力を尽くしている。

 

 一方、被告は、その対象製品の生産販売を否認しているが、同時に、対象製品はコットンパルプであることを主張しているものの、有力な証拠を提出して反駁していない。一審法院がその掌握した製造方法証拠に対し、証拠保全を行った際も、協力することなく、法院に関連製品の製造方法証拠を取り調べすることができないようにした。

 

 最高人民法院は、上述した事実及び日常生活経験から、被告が侵害している可能性が比較的高いと判断した。そして原一審、二審法院が、総合的に双方当事者が既に完成した挙証証拠、証拠の遠近距離等の要素を考慮し、対象製品の製造方法を証明する挙証責任を、被告に分配したということは、必ずしも不当ではないと判断した。

 

 被告は、完全に対象製品の製造方法が特許方法と異なることを証明する証拠を提供する能力を有しており、それにより自身が侵害していないことの主張をサポートできるが、被告は、正当な理由無く対象製品の製造方法の証拠を提出しなかった。最高人民法院は、被告が挙証義務を果たしていないことから、原一審及び二審法院が被告の製造方法は、特許権の技術的範囲に属するとした判断は妥当であると結論づけた。

 

 

5.結論

 最高人民法院は、被告の製造方法が特許発明の技術的範囲に属するとした原審の判決を支持した。

 

 

6.コメント

 対象製品が市場で入手できるものであれば、侵害の立証は容易であるが、特許が製造方法の発明であり、かつ、対象製品が非新製品である場合は、挙証責任の転換規定の適用も受けることができないことから侵害の立証は極めて困難となる。本事件では、このような問題について、特許権者側が証拠保全を含めた挙証責任を最大限果たしていれば、状況に応じて被告側に挙証責任を負わせることとする旨判示された。製造方法特許の権利行使時において参考となる事例である。

 

以上

 



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