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河野 英仁
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インド特許法の基礎(第12回)(2)~審査請求制度~

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インド特許法の基礎(第12回)(2)

~審査請求制度~

 

2014年6月3日

執筆者 河野特許事務所

弁理士 安田 恵 

3.効果

(1)審査請求を行わなかった場合の効果

 特許出願は,審査請求を行わない限り審査されない(第11B条(1))。審査請求が行われないまま,審査請求期限が過ぎた場合,特許出願は取り下げられたものと見なされる(第11B条(4))。

 インドにおいては,所定の手数料を納付し,嘆願書(規則137)を提出することによって,期限徒過の瑕疵を回復できる手続きもあるが,審査請求の期限は期間延長の対象から外れており(規則138条),「何人の権利も害することなく取り除くことができると認める手続」(規則137条)に該当しないと考えられ,審査請求期限の徒過は嘆願書の提出によって回復させることはできない。

 一方,インド特許法には「本条に基づく完全明細書の補正については,クレームの優先日の補正とすること又はそれを含めることができる。」(第57条(5))と規定されている。優先日を繰り下げる補正を行うことによって,審査請求期限を延長し,期限徒過の手続き瑕疵を回復させる方法も考えられるが,期限を徒過した時点で出願は取下擬制されており,かかる回復手続きは認められない(W. P. (C) 801 of 2011)。

 

 また、仮明細書を取り消し、仮明細書に係る出願日を完全明細書の提出日へと後日付けにするによって(第9条(4),17条(1))、審査請求期限を延長し,期限徒過の手続き瑕疵を回復させる方法も考えられるが,同様の趣旨でかかる回復手続きは認められないと考えられる。

 

(2)審査請求を行った場合の効果

 審査請求が行われた場合,図9に示すように願書並びに明細書及びそれに係る他の書類は長官によって審査官に付託され,審査官は特許出願の審査を行う(第12条)。なお,PCT国内段階出願の処理は,優先日から31ヶ月の期間満了前に処理してはならないとされているが(規則20条(2),規則20条(4)(i)),様式18による請求が行われた場合,31ヶ月の期間満了前であっても,出願の審査が開始される(規則20(4)(ii))。特許出願の付託は,通常,公開日又は審査請求日のいずれか遅い方から1ヶ月以内に行われる(規則24B(2)(i))。出願審査は,「審査請求が受理され、特許法11A条に基づき当該出願が公開された場合、審査請求の順に従って,出願は審査される」[1]。インド特許庁の本庁及び支庁は,手続きの便宜のため,コルカタ,デリー,チェンナイおよびムンバイの4カ所にあり(第74条(3)),各庁はそれぞれ4つの審査グループ(電気電子,機械,バイオテクノロジー,化学)を有している。特許出願の審査は,発明の技術分野に応じた審査グループの審査官によって行われる。 

 

 

図9:審査手続きの概要

 

 特許出願が付託された審査官は,所定の事項について審査を行い,審査結果の報告書を長官に報告する(第12条(1))。具体的には,審査官は,先行技術の調査を行い(第13条),新規性,進歩性,産業上の利用可能性(第2条(1)(j)),発明の主題の適法性(第3条),単一性(第10条(5)),明細書の記載要件(第10条)等を審査する。報告書の作成期間は3ヶ月以内とされている(規則24B条(2)(ii))。報告を受けた長官は,報告書を1ヶ月以内に処理し(規則24B条(2)(iii)),審査請求の日又は出願公開日のいずれか遅い方から6ヶ月以内に,最初の審査報告書を出願人へ送付する(規則24B条(3))。利害関係人が審査請求を行った場合,審査報告書は出願人にのみ送付され,利害関係人には,審査報告書の発行に関する通知がなされる[2](規則24B(3))。なお,実際の審査は規則通りのスケジュールで進行しておらず,後述するように遅延気味である。

 

 特許出願が拒絶理由を有する場合,出願人は必要に応じて明細書の補正を行い,応答書にて反論等を行う。最初の審査報告を受領した出願人は,その受領の日から12ヶ月以内(いわゆる,アクセプタンス期間)に特許出願を特許付与可能な状態にしなければならない(第21条)。当該期間は原則として延長できない。ただし,出願人が聴聞を請求した場合(規則28条),アクセプタンス期間を経過しても聴聞が行われ,補正及び反論等の機会が与えられる。

 

 特許出願が特許付与の状態にあると判断された場合,出願人に対して特許証が付与され,特許付与日が登録簿に記録される(第43条(1))。また,特許が付与された事実,明細書等の書類が公開される(第43条(2))。

 

(3)特許出願の取り下げ

 インド特許法には審査請求それ自体の取り下げは規定されていないが,特許出願人は,特許出願後,特許付与前であればいつでも自己の特許出願を取り下げることができる(第11B(4))。特許出願の取下請求は,書面で行わなければならない(規則26条)。

 

4.各特許庁における審査の状況

 審査請求を行ってから最初の審査報告が送付されるまでの期間を図10のグラフ[3]に示す。図10のグラフは,デリー,ムンバイ,コルカタおよびチェンナイの特許庁における審査待ち期間(月)を4つの技術分野毎に示したものである。グラフは,インド特許庁のサイト「Dynamic utility to view 'Month of Request for Examination for which FER is being issued (All Locations)」(http://ipindiaservices.gov.in/rqstatus/)から得られたデータ(2014年4月現在)に基づいて作成した。

 

図10:各特許庁における審査待ち期間

 

 電気/電子分野に係る特許出願の審査に要する期間は概ね4年半~5年,機械分野に係る特許出願の審査に要する期間は概ね4年半~5年半であり,各特許庁における審査期間のバラツキは比較的小さい。一方,バイオテクノロジー及び化学に係る特許出願の審査に要する期間は概ね2年半~4年半であり,各特許庁における審査期間のバラツキは大きい。ムンバイ特許庁における審査期間は技術分野にかかわらず短い傾向にある。バイオテクノロジー分野の審査期間はチェンナイ特許庁が最も短く,化学分野の審査期間はムンバイ特許庁が短い。

 

5.補足:「出願権の証拠」の取り扱い状況

(1)「インド特許法の基礎(第8回)」で説明したように,出願権の譲受人が特許出願を行う場合、例えば、従業員が完成させた発明について会社が特許出願を行うような場合、原則として特許出願権の証拠を特許庁に提出しなければならない(第7条(2))。出願権の証拠は、出願時又は出願後6ヶ月以内に提出しなければならない(規則10)。従前は運用上,基礎出願の出願人と,条約出願(第2条(1)(c))の出願人が一致していれば,特許出願権の証拠の提出は求められていなかった。

 しかし,2013年10月28日付けの審決によって,基礎出願の出願人と,条約出願(第2条(1)(c))の出願人が一致している場合であっても出願権の証拠を提出しなければならないことが示された(OA/39/2011/PT/CH)。

 

(2)審決後,運用がいつ,どのような形で変化するか不透明な部分もあったが,その後に発行された審査報告を追ってみると,特許庁における運用の変化が既に見られる。「出願権の証拠」が未提出の特許出願に対しては,出願権の証拠のみならず,通常の期限徒過と同様,嘆願書の提出も求められている。嘆願書(規則137)は所定の手数料の支払いを要し,コスト面で無視できないと思われる。

 

(3)審決及び現在の審査運用状況を鑑みると,次のような対応が好ましいと考えられる。

(ア)新たにインドへ特許出願を行う場合

 出願と同時又は出願日から6ヶ月以内に出願権の証拠を提出すべきと考える。最も簡便な方法は,発明者が願書に署名を行う方法である。譲渡証,その他の証拠を提出することもできるが、譲渡証等が日本語で記載されている場合,翻訳文の提出が必要である。

 「出願人としての資格に関する申立て」を国際出願において行っている場合(PCT規則4.17),「出願権の証拠」は不要であり,審査官の要求に対してはPCT/IB/371の書面を提出すれば足りると考えられるが,運用上の無用な争いを避けることを考えると,上述のように願書に署名する方法が最も確実であると考える。

 

(イ)現在係属中の特許出願

(ⅰ)出願日から6ヶ月が経過していない特許出願

 特許出願日から6ヶ月以内に出願権の証拠を提出すべきと考える。

 

(ⅱ)出願日から6ヶ月が経過している特許出願

 審査報告で出願権の証拠の提出を求められた際に,出願権の証拠を提出する方法と,現段階で速やかに提出する方法が考えられる。いずれの場合も,嘆願書(規則137)と手数料を支払えば期限徒過の手続瑕疵を治癒させることができる。ただし,出願権の証拠の散逸が懸念される場合は,現段階で出願権の証拠を提出しておいた方が良いと考えられる。

 

(ウ)権利化済みの特許について

 無効理由に該当しないと考えられ,特段の対応は不要と考える。

以上

 

 

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[1] 「特許庁の特許実務及び手続の手引(インド)01.11版2011年3月22日修正」,第8章 審査及び特許権の付与,08.02「審査の付託」

[2] 「特許庁の特許実務及び手続の手引(インド)01.11版2011年3月22日修正」,第8章 審査及び特許権の付与,08.01「審査請求」,08.04「報告の長官による取扱い及び最初の審査報告書の発行」

[3] インド特許庁のサイト「Dynamic utility to view 'Month of Request for Examination for which FER is being issued (All Locations)」(http://ipindiaservices.gov.in/rqstatus/)から得られたデータに基づいて作成した。

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