インド特許法の基礎(第13回)(2)~アクセプタンス期間制度~ - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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インド特許法の基礎(第13回)(2)~アクセプタンス期間制度~

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インド特許法の基礎(第13回)(2)

~アクセプタンス期間制度~

 

2014年7月4日

河野特許事務所 

弁理士 安田 恵

(3)裁判所の判断

 裁判所は以下の通り判示した。

 第21条の規定はインド特許法の第12条の文脈で解釈されるべきである。第12条には「(1)第11B 条(1)又は(3)に基づいて所定の方法により特許出願について審査請求が行われたときは,願書並びに明細書及びそれに係る他の書類は,長官が審査官にできる限り速やかに付託し,次に掲げる事項について長官に報告させなければならない。

…省略…

(2) (1)に基づく願書並びに明細書及びそれに係る他の書類を付託された審査官は,所定の期間内に長官に報告することを常例としなければならない。」と規定されている。

 

 第21条及び第12条を絡めて解釈すると,第21条は,特許出願の審査結果として明らかにされ,審査報告において挙げられた拒絶理由を処理することが出願人に要請されていることを示していると言える。出願人が拒絶理由に対して十分に答弁されているかどうかは別の問題である。本法に基づいて出願人に課された全ての要件を遵守しないときのみ,特許出願人は当該特許出願を放棄したものとみなされる。第21条は第15条の規定と対比することができる。第21条には「所定の期間内に,・・・本法により又は基づいて出願人に課された全ての要件を遵守しない限り」(unless, within such period as may be prescribed, the applicant has complied with all the requirements imposed on him by or under this Act)と規定されているのに対して,第15条には,「長官は,「願書又は明細書若しくはそれについて提出された他の書類が本法又は本法に基づいて制定された規則の要件を遵守していないと納得するときは」(Where the Controller is satisfied that the application or any specification or any other document filed in pursuance thereof does not comply with the requirements of this Act or of any rules made thereunder),出願を拒絶することができ,・・・」と規定されている。

 

 審査報告に対する回答において,出願人が拒絶理由に対して何ら答弁しなかったような場合,特許出願は放棄されたものとみなされると言える。もし出願人が拒絶理由に対して答弁を行ったものの,特許要件を充足していないような場合については,第14条の規定(聴聞の機会付与)に従った後,長官は第15条の査定処理(拒絶の査定)を行うべきである。

 

 「放棄(“abandonment”)には,特許出願を放棄する意思を明示する出願人の意識的な行為が求められる(Ferid Allani v. Union of India 2008 (37) PTC 448 (Del.))。

 

 本件においては,出願人は,2回の審査報告で挙げられた拒絶理由それぞれに対して,所定の期間内(最初の審査報告が送付された日から12ヶ月以内)に回答を行っている。出願人は拒絶理由に対する応答を怠ったとは言えず,従って出願人は本法又は本法に基づいて制定された規則の要件を遵守していないとは言えない。

 

 更に重要なことには,特許出願を放棄しないという出願人の意図は2008年9月22日付けの回答から明らかである。当該回答においては,長官が特許査定の心証を得ないときは聴聞の機会が付与されるよう請求している。長官は特許出願人に不利益な裁量権を行使する前に聴聞の機会を付与する義務がある。

 

(4)判決後の審査結果

 裁判所は特許庁の命令を取り消した。その結果,出願人の特許出願は庁に再係属し,インド特許法に従って処理された。本件特許出願3380/ DEL/ 2005は最終的に20010年9月15日に特許が認められた(特許第242839号)。

 

(5)考察

 第21条を第12条の文脈で解釈すべき点は妥当と考える。第21条及び第12条のいずれも審査を促進するための規定と考えることができ,第12条は特許庁側における手続きを規定し,第21条は出願人側の手続きを規定している。つまり,第12条においては,長官は審査請求が行われた場合,明細書等を速やかに審査官に付託し(第12条(1)),長官により特許出願を付託された審査官は,所定の期間内に審査結果を長官に報告することを常例としなければならないとされている(第12条(2))。一方,第21条においては,出願人は,所定期間内に,インド特許法に基づいて出願人に課された全ての要件を遵守しなければならないとされている(第21条(1))。第12条及び第21条に規定された「所定期間」の具体的な期間は,同一の規則24B条に規定されている。規則24B条の標題は「出願の審査」であり,第12条の「所定期間」は,長官が特許出願を審査官に付託してから通常1ヶ月であり,遅くとも3ヶ月を超えないものとされ(規則24B条(2)(ⅱ)),第21条の「所定期間」は,最初の審査報告が発せられてから12ヶ月とされている(規則24B条(4))。

 

 第21条が審査手続きを促進するための出願人に係る規定であると考えると,出願人がアクセプタンス期間内に特許査定のための手続きを誠実に遂行し,アクセプタンス期間内に聴聞の申請を行っているような場合にまで,アクセプタンス期間が経過したからと言って特許出願を放棄されたものとみなすことは妥当性に欠けると思われる。特許出願の審査において出願人に求められる手続き(聴聞の申請を含む)をアクセプタンス期間内に遂行している場合,出願人は第21条の要請を満足しているとして,特許出願の放棄擬制を行わないとする解釈は首肯することができる。

 

 また判決の趣旨によれば,アクセプタンス期間の満了により特許出願が放棄されたとみなされないためには,出願人が行うことができる手続きをアクセプタンス期間内に行い,特許出願を放棄する意思が無いことを明示することが重要であり,具体的には,

(a)最初の審査報告が発せされている場合,出願人はアクセプタンス期間満了前に回答を行うこと,

(b)審査報告に対する回答において,聴聞の申請を行うこと

 の双方が重要であると考えられる。

 

 (a)に関しては,2回目の審査報告が発せされている場合,当該審査報告に対する回答も,最初の審査報告から12ヶ月が満了する前に行うべきであると考える。最初の審査報告に対する回答をアクセプタンス期間内に行っており,聴聞の申請も行っているからと言って,2回目の審査報告に対する回答をアクセプタンス期間経過内に行わないと,出願人に課されている手続きを怠ったと解釈され,特許出願は放棄されたものとみなされると考えられる。なお,審査報告と共に出願関連書類が出願人に返還されているときは,出願人は返還された出願関連書類をアクセプタンス期間内に再提出しなければならない(第21条(1)説明)

 

 (b)に関しては,審査報告に対する回答をアクセプタンス期間内に行っているからと言って,聴聞の申請を行わなければ,拒絶理由が解消していないと,聴聞が行われずに特許出願は放棄されたものとみなされるものと考えられる。放棄擬制は,拒絶の査定では無いため,特許出願が放棄されたものとして処理された場合、出願人から申請が無ければ長官は必ずしも聴聞の機会を付与する必要は無いと思われる。

 

5.実務上の対応

 審査報告が発せされた場合,審査報告が最初のものであるか2回目以降のものであるかに拘わらず,最初の審査報告の日から12ヶ月以内に長官に対して回答(答弁/補正)を行うべきである。

 また,審査報告に対する回答において,第14条の聴聞の申請を定型的に行うことが好ましいと考える。例えば,上述の特許出願(3380/ DEL/ 2005)においては,次のような一文が回答の末尾に記載されている。

 In the event the decision of the learned Controller of Patents is adverse to the Applicant, we humbly request that the Applicant be given an opportunity to be heard as per the provisions of Section 14 of the Indian Patents Act, 1970.

 最初の審査報告に対する回答に対する2回目以降の審査報告が,アクセプタンス期間内に発せされる保証は無いため,回答を早期に行う場合も聴聞の申請を行うことが好ましい。例えば,上述の特許出願(3380/ DEL/ 2005)の場合,最初の審査報告から約2ヶ月後に,当該審査報告に対する1回目の回答が行われているが,この段階でも聴聞の申請が行われている。出願人は聴聞の申請はアクセプタンス期間満了の10日以前に行わなければならない点に留意すべきである(第80条)。アクセプタンス期間の満了日に回答を行うと共に聴聞の申請を行うことによって,聴聞の機会が与えられるケースもあるが(規則28条(2)),お勧めできる対応では無い。出願人は聴聞の申請を遅くともアクセプタンス期間の満了する10日以前に行うべきである。

 

6.その他(過去の改正)

 アクセプタンス期間は以下の通り度々改正されており,2005 年まで短縮の方向にあったが,2006 年特許規則では逆に延長された[1]

 

 2002年特許法改正前の1970年法[2]におけるアクセプタンス期間は12ヶ月であり(第21条(1))、申請により18ヶ月まで延長することができた(第21条(2))。

 2002年特許法[3]におけるアクセプタンス期間は12ヶ月に短縮された(第21条)。また、延長に係る第21条(2)の規定が削除され、アクセプタンス期間を延長することができなくなった。

 2005年特許法ではアクセプタンス期間の具体的期間を規則に定めている。2005年特許規則[4]ではアクセプタンス期間は更に短縮され、6ヶ月とされた(規則24B条(4)(ⅰ))。ただし、申請により3ヶ月まで延長することができた(規則24B条(4)(ⅱ))。

 ところが2006年特許規則[5]では上述のようにアクセプタンス期間は12ヶ月に延長された(規則24B条(4))。また延長に係る第24B条(4)(ⅱ)の規定が無くなり、アクセプタンス期間は延長することができなくなった。2006年特許規則では、出願人にとって余裕のある期間への変更が行われたが、一方で特許庁側の手続き期間を規定するなどの改正が行われており(規則24B条(1)~(3))、特許出願の審査の迅速化が図られている[6]

 

 法律及び規則の改正によりアクセプタンス期間は比較的頻繁に変更されているため、法改正があった際はアクセプタンス期間の変更の有無を確認することが好ましい。

 

以上


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[1] 「インドにおける知的財産保護制度 及び その運用状況に関する調査研究報告書 」平成 19 年 3 月,社団法人 日本国際知的財産保護協会,AIPPI・JAPAN,第9頁(http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/pdf/zaisanken_kouhyou/h18_report_04.pdf)

[2] THE PATENTS ACT, 1970(http://ipindia.nic.in/ipr/patent/patents.htm)

[3] The Patents (Amendment) Act 2002, 25 June 2002,Sec14(http://ipindia.nic.in/ipr/patent/patentg.pdf)

[4] The Patents (Amendment) Rules 2005, dated 28-12-2004 (SO No. 1418 (E) ,Sec 12, (http://ipindia.nic.in/ipr/patent/The%20Patents%20(Amendments)%20Rules%202005%20(ENGLISH).pdf)

[5] The Patents (Amendment) Rules 2006, dated 05-05-2006 (SO NO. 657 (E), Sec 8(http://ipindia.nic.in/ipr/patent/patent_rules_2006.pdf)

[6] 「インドにおける知的財産保護制度 及び その運用状況に関する調査研究報告書 」平成 19 年 3 月,社団法人 日本国際知的財産保護協会,AIPPI・JAPAN,第10頁

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