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河野 英仁
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インド特許法の基礎(第7回)(2):特許出願

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インド特許法の基礎(第7回)(2)

~特許出願(3)~

 

2014年2月11日

執筆者 河野特許事務所

弁理士 安田 恵

 

4.要件

(1)主体的要件

 分割出願の出願人は、親出願の出願人であることが要件である(第16条(1))。

 

(2)客体的要件

(a)分割出願の親出願について

 分割出願の元になる親出願として認められる出願は次表の通りである。

親出願

分割出願の可否

通常の特許出願(完全明細書添付)

通常の特許出願(仮明細書添付)

可(条件付き)

条約出願(パリ条約に基づく優先権を主張した出願)

PCT国内段階出願

分割出願

不可(原則)

 

(ⅰ)通常の特許出願

 特許出願人は、完全明細書が添付された通常の特許出願(第7条(4))に基づいて分割出願を行うことができる(第16条)。仮明細書[1]が添付された特許出願(第7条(4))に基づいて分割出願を行うことができるかどうかについて明示的に説明されたガイドラインは無いが、かかる特許出願も親出願になり得ると考える。仮明細書を願書に添付して出願を行った者も、文言上「本法に基づいて特許出願を行った者」(第16条(1))であり、特許法第16条(1)には「本法に基づいて特許出願を行った者は,・・・最初に述べた出願について既に提出済みの仮明細書又は完全明細書に開示された発明について,新たな出願をすることができる。」と規定されている。ただし、分割出願の内容について規定している特許法16条(2)においては「完全明細書」の存在が前提になっている[2]。分割出願の趣旨からしても、親出願が放棄擬制されないよう、仮明細書の提出日から12ヶ月以内に完全明細書を提出する必要がある[3]

 

(ⅱ)条約出願

 条約出願は、インド特許法の規定が,通常の出願と同様にして適用されるため(第139条)、当該条約出願を親出願にして分割出願を行うことができる[4]。なお、条約出願に基づく分割出願を禁止する規定は無い。

 

(ⅲ)PCT国内段階出願

 PCT国内段階出願は、インド特許法に基づく出願とみなされ(第7条(1A))、国際出願の願書と共に提出された明細書等は、インド特許法における完全明細書とみなされるため(第10条(4A),第138条(4))、PCT国内段階出願を親出願にして分割出願を行うことができる。なお、PCT国内段階出願に基づく分割出願を禁止する規定は無い。

 

(ⅳ)分割出願

 基本的に、孫出願、即ち分割出願に基づく分割出願は認められないと解釈されている。確かに、インド特許法の第16条の規定は孫出願を想定した規定では無い。具体的には、第16条(1)には「person who has made an application for a patent under this Act may・・・file a further application on in respect of an invention disclosed in the provisional or complete specification already filed in respect of the first mentioned application.」(本法に基づいて特許出願を行った者は,・・・,最初に述べた出願について既に提出済みの仮明細書又は完全明細書に開示された発明について,新たな出願をすることができる。)と記載され、第16条(3)には出願日について「the further application ・・・ shall be deemed to have been filed on the date on which the first mentioned application had been filed・・・」(その新たにされた出願・・・については,その最初に述べた出願がされた日に提出されたものとみなし)と説明されている。つまり、文言上、インド特許法には、分割出願は、直接その分割の元になった出願(親出願)がされた日に提出されたものとみなすと規定されており、親出願が分割出願であることは想定されていない。仮に「元になった出願」が分割出願であるとすると、第16条(3)の「説明(Explanation)」部分は、孫出願は子出願が提出された日に提出されたものとみなすと説明されていることになってしまう。

 また実際、孫出願が分割要件違反により放棄されたものとみなされる事件(例えば、出願番号3272/KOLNP/2008,3273/KOLNP/2008)が発生している[5]。放棄の決定書において、インド特許庁は「a divisional application can not be further divided to another divisional application」(分割出願を、更に他の分割出願に分割することはできない)と述べている[6]

 

 しかしながら、インド特許法には、孫出願を禁止する明示の規定は存在せず、子出願が包含する発明の内容によっては孫出願が許されるケースもあり得ると考える現地代理人もいる。文言上、第16条は、孫出願への分割を規定していないが、子出願が親出願の出願日にされたものであって、親出願とは別個の独立した通常の特許出願であると解釈し(第16条(3))、孫出願についても第16条を適用することができるとも考えられる。

 例えば、子出願も複数の発明(複数の発明概念)を包含する瑕疵を有しているような場合であって、単一性要件違反の瑕疵を治癒し、一出願に含まれる複数の発明を保護するという趣旨に合致しているようなケースであれば、孫出願が認められる可能性があると考える。ただし、自発的に行った孫出願が適法と認められる可能性は低いため、実務上は、面接審査の段階で、単一性違反に基づく分割出願の要求を審査報告してもらえるよう要求することになる。

 
 

 (b)完全明細書の内容

(ⅰ)分割出願に添付された完全明細書には、親出願の完全明細書に実質的開示されている事項を一切包含してはならない(第16条(2))。

 分割出願には、親出願の出願日の利益が与えられるため、分割出願の完全明細書の記載は、親出願の開示範囲を超えてはいけない。この点は日本の分割出願と同様である。

 

 

 

(ⅱ)親出願に添付された完全明細書には複数の発明、即ち発明の単一性要件を満たさない複数の発明概念が含まれていることが必要である[7]。インドにおいては、単に複数の発明が完全明細書に開示されているだけでは足りず、下図に示すように異なる発明概念を構成する発明群が開示されている必要がある。つまり単一性要件違反となり得る複数の発明が完全明細書に包含されている必要がある。

 

 

 

(ⅲ)分割出願及び親出願のクレームにそれぞれ記載された事項が重複しないこと(第16条(3),下図参照)。

 

 

 

 

(c)分割出願の数

 親出願の完全明細書に3つ以上の発明概念を構成する発明群が開示されている場合、この一つの親出願を元にして、2つ以上の分割出願を行うことができる[8]。分割出願の分割出願は認められていないが、発明の単一性要件違反の瑕疵を治癒するという第16条の趣旨からして、最初の親出願に基づく分割であれば、複数の分割出願を行うことは認められるべきである。

 



[1] 仮明細書は、発明が開示されているが、クレームを伴わない明細書である。発明は完成しているが、クレームが定まっていない場合、願書に仮明細書を添付して特許出願行うことができる(7条(4))。仮明細書を添付したときは、仮明細書の提出日から12ヶ月以内に完全明細書を提出しなければならない(第9条(1))。完全明細書を提出しない場合、出願は放棄されたものとみなされる(第9条(1))。

[2] 「当該完全明細書には,最初に述べた出願について提出された完全明細書に実質的に開示されていない如何なる事項も,一切包含してはならない」(第16条(2))。

[3] 「特許庁の特許実務及び手続の手引(インド)」には、「仮明細書の提出日から12月以内に完全明細書が提出されない場合、当該仮明細書の添付された特許出願は、放棄されたものとみなされる。・・・。放棄された出願は公開されない。上記の理由により出願が放棄された場合、分割出願等その他の出願につき、かかる出願に基づく優先権を主張することはできない。放棄された出願は公開されない。上記の理由により出願が放棄された場合、分割出願等その他の出願につき、かかる出願に基づく優先権を主張することはできない。」(第5章「仮明細書及び完全明細書」,05.02「仮明細書」,項目d))との説明がある。

[4] 「条約出願は分割することができ、分割された出願はいずれも同一の優先日を有するものとする」(「特許庁の特許実務及び手続の手引(インド)」,「第7章 条約出願、国際出願及び国内段階出願」07.01.06 「その他の条件」)

[5] 親出願(出願番号IN/PCT/2000/391/KOL)を分割した子出願(出願番号1638/KOLNP/2005)を更に2件の孫出願(出願番号3272/KOLNP/2008,3273/KOLNP/2008)に分割したが、孫出願は分割要件違反によって放棄されたものとして処理された。

[6] かかる分割要件違反の決定に関する新聞報道に対して、インド商工省が異例の反論を行っている。(参考:「Roche 社の分割出願に対する新聞報道にインド政府が反論」,2013年8月6日,JETROニューデリー,URL:http://www.jetro.go.jp/world/asia/in/ip/pdf/news_20130806.pdf)

[7] “Thus if the applicant desires to file a divisional application for his invention, disclosure of more than one invention (plurality of distinct invention) in the parent application is essential.” (OA/6/2010/PT/KOL)

[8] 「特許庁の特許実務及び手続の手引(インド)」,第6章「分割出願及び追加特許」,06.01.01「概要」には、2以上の分割出願が行われることを想定した説明がなされている。




⇒第3回に続く

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