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河野 英仁
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インド特許法の基礎(第11回)(2)~出願公開~

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インド特許法の基礎(第11回)(2)

~出願公開~

2014年5月16日

執筆者 河野特許事務所

弁理士 安田 恵 

 

4.出願公開の効果

 出願公開された場合,公開された特許出願に関して次の効果を奏する。

(1)閲覧

 長官は,所定の手数料の納付により,出願公開された特許出願の明細書及び図面を公衆が入手できるようにすることができる(第11A条(6)(b),規則27条)。また寄託機関(ブダペスト条約に基づく国際寄託当局)は,明細書に記載された生物学的素材を公衆が入手することができるようにしなければならない(第11A条(6)(a))。

 

(2)特許付与

 出願公開から6ヶ月が経過した場合,特許付与が可能になる(規則55条(1A))。日本であれば出願公開前に特許が付与されることがあるが,インドでは出願公開が特許付与の要件である。特許付与前異議申立の機会を利害関係人に与える必要があるためである。また,特許付与前異議申立を検討する期間として,少なくとも6ヶ月の期間を確保するため,出願公開後6ヶ月間,特許は付与されない。

 

(3)実体審査

 審査請求により特許出願の実体審査が開始されるようになる。「特許庁の特許実務及び手続の手引(インド)01.11版2011年3月22日修正」[1]によれば,「4.当該出願が公開され,審査請求が行われない限り,特許庁は当該出願の審査を行わないものとする。」(「第8章 審査及び特許権の付与」,08.01「審査請求」),「1.審査請求が受理され,法第11A条に基づき当該出願が公開された場合,審査請求の順に従って,出願は審査される。」(08.02「審査の付託」)とされている。

 このように,特許出願の審査は,出願が公開され,審査請求(第11B条)が行わなければ開始されないため,特許の早期権利化を実現するための方法の一つとして,早期公開請求を行うことが考えられる。また,何らかの原因で18ヶ月(規則24条)の期間満了後,出願公開が行われない状態になっている場合,この状態を放置していると審査の遅延を招くおそれがあるため,長官に対して出願公開を上申することが望ましいと考えられる。

 

(4)特許付与前異議申立

 出願公開された場合,利害関係人は公開された特許出願に対して特許付与前異議申立を行うことが可能になる(第25条(1))。

 

(5)公開発明の保護(2005年改正)

(a)特許権は,発明の内容を公開する代償として出願人に付与されるものである。しかし,特許付与前に特許出願が公開され,発明が模倣される危険にさらされるにも拘わらず,出願人が対抗手段を有しないとした場合,出願人は不利益を被るおそれがあり,出願人と,公衆の利益バランスが崩れてしまう。このため出願公開された発明に対して,一定の保護が与えられている。具体的には,図5に示すように特許出願の公開日以降,当該特許の特許付与日まで,出願人は当該発明の特許が出願の公開日に付与されたものとしての権利(”the like privileges and rights as if a patent for the invention had been granted on the date of publication of the application” )を有する(第11A条(7))。ただし,出願人は,特許が付与されるまでは侵害手続き(”proceedings for infringement”)を提起することができない(第11A条(7))。

 

 
 図5:出願公開された発明の保護
 

(b)日本の補償金請求権に相当する権利であるが,インド特許法においては特許権に準ずる権利が出願人に付与される。侵害者に対して請求可能な金銭は実施料相当額に限定されておらず,より高額の金銭請求が認められる可能性がある。特許権に準ずる権利が認められるため,特許権者は,公開日まで遡って特許権の侵害に準ずる損害賠償請求,不当利得返還請求などを行うことができる。

 なお,第11A条(7)における権利は抽象的に規定されており,その性質は必ずしも明らかでは無いが,出願公開が行われても特許が付与されるまで特許権自体は発生していないため,少なくとも第11A条(7)で扱われている侵害は特許権そのものの侵害では無いと考えられる。発明の公開によって生じた損害を補填するための金銭を請求する債権的な権利と考えることもできるが,第11A条(7)には「出願人は当該発明の特許が出願の公開日に付与されたものとしての権利」を有すると規定され,「ただし,出願人は特許が付与されるまでは侵害手続を提起する権利を有さない。」というように「侵害」という用語が使用されていることからすると,第三者の不法行為を形成するような特別な権利が出願公開によって発生し,出願人に付与されると思われる。

 

(c)インド特許法においては,日本の補償金請求権のような警告は要件になっていないが,特許付与後の特許権侵害訴訟においても侵害者が,侵害行為があった当時,当該特許の存在を知らず,かつ,知らないことに適切な理由があったことを立証した場合,当該侵害者に対しては損害賠償請求又は不当利得返還請求が認められないため(第111条(1)),第11A条(7)に基づく権利を行使する場合においても特許出願の存在を被告に知らしめる何らかの通知は必要と考える。

 

 

(d)第111条(3)には「権利の部分放棄,訂正,又は釈明の形式による明細書の補正が明細書の公開後に本法に基づいて許可されたときは,当該補正許可の決定の日前にされた当該発明の使用に係る訴訟においては,如何なる損害賠償又は不当利得返還も許与されない。ただし,当初公開された明細書が善意で,かつ,適切な熟練及び知識をもって作成されたことを裁判所が納得する場合は,この限りでない。」と規定されている。

 出願公開された特許出願が不明瞭な記載で広範な権利範囲を請求しているような場合,たとえ出願公開されたとしても,出願公開後の発明に対する保護は与えられない可能性がある。出願段階から,明瞭で適切な権利範囲を請求すべきである。

 

(e)メールボックス出願に係る発明の保護

(i)2005年1月1日以前に第5条(2)(2005年改正特許法により削除された。)に基づいてされた特許出願,いわゆるメールボックス出願(Trips協定70条(81))については,図6に示すように出願公開されても,特許権の効力は出願公開日に遡らず,特許付与日から生ずる(第11A条(7))。

 インドは,WTOに加盟した1995年当時,医薬品等の物質特許を認めていなかった。しかし,Trips協定の27条は医薬品等の物質特許を付与すべきことを規定している。保護対象を物質特許に拡大する義務を履行する期限として10年の経過期間(Trips協定65条4項)が与えられたインドは,Trips協定を遵守するために1999年改正に始まり数度にわたって特許法改正を行った。1999年改正によって,特許庁は物質特許に係る特許出願の受理を開始し,2005年1月1日に発効[2]した2005年改正によって,物質特許の出願審査が開始された。第5条(2)に基づいてされた特許出願は,このように2005年1月1日以前に出願され,2005年1月1日以降の審査によって特許が付与された物質特許等の出願である。

 
図6:第5(2)に基づく出願の発明保護(原則)

 

(ⅱ)また,2005年1月1日以前に第5条(2)に基づいてされた特許出願の特許権の効力は一定範囲に制限されている。つまり,次の①~③の要件を満たす企業に対して,特許権者は,図7に示すように適正なロイヤルティを受領する権利を有するのみであり,当該企業に対しては侵害訴訟を一切提起することができない(第11A条(7))。

 

①   2005年1月1日前に大規模な投資を行ったこと企業であること

②   2005年1月1日前に特許発明に係る関係製品を製造販売していた企業であること

③   特許付与日に当該特許により保護された製品を引き続き製造する企業であること 

 

 
 図7:第5(2)に基づく出願の発明保護の制限

 

以上 



[1] https://www.jetro.go.jp/world/asia/in/ip/pdf/201103_tokkyo_01.pdf

[2] 2005年4月4日に公布され,Trips協定の義務履行期限である2005年1月1日に遡及して施行された。

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