- 河野 英仁
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対象:特許・商標・著作権
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特許法条約批准に伴う米国特許法規則改正のポイント(第1回)
2014年1月17日
河野特許事務所
弁理士 河野英仁
1.概要
2013年9月18日米国は特許法条約(Patent Law Treaty (PLT))を批准し、2013年12月18日より施行することとなった。PLTは特許出願の申請及び処理に関連する形式手続を調和及び簡素化するものである。
PLTの批准に伴い、特許法条約実施法(Patent Law Treaties Implementation Act of 2012 (PLTIA))により米国特許法及び米国特許法規則が改正された。
主な改正点は以下のとおりである。
特許出願の出願日認定要件の緩和、
放棄された出願の復活及び遅延特許年金の条諾を通じた特許権の回復、及び、
外国特許出願の優先権または仮出願の利益の回復
施行日は2013年12月18日である。以下詳細を説明する。
2.出願日の認定要件とクレーム
(1)出願日の認定要件
PLT第5条(1)は以下のとおり規定している。
第5条
(1)[出願の要素]
(a) 規則に別段の規定がある場合を除き、及び(2)から(8)の規定に従うことを条件として、締約国は、出願日の目的のために、出願人の選択によって書面又は官庁が許容する別の手段により提出された次の要素のすべてを官庁が受理した日を出願日と定める。
(i) 出願であることの明示又は黙示の表示、
(ii) 出願人の同一性が確認できる又は官庁が出願人と連絡をとれる表示、
(iii) 明細書と外見上認められる部分。
PLT第5条では明細書と外見上認められる部分が存在すれば出願日が認定される旨規定している。このため、仮出願と同じくクレームが明細書に存在していなくとも、米国における出願日を認めることとした。改正規則1.53は以下のとおり。
改正前 |
改正後 |
規則1.53 出願番号,出願日及び出願の完成 (b) 出願要件-非仮出願 本条に基づいて提出される特許出願の出願日は,(c)に基づく仮出願又は(d)に基づく継続手続出願を除き,35 U.S.C.第112条によって規定されている明細書であって,§1.71による説明及び§1.75によるクレームの少なくとも1を含むもの,並びに§1.81(a)によって要求される図面が特許商標庁に提出された日である。・・・ |
規則1.53 出願番号,出願日及び出願の完成 (b) 出願要件-非仮出願 本条に基づいて提出される特許出願の出願日は,意匠特許出願または本パラグラフ(c)に基づく仮出願を除き,クレームの有無にかかわらず明細書がUSPTOに受領された日である。・・・ |
(2)適用対象
本規則は、再発行特許、意匠特許及び仮出願は適用されない。
(3)補充命令と料金
クレームが出願に含まれていない場合、補充命令がなされ、クレームを提出すると共に140ドルの追加料金を支払わなければならない。クレームを提出しない場合、出願は放棄される。補充命令については規則1.53(f)に以下のとおり規定されている。
改正前 |
改正後 |
規則1.53 (f) 出願後の出願の完成-非仮出願(継続手続出願又は再発行出願を含む) (1) (b)又は(d)による出願日が与えられた出願が出願基本手数料,調査手数料若しくは審査手数料を含んでおらず,又は(b)による出願日が与えられた出願が§1.63,§1.162若しくは§1.175による,出願人の宣誓書若しくは宣言書を含んでおらず,かつ,出願人が通信宛先(§1.33(a))を提供していた場合は,出願人には,通知が行われ,かつ,放棄を回避するために,(b)に基づく出願に関する出願基本手数料,調査手数料,審査手数料を納付し,宣誓書若しくは宣言書を提出し,また,§1.16(f)によって要求される割増手数料があるときは,それを納付するための期間が与えられる。
|
規則1.53 (f) 出願後の出願の完成-非仮出願(継続手続出願又は再発行出願を含む) (1) (b)又は(d)による出願日が与えられた出願が出願基本手数料,調査手数料若しくは審査手数料を含んでおらず,又は(b)による出願日が与えられた出願が少なくとも一つのクレーム、または§1.63,§1.64,§1.162若しくは§1.175による,出願人の宣誓書若しくは宣言書を含んでおらず,かつ,出願人が通信宛先(§1.33(a))を提供していた場合は,出願人には,通知が行われ,かつ,放棄を回避するために,クレームを提出し、(b)に基づく出願に関する出願基本手数料,調査手数料,審査手数料を納付し,宣誓書若しくは宣言書を提出し,また,§1.16(f)によって要求される割増手数料があるときは,それを納付するための期間が与えられる。 |
(4)施行時期
施行時期は2013年12月18日である。ただし、2012年9月16日以降に米国特許法第111条(a)または米国特許法第363条に基づき出願されたものに限られる。
3.出願データシートを利用した明細書の補充
(1)参照文献の援用による明細書及び図面の補正
現行法では、米国特許出願日を得るためには明細書(少なくとも一つのクレームを含む)及び図面を提出する必要がある。PLT第5条の規定を遵守すべく、改正法では、明細書及び図面を提出しなくとも米国出願日を得ることが可能となった。具体的には、先に申請された外国出願または仮出願の優先権主張及び先の出願に対する参照文献の援用を含む出願データシートを提出する。規則1.57の規定は以下のとおり。
規則1.57 参照文献の援用 (a) 本項の条件及び要件に従うことを条件として,明細書又は図面の全部又は一部が不注意に出願から省略されているが,出願が,その出願の出願時に存在していた,先に提出された外国出願の優先権に関する§1.55に基づく主張,又は先に提出された仮出願,非仮出願若しくは国際出願の利益に関する§1.78に基づく主張を含んでおり,かつ,明細書又は図面の不注意に省略された部分が前記の先の出願に完全に記載されている場合は,§1.55又は§1.78に基づく主張はまた,明細書又は図面の不注意に省略された部分に関し,先に提出された出願の,参照文献としての援用とみなされる。 (1) 出願は,明細書又は図面の不注意に省略された部分を含むように補正されなければならないものとし,その時期は,特許商標庁によって定められた期間内,ただし,如何なる場合も,§1.114(b)に定義されている手続の遂行終結又は出願の放棄の内,何れか早く生じるものより遅くないものとする。出願人はまた,次の行為を要求される。 (i) 先に提出された出願の写しを提供すること。ただし,先に提出された出願が35 U.S.C.第111条に基づく出願である場合を除く。 (ii) 英語以外の言語による,先に提出された出願の英語翻訳文を提供すること,及び (iii) 明細書又は図面の不注意に省略された部分の,先に提出された出願における記載個所を特定すること |
規則 1.57 参照文献の援用 (a) 本項の条件及び要件に従うことを条件として,米国特許法第111条(a)に基づく出願について、同条に基づく出願に係る明細書及び図面が先の出願に対する参照により置き換えられていることを示しており、かつ、先の出願を出願番号、出願日及び先の出願がなされた知的財産機関または国を特定している規則1.76に従う出願データシートにおける英語で記載された先の出願に対する参照は、規則1.53(b)における発明日の目的に関し米国特許法第111条(a)同条における明細書及び図面構成する。
(1) 出願人が通信宛先(規則1.33(a))を提供している場合、出願人は、放棄を防止するために、先に提出した出願の明細書及び図面の写し、先の出願の英語翻訳を提出し及び規則1.17(i)に規定する料金を所定期間内に支払うよう通知され、先の出願が英語以外の言語の場合、規則1.16(f)に規定する追加料金を支払う。
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(2)補充命令
明細書及び図面が提出されていない場合、明細書及び図面の写しを提出するよう要求される。この場合、130ドルの追加料金を支払う必要がある。また明細書及び図面の写しが英語でない場合、英語訳を提出すると共に、追加料金140ドルを支払う必要がある。補充しない場合、当該出願は放棄される。
(3)適用対象
2013年12月18日以降に米国特許法第111条の規定に基づき提出された出願に適用される。なお、再発行特許、意匠特許及び仮出願には適用されない。
4.故意によるものではない場合の権利の回復
(1)遅延理由の基準
PLT第12条では、期間の徒過に伴う権利の回復について以下のとおり規定している。
PLT第12条
相当な注意が払われたこと又は故意ではないことが官庁により認定された後の権利の回復
(1)[申請] 締約国は、官庁に対する手続上の行為のための期間を出願人又は権利者が満たさなかった場合であって、その非遵守が直接的な結果として出願又は特許に関する権利の喪失を引き起こした場合は、以下を条件として、官庁は、当該出願又は特許に関する出願人又は権利者の権利を回復することを規定する。
(i) その趣意での申請が規則に定める要件に従って官庁になされていること、
(ii) 規則に定める期間内に、申請が提出され、かつ申請にかかる期間に関して適用される要件の全てが満たされること、
(iii) 当該期間を遵守できなかった理由を申請において明示すること、及び、
(iv) 期間の非遵守が、状況に応じたしかるべき措置を講じたにもかかわらずに発生したものであること、又は締約国の選択により、その遅延が故意ではなかったことを官庁が認可すること。
(2)[例外] いかなる締約国も規則に定める例外に関して、(1)に基づく権利の回復を規定することを要求されることはない。
(3)[料金] 締約国は(1)に基づく申請に関して料金を支払うことを要求することができる。
(4)[証拠] 締約国は、(1)(iii)に規定された理由を裏付ける宣言書又は他の証拠を、官庁によって設定された期間内に官庁に対し提出することを要求することができる。
(5)[拒絶がなされる場合の意見を述べるための機会] (1)に基づく申請は、申請者が、拒絶されることに関して合理的な期間内に意見を述べるための機会を与えられることなしに全て又は一部を拒絶されることはない。
これを受けて、PLTIA第201条(b)は故意による遅延(unintentional delay)ではない場合に権利の回復を図る米国特許法第27条を新設した。米国特許法第27条は以下のとおり規定している。
米国特許法第27条
特許出願人または特許権者の請願により、長官は、故意によるものではない放棄特許出願を回復するための手続を確立し、故意によるものではない各特許の発行に関する遅延した料金の支払いを受け付け、または、再審査手続において故意によるものではない特許権者による遅延した応答を受け付けることができる。
米国特許法第27条の規定から明らかなとおり、従前可能であった「不可避である遅延(unavoidable delay)」の証明に基づく遅延規定を排除している。従って改正後は一基準、すなわち、故意によるものではない遅延に限り回復が認められることとなる。
その他、PLTIA第202条(b)は、米国特許法第122条(b)(2)(B)(iii)(出願公開に関する通知)、133条(出願手続の遂行期間)、151条(特許の発行)、364条(国際段階:手続)及び371条(d)( 国内段階:開始)から不可避基準を、米国特許法第27条の観点から削除する旨規定している。
(2)遅延料金
PLTIA第202条(b)(1)(A)では、さらに権利の回復に関し、米国特許法第41条(a)(7)を改正した。改正後の41条(a)(7)によれば、放棄された特許出願の回復、各特許の発行に関する遅延した料金の支払い、再審査手続における特許権者による遅延した応答、効力ある特許を維持するための遅延した料金の支払い、遅延した優先権または利益主張の提出、または、後の出願を提出する12ヶ月期限の延長を行う場合、各請願につき1,700ドル支払う必要がある。その他、長官が決定する特別な状況(例えば、ハリケーン、地震等の自然災害等)において、長官が当該料金の一部を返却できるよう米国特許法第41条(a)(7)が改正された。
(3)特許維持手数料納付期限の解除
改正前米国特許法第41条(c)(1)では、維持手数料については、故意でない場合または不可避である場合に、6ヵ月の猶予期間後24月以内に納付する必要があったが、改正により、24ヵ月の期間は撤廃された。同時に不可避を理由とする納付も削除された。改正後米国特許法第41条(c)(1)の規定は以下のとおりである。
改正前 |
改正後 |
米国特許法第41条 ・・・ (c)(1) 長官は,(b)によって要求される維持手数料の,6月の猶予期間後24月以内に行われる納付を,その遅延が故意によるものでないことを同長官が認めるように証明されることを条件として,又は6月の猶予期間の後の如何なる時期に行われる納付であっても,その遅延が不可避であったことを同長官が認めるように証明されることを条件として,受理することができる。長官は,6月の猶予期間満了後における維持手数料の納付を受理する条件として,割増金の納付を要求することができる。長官が6月の猶予期間満了後における維持手数料の納付を受理したときは,特許は,当該猶予期間の終了時に満了しなかったものとみなされる。 |
米国特許法第41条 ・・・ (c)(1) 長官は,米国特許法第41条(b)によって要求される維持手数料の,6月の猶予期間後24月以内に行われる納付を,その遅延が故意によるものでないことを同長官が認めるように証明されることを条件として,又は6月の猶予期間の後の如何なる時期に行われる納付であっても,その遅延が不可避であったことを同長官が認めるように証明されることを条件として,受理することができる。 (2) 長官は,6月の猶予期間満了後における維持手数料の納付を受理する条件として,米国特許法第41条(a)(7)に規定する料金割増金の納付を要求することができる。 (3) 長官が6月の猶予期間満了後における維持手数料の納付を受理したときは,特許は,当該猶予期間の終了時に満了しなかったものとみなされる(既に存在する米国特許法第41条(c)(2)の中用権規定に従う)。 |
(4)施行時期
2013年12月18日から施行される。なお、対象出願及び特許の出願日及び登録日に関わらず2013年12月18日以降から適用される。
⇒第2回へ続く
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