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対象:特許・商標・著作権
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早わかり中国特許
~中国特許の基礎と中国特許最新情報~
2014年11月7日
執筆者 河野特許事務所
弁理士 河野英仁
(月刊ザ・ローヤーズ 11月号掲載)
第42回 特許の権利範囲解釈
発明特許及び実用新型特許の権利範囲解釈について実例を挙げつつ説明する。
1.特許請求の範囲解釈の原則
特許請求の範囲の解釈については、専利法第59条第1項の規定に基づき、「請求項の内容を基準とし、明細書及び図面は請求項の内容の解釈に用いることができる」。具体的には、請求項の記載に基づいて、所属分野の通常の技術者が明細書及び図面を読んだ後の請求項に対する理解と合わせて、請求項の内容を確定する(司法解釈[2009]第21 号第2条)。なお、要約書はあくまで技術情報の把握にだけ用いられ、権利範囲解釈に用いられることはない。
(1)内的証拠と外的証拠(司法解釈[2009]第21 号第3条)
請求項については、明細書及び図面、特許請求の範囲の関連する請求項、並びに特許審査の包袋を用いて解釈することができ、請求項の用語について明細書に特別な限定がある場合、その特別な限定に従う。
一方上述の方法によっても依然として請求項の意味を明確にできない場合、辞典類、教科書等の公知文献及び所属分野の通常の技術者の通常の理解をふまえて解釈することができる。
すなわち、請求項、明細書、図面及び包袋書類は内的証拠とよばれ、請求項の解釈にあたり優先される。逆に辞書及び教科書等は外部証拠とよばれ、内的証拠によって理解できない場合にのみ活用することができる。
日本の訴訟実務ではこのような優先順位はなく、広辞苑等の定義を準備書面に記載して主張する。中国では内的証拠が優先される点に注意すべきである。
(2)請求項と明細書の記載とが矛盾する場合の取り扱い
実務上、請求項の文言は抽象的に記載されており、当業者は明細書及び図面を参酌して、技術的範囲を確定する。ところが実務上、請求項と明細書の記載とが矛盾する場合がある。特に実体審査を経ていない実用新型特許についてはこのような事態が多く発生する。
このような問題については、金属パネル事件[1]が参考となる。金属パネル事件では、請求項の記載と明細書の記載とが一致しておらず、明細書を基準とすれば特許権侵害、請求項を基準とすれば非侵害となるものであった。
司法鑑定意見、中級人民法院及び高級人民法院は共に明細書の記載に基づき権利範囲を確定し特許権侵害を認定したが、最高人民法院は逆に請求項の記載に基づき権利範囲を確定した。
(i)背景
(a)特許の内容
西安秦邦電信材料有限責任公司(原告)は「平滑型金属シールディング複合ベルトの製造方法」と称する発明特許第01106788.8(以下、788特許という)を所有している。788特許は原告により2001年3月7日に出願され2004年1月28日に公告された。
問題となった請求項1の要部は以下のとおりである。なお下線は筆者において付した。
請求項1:平滑型金属シールディング複合ベルトの製造方法において,
・・・
(1)金属箔ベルトを開いて真っ直ぐに伸ばし、予熱処理を行い;
(2)プラスチック溶剤またはプラスチック膜を、温度35℃-80℃,直径ф240mm-ф600mm,目数40目-85目のラフ面細目鋼のローラーを通じて,直径ф160mm-ф480mm伝導金属箔ベルトの押出ローラーに対し,相互に回転させ,プラスチック膜の表面に0.04-0.09mm厚の凹凸ラフ面を形成し,金属箔ベルト一面の基材上に熱押出し;
・・・
(6)加熱処理を経た後の複合ベルトに対し冷却処理を行い巻き取る
ことを特徴とする複合ベルトの製造方法。
(b)訴訟の経緯
原告は、無錫市隆盛ケーブル材料場及び上海錫盛ケーブル材料有限公司が原告の許可を得ることなく、788特許方法を使用して、被疑侵害製品を生産及び販売しており、また古河電工(西安)光通信有限公司(以下、まとめて被告という)が被疑侵害製品を使用しているとして陝西省西安市中級人民法院に提訴した。原告は三被告に侵害行為の停止等を求めると共に、3000万元(約4億6千万円)の損害賠償を求めた。
2006年3月28日、原告は国家知識産権局特許復審委員会に788特許の無効宣告請求を行った。国家知識産権局特許復審委員会は、2007年9月3日第10449号無効宣告請求審查決定をなし,788特許権の有効を維持した。
本事件の技術内容は非常に複雑であったことから原告は司法鑑定を人民法院に要求した。司法鑑定では、被告の製造方法と請求項に記載の製造方法とは均等との判断がなされた。2008年1月7日陝西省西安市中級人民法院は、被告による特許権侵害を認め被告に侵害行為の停止及び3000万元(約4億6千万円)の損害賠償請求を命じる判決[2]をなした。
原告は一審判決を不服として,陝西省高級人民法院に上訴し,かつ、新たに鑑定申請を行った。陝西省高級人民法院は中級人民法院の判断を維持する判決をなした[3]。原告はこれを不服として最高人民法院に再審請求を行った。
(ⅱ)最高人民法院での争点
争点:請求項と明細書の文言が一致していない場合、権利範囲をどのように確定するか
問題となったのは請求項1の以下の文言である。
「プラスチック膜の表面に0.04-0.09mm厚の凹凸ラフ面を形成し」
これに対して、明細書実施例には0.04mm、0.09mm及び0.07mmのプラスチック膜の厚みが記載されていた。被告製品のプラスチック膜の厚みは、0.055mm-0.070mmであった。つまり、請求項の文言ではイ号製品は技術的範囲に属さないが、明細書の記載を参酌すれば、イ号製品は技術的範囲に属することとなる。
このように請求項と明細書の記載が一致しない場合に、どちらを基準に権利範囲を解釈すればよいかが問題となった。
→続きは、月刊ザ・ローヤーズ2014年11月号をご覧ください。
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[1] 最高人民法院2012年8月24日判決 (2012)民提字第3号
[2] 陝西省西安市中級人民法院2008年1月7日判決 (2006)西民四初字第53号
[3]陝西省高級人民法院2011年3月20日判決 (2009)陝民再字第35号
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