米国特許法改正規則ガイド 第10回 (第7回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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米国特許法改正規則ガイド 第10回 (第7回)

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米国特許法改正規則ガイド

第10回 (第7回)

先願主義に関する規則及びガイドラインの解説

河野特許事務所 2013年4月26日 執筆者:弁理士  河野 英仁

 

 

(5)米国特許法第102条(d) ヒルマードクトリンの廃止

 

(a)概要

 

 改正法第102条(d)は拡大先願の地位を有する出願を明確に定義し、所謂ヒルマードクトリンとよばれる問題を解決した。

 

 

 

(b)ヒルマードクトリンとは

 

 ヒルマードクトリンは、Hilmer事件[1]において形成された後願排除効に関する論理である。Hilmer事件において、出願人は、ドイツに第1国特許出願し、第1国特許出願に基づく優先権を主張して、米国に特許出願を行った。この際、後願排除効を有する日が、第1国特許出願日であるのか、米国の特許出願日であるのかが争点となった。

 

 

 

 Hilmer事件において原告は、米国特許法第119条(a)[2]に「外国出願がされた最先の日から12 月以内に提出されることを条件として,同一の発明に関する特許出願が前記の外国において最初に提出された日に合衆国において提出された同一出願の場合と同じ効果を有する」と規定されていることを根拠に、後願排除効発生日も第1国特許出願日であると主張した。

 

 

 

 これに対しCAFCの前身であるCCPAは、米国特許法第102条(e)は、「合衆国において・・提出された特許出願」と規定していることから、合衆国外で提出された外国出願は適用対象外であり、パリ条約優先権を伴う米国出願の後願排除効日は、米国出願日であると判示した。

 

 

 

 今回の特許法第102条(d)の改正により、

 

先願の米国特許若しくは公開特許の明細書が、後願のクレームに関連する開示を含んでいる場合、又は、

 

優先権主張により先願となる外国特許出願若しくはPCT国際特許出願の明細書が、後願のクレームに関連する開示を含んでいる場合、

 

公開言語・出願国にかかわらず、優先権出願の出願日に、後願排除効を有することとなった。

 

 

 

 すなわち、参考図9に示すように、米国出願、パリ条約に基づく外国優先権主張出願、PCT国際特許出願のいずれにおいても平等に、先の出願日から102条(a)(2)(拡大先願の地位)における後願排除効を有するようになった。

 

 

 

参考図9

 

 

 

 米国特許法第102条(a)(2)の欄で解説したとおり同条(a)(2)にいう公開とは、

 

米国特許、

 

米国公開公報、及び

 

WIPOにより公開された出願

 

の3つとなる。

 

 

 

 そして、改正米国特許法においては、米国を指定国とするPCT出願のWIPO公報は、国際出願日にかかわらず、当該WIPO公報が英語でされようがいまいが、または、PCT国際特許出願が米国国内段階に移行しようがしまいが、拡大先願の地位の適用に関し、US特許出願刊行物とみなされる

 

 

 

改正前

改正後

(e) その発明が,次に掲げるものに記載されていた場合

(1) 当該特許出願人による発明の前に合衆国において他人によって提出され,第122 条(b)に基づいて公開された特許出願,又は

(2) 当該特許出願人による発明の前に合衆国において他人によって提出された特許出願に対して付与された特許。ただし,第351 条(a)において定義される条約に基づいて提出された国際出願は,当該出願が合衆国を指定国としており,同条約第21 条(2)に基づいて英語によって公開された場合に限り,本項の適用上,合衆国において提出された出願の効果を有するものとする。

 

(d)  先行技術として有効な特許及び公開された刊行物

特許または特許出願が、米国特許法第102条(a)(2)の規定に基づきクレームされた発明に対する先行技術であるか否かを決定することを目的として、そのような特許または出願は、当該特許または出願に記述されたいかなる主題に対しても、有効に出願されたと見なされる—

 (1)特許または出願の実際の出願日現在で、パラグラフ(2)が適用されない場合;又は、

 (2)主題を開示している最先出願の出願日現在で、一又は複数の先の特許出願に基づき、特許又は出願が米国特許法第119条(優先権主張出願、仮出願)、365条(a)(合衆国以外の国を指定国とする優先権)若しくは365条(b)( 合衆国を指定国とする国際出願)に基づき優先権を主張する場合、又は、米国特許法第120条(継続出願),121条(分割出願)若しくは365条(c) (合衆国を指定国とする国際出願の継続出願)の規定に基づき先の出願日の利益を主張する場合

 

 

 

4.非自明性に関する規定 米国特許法第103条

 

 非自明性の判断基準も発明時から、有効出願日へと改正された。なお、103条にいう先行技術は102(a)(1)(公知、公用、刊行物公知)及び(a)(2)(拡大先願の地位出願)の双方を含む点に注意すべきである。

 

 

 

 日本では進歩性の判断に用いられる引用発明は、日本国特許法29条1項各号に掲げる発明に限定され、日本国特許法第29条の2に規定する先願は含まれない。

 

 また欧州では、進歩性の判断に第54条(3)に規定する先願が用いられることはない(欧州特許条約第56条[3])。

 

 中国においても、専利法第22条第5項に定義される現有技術のみが、創造性の判断に用いられ、所謂抵触出願は用いられない(専利法第22条第3項)[4]。

 

 

 

 

改正前

改正後

第103 条 特許要件;自明でない主題

(a) 発明が,同一のものとしては第102 条に規定した開示又は記載がされていない場合であっても,特許を受けようとするその主題と先行技術との間の差異が,発明が行われた時点でその主題が全体として,当該主題が属する技術の分野において通常の知識を有する者にとって自明であるような差異であるときは,特許を受けることができない。特許性は,発明の行われ方によっては否定されないものとする。

第103 条 特許要件;自明でない主題

 発明が,同一のものとしては第102 条に規定した開示又は記載がされていない場合であっても,特許を受けようとするその主題と先行技術との間の差異が,クレーム発明の有効出願日前にその主題が全体として,当該主題が属する技術の分野において通常の知識を有する者にとって自明であるような差異であるときは,特許を受けることができない。特許性は,発明の行われ方によっては否定されないものとする。

 

 

 

 以上のとおり、先発明主義下における規定と比較して、新規性、拡大先願の地位、及び非自明性に関する規定は、非常に理解しやすく、若干の相違はあるものの先願主義を採用する諸外国の規定と同様のものとなった。

 

 

 

5.施行時期

 

 先願主義への移行は、2011年9月16日から18ヶ月後(2013316日)の有効出願日を有する全ての出願に適用される。2013年3月16日以前に有効出願日を有する特許出願は先発明主義に基づく旧法が適用される。

 

 

 



[1] In re Hilmer, 359 F.2d 859 (CCPA 1966)

[2]米国特許法第119条(a)の規定は以下のとおり。

第119 条 先の出願日の利益;優先権

(a) 合衆国において提出された出願の場合に若しくは合衆国の国民に対して同等の特権を与える外国において,又はWTO 加盟国において,先に同一発明に関する正規の特許出願をしている者又はその法律上の代表者若しくは譲受人が合衆国において提出する発明特許出願は,合衆国における当該出願が前記の外国出願がされた最先の日から12 月以内に提出されることを条件として,同一の発明に関する特許出願が前記の外国において最初に提出された日に合衆国において提出された同一出願の場合と同じ効果を有するものとする。

[3]第56条 進歩性

発明は,それが技術水準を考慮した上で当該技術の熟練者にとって自明でない場合は,進歩性を有するものと認める。第54条(3)にいう書類が技術水準に含まれる場合は,そのような書類は,進歩性の有無を判断する際には,考慮されない。

[4] 専利法第22条第3項

 創造性とは、現有技術に比べて、その発明が格別の実質的特徴及び顕著な進歩を有し、その実用新型が実質的特徴及び進歩を有することをいう。

 専利法第22条第5項

 本法にいう現有技術とは、出願日前に国内外で公衆に知られている技術をいう。

 

(第8回へ続く)

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