ある工作機械製作の中小企業の社長さんが、社員を採用し、その後の仕事の教育プロセスに悩んでいた。最近、社員として採用しても、なかなか社員として長続きせず、3年以内に辞めてしまう事態が何回も続いているという。中小企業にとって工作機械を製作するにも、他社とは差別化した特有の技術が多くあるという。そういった技術養成のために、採用した社員に対して、すぐにそのノウハウを教えていいものかどうかも問題だという。すぐにやめられてしまうのに、その会社にとっては何にも変えがたい財産である特殊技術を教えては、簡単に社外に秘密漏洩してしまうのではないかという不安も大きいということである。
確かに、せっかく教育し時間をかけて育成し、どうにかものになったと思ったころには辞めてしまうのであれば、その間の教育がまったく無意味になってしまう。それどころか、その技術を活かしてライバル会社に転職でもされたら、その中小企業の社長さんにとって、とんでもない打撃である。死活問題でもある。
それで、その会社では、2年~3年間は、特殊な会社のコアな仕事をさせないで様子を見るのだということであるが、しかし実際には、そういた余裕もないのが中小企業の実態で、コストも余計かかる。すぐに即戦力になってもらわないと会社も維持できないということである。さてどうしたらいいものか。
これとまったく同じ問題を、経営の神様である松下幸之助もぶつかっている。松下電器が一番最初に製作したアタッチメントプラグという電気器具を製作し始めたころ、その製品の評判が良く、仕事が非常に忙しくなってきた。そのころの松下電器は、まだ身内の3人だけで仕事をやっていたころである。手が回らなくなり外の人を雇い始めたとき、これとまったく同じ問題にぶち当たった。
松下幸之助も同じ失敗を繰り返し、いかがなものかと悩みながら最終的な結論に達した。「製法や技術が秘密であることは従業員も知っていることである。他にもらせば工場のマイナスになることはわかっている。だから、それを教えてもらっても、他にもらすようなことはないと思う。
それよりも大切なことは、お互いの信頼である。私は従業員を信頼して製法を教えている。だから従業員もその信頼にこたえて、秘密も守り、また大いにがんばってくれていると思う。実際、みんな本当に一生懸命に働いてくれているのだ。」
まさに経営の神様、松下幸之助の人格の大きさを感じる言葉である。
掲載続く
このコラムの執筆専門家
- 佐藤 創紀
- (埼玉県 / ビジネスコーチ)
- コーチ倶楽部 代表
平静心コーチング(安定と勇気の形成)
特徴として、クライアントは長く継続してコーチングを受けてる人が多い。 人としての信頼をベースに、経験豊富なビジネス成功体験から、若き女性の恋愛コーチングまで、人間関係の本質をシンプルに説明できる日本でも有数なプロコーチである。
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