
- 高橋 滋樹
- 高橋矯正歯科医院 副院長
- 神奈川県
- 歯科医師
対象:矯正・審美歯科
- 東海林 貴大
- (歯科医師)
主訴という言葉を我々は使います。
患者さんがもっとも気になっていることを患者さんの言葉で表現したものが、主訴になります。
その主訴を改善する事が、とりわけ見た目の改善が主となる矯正治療では大切にはなりますが、患者さんの気づいていない問題があることも少なくありません。その「患者さんが気づいていない問題」をしっかりと患者さんに示してあげるのも専門家としての務めではないかと思います。
当院では、初診相談の際はまずお口の中を拝見し、噛みあわせや歯列の状態、また顎の関節や舌、扁桃腺の様子、さらには顔の曲がりがないか、横顔はどんな様子かということをチェックした後、相談室で患者さんとお話をします。
多くの矯正専門開業医では、診療室とは別個に相談室というものを設けているところが多いと思います。それだけ患者さんへの説明を重視しているということです。
相談室に入るときには、患者さんが気にしている問題点というものはだいたいつかめていることがほとんどです。しかし、それでも患者さんにこう聞きます。
「一番気になっているところはどこですか」
患者さんの主訴が私が所見で判断したところとぴたり一致することがほとんどです。まあ当たり前といえば当たり前。しかし、多くの場合でそれ以外にも問題がありますよとご説明させていただくことになります。
例えば、患者さんは
「上の前歯がでこぼこで少し出っ歯気味なのが気になる」とおっしゃいます。それに対し
「なるほど、そのとおりです。でこぼこはもしかすると顎に比べて歯が大きいことが原因かもしれません。これは、検査をして歯の大きさを測定してみればはっきりします。しかし出っ歯については、奥歯の咬みあわせから実は上の奥歯の方が下の奥歯よりも本来の位置よりも前気味の位置で咬んでいます。ですから出っ歯について前歯だけの原因ではないと思います。」
患者さんは前歯の問題だけで、奥歯の問題には気づいていなかった。前歯の見た目の問題だけを気にしていて咬み合わせの問題には気づいていなかったということです。ここで心ある矯正医は
「見た目だけでなく、咬み合わせもしっかり改善したほうが良いと思います」
と言うと思います。
もし、この提案を聞いても患者さんが前歯の治療しか望まないのであればそれは仕方ないことです。咬み合わせの改善をしないデメリットを患者さんがよく理解した上で前歯の配列だけをされればよいと思います。
一番の問題は、患者さん同様、歯科医師も前歯の問題にしか目がいかないケース。もしくは、咬み合わせの問題に気づいているにも関わらず、患者さんが気にしていないからと説明をしてくれないケースです。
前歯の問題にしか気づかない歯科医師、これは問題外です。矯正治療をやる資格はありません。
説明をしてくれない場合、これも患者さんとしては憤慨されるかもしれませんが、少し擁護できる側面もあります。患者さんの意識にない病態(この場合は奥歯の咬み合わせ)を患者さんに説明し、治療の必要性を説くというのは非常に歯科医師については骨の折れる仕事です。時間もかかるかもしれませんし、いやらしい話ですが時間をかけても収益につながらないかもしれない。相談説明に時間をかけるシステムができていない診療室では実現がなかなか難しいと思います。相談室をもうけて、相談の時間をきっちりとるというのは、その時間を完全に相談に来た患者さんだけのために取ってあるので、歯科医師からするべき説明、そして患者さんからの質問への対応がしっかりできるわけです。説明に重点をおく矯正専門医のメリットと思います。
私は患者さんに矯正治療には3つの目的があると説明させていただいてます。
1:歯並びを綺麗にして見た目の問題を解消すること
2:咬み合わせをしっかりとつくること
3:美しい口元をつくること
です。
矯正専門で仕事をしている歯科医師の多くは、
1:歯並びを綺麗にして見た目の問題を解消すること
2:咬み合わせをしっかりとつくること
については同時に達成することを目標としていると思います。プロの仕事として当然の目標設定です。
3:美しい口元をつくること
については、また別途詳しく説明させていただきたいと思います。
矯正治療により美しい口元を得るということは顔の与える印象に大きく影響します。私は口元の改善ができればより良いだろうなという患者さんにはその旨説明させていただいています。
ここからは私の考えですが、1,2については前述のように矯正治療をやる上での必須の目的と思います。一方3については、患者さんの希望があるかないかが非常に重要になります。
ただし上述で、歯並びだけを気にしている患者さんが咬み合わせの問題に気づいていなかった、それについて歯科医師から説明がなかったということを例示しましたが、患者さんが口元の問題を気にしているが、矯正治療で改善できることの説明がなかったとしたらどうでしょうか。口元をどうするかというのは、患者さんや歯科医師の趣味や好みの問題があるということは否定できません。しかし、口元を改善することにあまり興味のない矯正専門医のところに口元が気になる患者さんが行ってしまったらそれは不幸かもしれません。
重要なのは、患者さんとしっかり相談して治療の目標をどこにおくかを決めることです。
ひとつ言えるのは口元を改善できる矯正医が口元のことは考えずにもう少し治療を簡便に進めて欲しいという患者さんの希望を受け入れることは簡単です。しかしその逆、つまり、口元の改善に興味の矯正医は口元の改善を充分に行えないことはありうると思います。
前コラムでも書きましたが、矯正治療にはメリットとデメリットがあります。目標をどこにおくかでそのメリットとデメリットの配分は変わってきます。しっかりそのあたりを見据えて治療について考えてもらうことが大切です。
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