- 中沢 努
- パンセ・ソバージュ・アンド・カンパニー 代表
- 東京都
- コンサルタント・研修講師・講演講師
対象:人材育成
ある男が自分の娘を叱った。
穏和な人柄である彼にしては珍しく、厳しい叱り方だった。
娘はいつもと違う父親の様子に驚き、普段見せたことのない泣き方をした。
怒鳴り声とも違うし金切り声とも違う、体に溜まった感情がそのまま迸出(へいしゅつ)したような、悲しみを帯びた声で泣いた。
学校にも慣れおねえちゃんぶっている普段の姿からは想像できないような、赤ん坊のような泣き方だった。
娘にはある苦手なことがあった。彼女はそれを自覚していたが、いつまでもそれを克服できないままにしていた。
男はそういう娘の姿勢というか心のあり方を強く叱ったのだった。
「おとうさん、わかってるの。わかってるけど怖いの」・・・・娘は自分でも何とかしたいがその不得手に立ち向かうことに逡巡している自分に、どうしようもない悲しみを抱いているようだった。
肩を震わせ、全身で泣いていた娘は、やがて泣き疲れ、寝てしまった。
男は、娘の頬に残った涙のあとを見つめた。
いつかは言わねばと思っていたことを言った彼は安堵した。
しかしまた、娘が見せた苦しげな表情や小さい体から吐き出した悲しみの生々しさに、彼はわずかな動揺を覚えた。
男は娘の頭を撫で「頑張れよ」とささやいた。
男は自室へ戻り、机に向かった。
自分に課した課題があり、それをやらねばならなかった。
・・・本当は休みたかった。
仕事と課題で身も心も疲れ切っていた。
しかし彼は思った。
「子供に厳しいことを言ったんだ。人に言うからには・・・自分はその上をやらなければ」
のどの腫れと頭痛でふらつきながらも、彼はその日の課題をやり遂げた。
彼は娘のところへ行き、顔を近づけた。
娘の匂いがした。
息を吸い続けながら、彼は自分の唇を娘の頬にあてた。
娘の匂いと頬のやわらかさが彼を包んだ。
(中沢努「思考のための習作」から抜粋)
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