足利事件、菅家さん釈放 その2(1) - 刑事事件・犯罪全般 - 専門家プロファイル

羽柴 駿
番町法律事務所 
東京都
弁護士

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対象:刑事事件・犯罪

閲覧数順 2024年04月26日更新

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足利事件、菅家さん釈放 その2(1)

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連載「新・刑事法廷」

なぜえん罪が生まれたのか



 足利事件において菅家さんが、無実であるのになぜ有罪判決を受けて服役するような悲劇が生じたのか、その直接の原因は大きく分けて二つあると思われます。

 一つめは、菅家さんの必死の否認を無視し、お前が犯人だ、証拠があるんだ、と自白を強要した当時の捜査担当者(警察官)であり、そのような自白強要を許す現行の捜査制度です。さらに、そのような強要された自白を真に受けて菅家さんを犯人として起訴し、公判でも一貫して有罪を主張し続けた検察官と、そのような自白を「任意」になされたものと認め、DNA鑑定と合わせて菅家さんを有罪と断定してしまった裁判官も、自白強要の共犯者であり、そのような自白偏重を生む司法制度の問題でもあります。

二つめは、未だ精度が低く別人のDNA型を誤って菅家さんのDNA型と同一と判断してしまうようなDNA鑑定を、安易に信用してしまった警察、検察そして裁判所の態度です。科学的鑑定という形だけから、その内実の厳格な検証もなしに結論を信じてしまうことの恐ろしさを改めて認識させられます。

 では、そのような原因を根本的に改め、二度とこのような悲劇が起きないようにするにはどうしたら良いのか、私の意見を以下に述べてみたいと思います。


1 取調べ全面録画

 警察官が菅家さんに自白を強要したのは、取調室という密室の中での出来事です。一般に警察官は、犯人だと信じる被疑者が否認している場合、何とか自白させようと説得します。それでも説得が功を奏さない場合、誰にも知られないという安心感からか、脅迫や誘導、場合によっては(傷が残らない程度の)暴力さえ振るうことがあります。(断っておきますが私は、警察官が全員暴力を振るって自白を強要すると言っているのではありません。警察官の中には自白を求める余り、そのような強要をする者もいるのだと指摘しているのです。)

過去の多くのえん罪でも共通していることですが、このように密室での取調べは自白強要の温床になっているのです。それを防ぐには、端的に、取調べを全て録画しておくことが有効です。そのような装置の前では、警察官は後に明らかにされて困るような態度はとれないはずだからです。

取調べの録音録画は今や広く諸外国で実施されていることで、日本でも最近は一部の取調べに限って導入されました。しかし、一部では自白強要を防ぐためには意味がありません。全面的な録画こそ導入されるべきなのです。

現時点で警察側はこれに対し、全面録画は取調べ警察官と被疑者との信頼関係を損ない捜査に支障が出る等として反対しています。そのような支障が実際に出るのかどうか大いに疑問ですが、仮にそれを認めるとしても、自白強要の防止という大きな目的のためには、ある程度の支障は警察として甘受すべきものと言わねばなりません。

(次回へ続く)