- 羽柴 駿
- 番町法律事務所
- 東京都
- 弁護士
対象:刑事事件・犯罪
- 羽柴 駿
- (弁護士)
- 羽柴 駿
- (弁護士)
足利事件では、警察側の科学捜査担当者がおこなったDNA鑑定が有罪の根拠として大きな役割を果たしました。当時のDNA鑑定はせいぜい800人に一人程度の精度しかなかったのですが、菅家さんの無実の訴えが一審から上告審まで全てしりぞけられた最大の理由は、この鑑定結果とそれに基づく捜査段階での自白でした。
このような一種の科学信仰とも言うべき態度は、今でも刑事司法関係者に広く見られるところです。DNA鑑定の精度は今では当時とは比べものにならないほど向上しており、地球上に同じ型の人間は二人といないというところまで見分けられるということですが、実際には鑑定資料の採取方法や保存状態などによって誤った結論が下される危険は常にあると言わねばなりません。人間のなすことに100%完全ということはあり得ないのです。
捜査から裁判まで、刑事司法関係者がそのような科学信仰から脱却しない限り、今後もえん罪は繰り返されるでしょう。
6 究極的えん罪対策としての死刑廃止
私は、繰り返し述べてきたように、神ならぬ人間のすることである以上、刑事裁判におけるえん罪を100%根絶することは不可能だと考えるべきだと思います。
自白強要の防止のための様々な制度改革を実施し、関係者らが科学信仰からの脱却に努めたとしても、それでもなお100%完全にえん罪を防止し、無実の罪で有罪とされる人を一人も出さないようにすることは出来ないでしょう。
それは余りに悲観的ではないか、と皆さん思われるでしょうか。しかし、冷静に考えれば考えるほど、毎年数多く発生する刑事事件とそれを担当する捜査・裁判関係者らが誰一人誤りを犯さないと信じるのは余りに楽観的に過ぎると考えざるをえません。
そして、そのような誤りが最後まで正されることなく死刑判決が確定することも、これまでもあっただろうし、今後もあり得るでしょう。つまり、恐ろしいことですが、えん罪によって処刑された人がいただろうと考えなければならないし、今後もありえると考えるほかないのです。
そのような意味で、究極的えん罪対策としての死刑廃止を真剣に検討すべきであろうと思います。それによってしか、えん罪が後日判明したが既に処刑されていたという取り返しのつかない悲劇は完全には防げないのですから。