- 伊藤 健之
- ユー・ダブリュ・コンサルティング 代表
- 経営コンサルタント
対象:経営コンサルティング
- 戸村 智憲
- (経営コンサルタント ジャーナリスト 講師)
現場の活力がなくなり、企業の生産性が低下しているという識者の指摘に対し、私は誤った
メソドロジー導入による副作用により、組織の人間的な要素が傷められたことが原因である
と考えました。
それでは、人間的な要素とはどんなもので、どのように傷められたのでしょうか?
今回はこのあたりの話をしてみたいと思います。
(前コラム「ビジネス改革の副作用の実例」の続きです)
コラムリンク
組織の人間的な要素って何?
人間的な要素は、業務のなかの論理で説明し切れない部分で、
- 個人の心理的な側面に関わるもの(有用感、自己確認、自己実現など) と、
- 組織の無形資産的な側面に関わるもの(知識、スキル、人脈など)
に大別することができます。
前者の心理的な側面について、これまで人は、組織で働くことによりそれを満たしてきました。
これは、組織が「公共空間」と「学習の場」の2つの役割を果たしていたからです。
「公共空間」とは
人がある集団に属し、何らかの役割を期待され、それを果たすことで認められる「職場の人
間関係」のようなもので、これにより、人は自分が役立っていることを実感(有用感)し、アイ
デンティティを確認(自己確認)できます。
「学習の場」とは
人が仕事を通じて経験を積み、他人から認められ、自らの成長を実感する「成長の機会」の
ようなもので、これにより、人は自分の能力・可能性を発揮して、成長したい欲求(自己実現)
を遂行できるのです。
「公共空間」と「学習の場」は、組織に属する人がそれを期待し、あると信じて初めて存在する
点が特徴です。
以上により、心理的な側面に関わる要素が満足されると、人は自分の属する集団へのロイヤ
ルティ(忠誠心)と貢献意欲を高めます。
その結果、組織の無形資産的な側面に関わる知識やスキルの習得が促進されるのです。
まとめると、人間的な要素は、
「組織への期待・信頼」
↓
「心理的な側面の満足」
↓
「意欲・ロイヤルティの向上」
↓
「無形資産的な側面の促進」
という流れで関係しています。
どのように人間的な要素を傷めてしまったのか
次に、こうした人間的な要素が、誤ったメソドロジーの導入により、どのように傷められたか
ですが、人間的な要素の棄損には、2つのルートがあると考えております。
BPRでは、プロセス・マップに記述できない個人の知識や経験を軽視し、あるべきプロセス
から切り捨てたことは前回のコラムで書きました。
人材の流動資産化では、人件費を固定費にしないよう、期間の短い契約の社員を増員しま
した。
これらを人はどう受け止めたのか。
「経験を積んでも評価してもらえない」
「職場にいる人は仕事を取り合うライバルである」
そう感じたのではないでしょうか。
期待されなくなった組織は、「公共空間」と「学習の場」の役割を果たさなくなり、人は心理的
な側面を満たせなくなる。そして、組織への愛着や貢献意欲を失い、知識、スキル、人脈など
の蓄積を低下させます。これが1つめのルートです。
2つめのルートは、誤ったメソドロジー導入が、組織の無形資産的をダイレクトに傷めてしまう
ものです。
企業は、BPRの導入や人材の流動資産化によって、有効な知識、スキル、人脈を保有してい
る人を不要と判断し、また、短期雇用に追い込み、退職させてしまうことがありました。
これがそれに当たります。
まとめると、1つめのルートは「組織への期待・信用」を傷めることで、人間的な要素を満たす
「流れ」を棄損し、2つめのルートは「無形資産的な要素」そのものを棄損してしまったのです。
(図示すると・・)
次のように、源流から×になることで、ドミノ倒しのようにすべてが×になってしまうのです。
×「組織への期待・信頼」←''ルート1'' 源流が×になり、以降ドミノ倒しですべて×
↓
×「心理的な側面の満足」
↓
×「意欲・ロイヤルティの向上」
↓
×「無形資産的な側面の促進」←''ルート2'' 無形資産がダイレクトに×になる
知恵や提案が現場から出てこない、のは当たり前?
企業にインタビューしてみると、
「競争優位の源泉は「人材」であるとの見地から、「目安箱」や「社内ブログ」などを設置して、
現場の意見を吸い上げている」
という声を多く聞きますが、ほとんど機能していないのが実情のようです。
上述したように「組織への期待・信頼」が失われている場合には、社内ブログや目安箱など
を用意して、「会社に知識を出そう」「コミュニケーションを増進しよう」と声がけしたところで、
ほとんど機能しないのです。
「最近、社員からの提案が減った」
「現場の声を吸い上げる場を設けているが、形骸化している。出てくるのは不満ばかり」
というケースでは、そのほとんどが「従業員が職場で働く意義を喪失してしまっている」ことが原因
であることをマネジメントは理解する必要があると思います。
次回から、こうして活力を失った組織の活性化方法について連載していきたいと思います。
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