- 中野 博
- 株式会社エコライフ研究所 代表取締役
- 埼玉県
- 経営コンサルタント
対象:経営コンサルティング
- 戸村 智憲
- (経営コンサルタント ジャーナリスト 講師)
「大樹、せっかくだから、この機会にあなたには言っておくけど、パパはね、昔からの夢があって、小さくてもいいから自分らしく生きるために、今の会社をやめて独立するそうなの。」
「うん、でもね、大樹と恵子がある程度大きくなるまで、もう少しお金をためてから、と決めているんだけどね。」
「ねーこんなにいい家に住んでいるから、友達から、僕の家は金持ちだ、なんて言われるけど、うちは金持ちなの?」
「いや、金持ちということはないさ。でもね、お金の使い方には慎重だし、先の先まで考えてからお金を使うことにしている。一見安く感じても、そのものが長く使えなければ、結局また買わなくてはいけないから、かえって高くつく。そうすると、お金はたまるどころか、いつも出て行くばかりになるんだ。」
「あーそういうの、『安物買いの銭失い』っていうんだよね、この前学校で習ったよ。」
「ハハッ、そうだね。昔の人はうまいことを言ったもので、それは真実だよ。いいかい、たとえば、大樹が持っている野球のグローブ。大樹がいつも練習をしてがんばっているから、ちょっと高いなーと思ったけど、いいもの買ったよね。」
「うん、大切に使っているよ。」
「そう、大樹は自分の好きな野球をするために、あのいいグローブを手に入れた。いっしょに買い物に行ったから、他のものと比較して、高いって事は大樹にもわかった。だから、あの時、大樹は少し遠慮しただろう?こんなに高いものでなくてもいいよって。」
「うん、だって、グローブはあれが3つ目だったし。」
「それは仕方がないさ、子供は年々大きくなっていくんだし、手の大きさと合わないんだから、買い換えていくしかない。でも、6年生になって本気で野球をしていく上では、道具は大切なものだから、パパは高くて質のいいグローブを選んだんだよ。でも、その結果、大樹は、自分でクリームを塗ったり、保管場所や保管の方法まで研究して大切に使っているだろう。」
「うん、だってあのグローブは僕の宝物だし、僕が上手くなるために必要なものだもん。」
「パパが教えたかったのは、大切にものを使う、ということなんだ。いいかい、今のグローブは3万円した。これを大樹が5年間使えば、1年当たり6千円だね。しかも、使っている間は、うれしい気持ちで大切にするし、野球にも影響が出るんじゃないかな。」
「それはそうだよ、自慢のグローブだもん。」
「じゃー、あの時、8千円のグローブにしたら、今ほど大切に扱っていたかな?」
「うーん、こんなに宝物みたいにしなかったかもしれない。これまでのグローブがそうだったし。」
「いいかい、安いグローブと高いグローブでは何が違うか、もう少し考えてみようか。8千円のグローブはまず使われている材料が3万円のものと違って、ぜんぜん違った。さらに、手になじみやすいかどうか、長持ちしそうかどうか、など多くの点で違っていたんだよ。だから、大樹もいつかまた、新しくてもっといいグローブが欲しくなるはずだ。」
「そうかなー、もったないから、使うと思うけど。」
「でも、野球をするときの気持ちはどうだい?」
「そうだね、今ほどうれしくないかもしれないし、友達がいいものを持っていたら、うらやましく思うかもしれないなー。」
「で、ママにこそっそり相談してパパにそれとなくねだるんでしょ?」
「・・・・・・」
「お金の使い方は難しいんだよ。パパたち大人でさえ、わからないことが多いからね。世の中にはいろんな考え方があるし、いろんなものであふれているけど、いかに自分の頭で考えていかに自分に合うものを選ぶか、これは学校ではあまり習わないかも知れなけど、とても大切なことなんだ。」