- 中舎 重之
- 建築家
対象:住宅設計・構造
首都圏の「震度7」と住宅
文部科学省が2012年3月30日に発表した「東京湾北部地震」は、
マグニチュード:7.3、東西63km、南北31kmの震源域を想定している。
震央は東京都と千葉県の県境としている。
震度7と想定された場所は、東京都江戸川区、江東区、大田区です。
震度6強は、墨田区、葛飾区、荒川区、足立区です。
震度6強と6弱が混在する場所は、品川区、港区、千代田区、文京区、北区です。
地震の揺れを、阪神・淡路大震災と比較しながら推定します。
震度7は600ガル、震度6は400~250ガル、
震度5で200ガルと見なせます。
震度5の200ガルは、国土交通省が定めている建築基準法において、
建物が損壊しても、倒壊しないように設計し、施工する事を義務付けています。
早い話が、震度5が國が決めた最低のルールなのです。
「東京湾北部地震」のように、震度7~6の地震は想定外なのです。
ですから、揺れの強い地域に住む都民は、自らの生命と財産を守るには、
國や都、さらに区の行政を当てにせずに、自らの知恵と力により自らを護る事です。
・震度7に対する住宅
震度5の建物が國の最低基準ならば、震度7に耐える建物の設計は如何にすべきか。
此処では、新築の住宅に対しての、当方の考え方です。
まず、建物に必要な耐力を求めます。建物が建つエリアの震度階により求めます。
上記で示した重力加速度ガルを使い、震度5に対して比例させます。
震度6のエリアでは、國の規準に対して、
400/200~250/200=2.0 ~1.25 倍の耐力とします。
震度7のエリアでは、同じく600/200=3.0倍の耐力にして設計します。
設計する住宅の強度を、どのレベルにするかは、建て主であるお客様の専権事項 です。
設計事務所はアドバイサーとしての参加になります。
強度とか、耐力を設定するのに3.0~1.25倍にすると話しましたが、
建物全体のコストが3倍になる訳では有りません。
コストが上がるのは構造躯体の部分のみです。構造躯体の費用は建物全体の20% 位ですし、
強度を3倍にしても20%が25%になる程度と考えて下さい。
次に、構造種別ごとに話をします。
・木造の住宅。 木造軸組工法の最大の問題点は、意匠設計者、現場管理者、大工さん、それと、
各職種の職人さん達の考え方や、仕事に打ち込む姿勢にバラツキが見られる事です。
当然、建物の品質にもバラツキが出ます。
此の現象は、特にハウスメーカーの建築現場に、多いようです。
阪神・淡路大震災での被害においても、無理な設計や、規準通りの施工が成され
ていない事で、建物が損壊し、倒壊した事実が数多く指摘されています。
木造軸組工法は、日本の気候、風土に最も適した工法です。
意匠設計事務所を選ぶ時は、過去に違反建築を一度もしない事は勿論ですが、
設計において無理をしない、規準に対しても正しく理解している事が大事です。
木造に精通した構造設計事務所とのタイアップ出来る事も大切です。
当方が目にした、構造計算書では、審査機関の法的にはOKの設計の建物でも、
実際の地震に出会えば、真っ先に倒壊するであろう建物が多い事でした。
無理なく、正しく、設計しなければ、どんな計算書を作ろうが、
NGになると言う事です。
住宅を建てるのなら、意匠設計事務所と工務店が、緊密に連携して仕事をして
いる事を確認して下さい。
意欲のある工務店の元には、意欲のある職人さんが集まります。
この建築現場の意志には、統一が執れており、良い建物が出来ます。
・鉄筋コンクリート造(RC造)の住宅。
RC造の躯体は、鉄筋を組んで、型枠で柱、梁、壁、床の形を作り、
そこにコンクリートを流し込みます。
コンクリート打設後5~7日で柱と壁の型枠を外します。
梁と床は、さらに7日位置くのが良いでしょう。
RC造は、耐火性、耐久性、気密性にとても優れています。
但し、価格的に割高なのと、断熱性能が悪いのが欠点です。
RC造の躯体は、すべて現場での作業ですので、現場監理がとても重要になります。
構造設計事務所の設計担当者も、審査機関の現場検査官も、RC造に精通した人が
極めて少なくなり、問題です。
鉄筋の組立での鉄筋の継手位置、端部での定着などの施工管理と、
コンクリート 打設時の、技術的な品質管理が大切になります。
ベテランの現場管理者が必要なのですが、住宅のような小規模建築では、
高卒、大卒の現場を知らない若い人が付くことが多いのです。 最悪ですね。
ですから、工事を発注する立場のお客様は、施工会社に対して現場管理者を
経験も豊かな人を指名して下さい。
RC造の躯体の重量は、相当な重さに成りますので、事前に地盤調査を行い、
あらかじめ、良い地盤である事を確認してから、計画→設計へと進んで下さい。
地盤が軟らかい土地では、基礎に杭を打つような場合もあり、
コスト的に不利に なる事が大です。
最後は、専門的な構造の話ですが、出来る事ならラーメン構造を避けて、
壁式構造を採用する事を お勧め致します。
・鉄骨造(S造)の住宅
S造では、柱に角形鋼管を、梁にH形鋼などを採用して、現場で組み立てをします。
重量鉄骨(板厚4.5mm以下)を使用するラーメン構造は、軽くて、丈夫で、
長持ちがします。 耐用年数は60年位でしょうか。
軽量鉄骨(板厚4.0mm以下)を使用するブレース構造は、基礎も木造なみの
サイズです。躯体の比較では、コスト的にも木造住宅と同じか、1割増し位です。
耐用年数は、木造住宅と同じ30年位です。
軽量鉄骨は、使用する板厚が薄いのでサビが問題になります。
S造ラーメン構造は、鉄の強い靭性を活用して、工場おいては鉄と鉄を溶接にて
接合して部材を組み立てます。 部材の組立により柱や梁が製作されます。
工場で製作した柱や梁を現場に搬送し、クレーンにて柱を建て、柱から柱に梁を
渡して組み立てます。 現場では高力ボルトを使用して接合をします。
此の高力ボルトを日本で最初に採用したのが、東京タワーです。
完成が昭和39年(1964年)ですから、優に50年間も揺るぎなく
使命を果た している事になります。
当方が推奨するS造は、オフィスビルやマンションの建物などに採用されている、
重量鉄骨のラーメン構造です。
住宅の規模がワンフロアが20坪ならば、柱は6本 で充分です。
間仕切りをして使うも良し、ワンフロアで使用するのもOKです。
仕上げも木造と同じようにできます。 仕様を記します。
屋根:防火対応にて、カラー鋼板葺き。
外壁:S造では、ALC版100mmが普及タイプ。
木造のイメージで、工業製品の防火サイデング張り。
上記のサイデングは、阪神・淡路大震災の火災では、
強靱な防火性能を発揮して、延焼をくい止めた事を実証しています。
内壁:木造にて、間仕切ります。
床 :玄関はタイル、ホールと廊下・洋室はフローリング、和室はタタミ。
建具:ALC版ならば、ALC専用のサッシ。
サイデングなら、木造用のサッシ。
・コストの比較
建物の工事費用を建物の耐用年数で割算して、費用/年 にて比較します。
建物の規模を30坪とします。
建築の坪単価 :木造は75万、RC造は100万、S造は90万円とします。
建物の耐用年数:木造は30年、RC造は45年、 S造は60年 とします。
比較の計算
坪 単価 費用:万円 年 費用:万円/年
木造 :(30 x 75 = 2250) / 30 = 75.0
RC造:(30 x100 = 3000) / 45 = 66.7
S造: {(30 x 90 = 2700) + * 1090}
/ 60 = 63.2
*印は、30年目の給排水設備を更新する費用です。
2015.4.3 中舎重之 Fax:046-263-9324
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