- 中舎 重之
- 建築家
対象:老後・セカンドライフ
法隆寺:東院夢殿の話
夢殿は、法隆寺の東の外れにあります。
まずは、表参道の松並木からスタートしましょう。 両側の男松の紺青、芝草の茂った土被り、
その中央の路の白砂、 もうこれだけで、推古の世界に游ぶ心地がします。
総門に立って、中門をのぞんだ時の寺院境内の雄大さ、
中央に切石での敷石、両側に敷石とほぼ同じ幅の白砂の路、
寺務所の通用門の品格の高さ、さすがに世界に比類なき古代の文化だけの事はあり、
それだけで私を威圧します。
東院へは、中門を見て右手(東)に曲がり足を運びます。
路は、あくまでも広く堂々としおり、右手には落ち着いた築地塀が延々と続きます。
東院の諸堂中、最も重要な夢殿に接するのが目的です。
八角形の円堂として有名な夢殿は、聖徳太子の斑鳩の宮跡と伝えられる地に、
天平11年(739)に僧・行信の発願により、
太子の冥福を祈るために建てられた上宮王院の本堂です。
二重の石壇上に建つ、一辺455㎝とする正八角形の仏堂です。
四面に扉があり、四隅に連子窓を開いています。
屋根の軒の出がとても深く3mとあります。
普通なら重く、そして暗さを感じさせるのですが、ここには其れを感じさせるものは微塵もありません。
屋根の頂部には、光線を放つ宝珠(ほうじゅ)、宝蓋(ほうがい)、
宝瓶(ほうびょう)を重ねた露盤(ろばん)を置いている。
これは国内では他に例がありません。
そして軒のすみずみに風鐸を下げ、火焔を付けた宝珠を配しています。
この構成美に注意をはらって下さい。 お堂は、はなはだ軽快であり、
全体として安定した典雅な形をしており、日本の八角円堂の首座に座る貫禄をもっています。
夢殿の建立は天平時代ですが、様式は朝鮮を経由した中国の六朝時代・北魏の流れを感じさせる
柔らかさと優雅さが見られます。
八角堂は夢殿の他に法隆寺の西の外れに西円堂(1250年)があり、
興福寺に北円堂(1210年)もあります。
しかし、これらの堂の形式は、明らかに中国の唐時代の影響を直線的に受けていると思われます。
印象を一言でいうと、軽さより重さ、低さより高さを主張しているかのように感じられます。
他のお堂の話は終わりにします。 私は縁台に腰をおろして、ぼんやりと夢殿を眺めます。
ここには何かしらロマンがあり、美しいとか、ふるさ故に貴いなど
と云う以前に、悠久の まにまに 漂う心地がします。
私は、その雰囲気にすなお に浸ることにしました。
2014年 春 中舎重之
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