『新・裁判実務体系27 住宅紛争訴訟法』青林書院 - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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『新・裁判実務体系27 住宅紛争訴訟法』青林書院

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『新・裁判実務体系27 住宅紛争訴訟法』青林書院
2006年、35項目、本文約510頁。
裁判官らによる共著である。
本書の構成は、Ⅰ建築行政(建築基準法など)が5項目、Ⅱ請負(民法の請負契約など)が15項目、Ⅲ住宅の購入が5項目、Ⅳ近隣(民法の相隣関係など)が3項目、Ⅴ紛争解決が5項目、Ⅵ保険が1項目、補遺が建築行政に関して2項目である。
建築紛争に関連する、おおむね平成15年までの裁判例が解説されている。
建築基準法は、本書刊行の後、大きく改正されているので、注意が必要である。
上記書籍のうち、以下の部分を読みました。
Ⅰ 建築行政
「1 建築基準法に関する判例の動向」
 建築紛争に関連する建築基準法の平成9年~平成14年の裁判例が解説されている。
「2 建築確認、建築許可と不服申立ての適格」
・建築確認、建築許可の種類と処分性の有無
・建築審査会に対する審査請求と申立人の不服申立て適格
・処分の取消訴訟、無効等確認訴訟、不作為違法確認訴訟と原告適格
・執行停止、違反是正命令に関する訴訟
 なお、本稿では指摘されていないが、行政事件訴訟法改正により、義務付け訴訟(申請型(申請人が原告となる場合)、非申請型(申請人でない人が原告の場合))、差止訴訟、仮の義務付け・仮の差止も新設され、各訴訟等の要件も改正されている。
「3 建築基準法上の道路を巡る公法上・私法上の諸問題」
 道路法にいう「道路」だけでなく、建築基準法の「道路」については、建築確認の前提として建物の接道義務(建築基準法42条)、建築制限(建築基準法44条)、廃止制限(建築基準法45条)の効果が生じる。
・1項道路(建築基準法42条1項)
・位置指定道路(建築基準法42条1項5号)に関する公法上の問題
 道路位置指定処分の処分性、原告適格、関係者の同意、承諾ない場合の効力
・私道の廃止(建築基準法45条1項)
 道路位置指定廃止処分の処分性、関係者の同意、承諾ない場合の効力
承諾ない場合の効力
・2項道路(建築基準法42条2項。この本では「みなし道路」)
・通行妨害と妨害排除請求権
 最高裁平成9年12月18日は、従来から近隣住民の通行の用に供され、現況道路とされている私道に関して、通行の自由を認め、妨害排除請求権を認めた。
 最高裁平成12年1月27日は、徒歩・自転車等による通行のみされている道路に関して、自動車による通行まで認められないと判示した。
「4 条例に基づく建築禁止命令の履行を求める訴訟」
 国・地方公共団体が、財産権の主体として提起する訴訟は別として、法律の適用により行政上の義務の履行を求めることは行政的な手段(行政代執行、行政罰、罰則等)によるべきであるから、訴訟によることはできない(最高裁平成14年7月9日)。
Ⅱ 請負
「6 建築請負契約における危険負担」
(1)民法の危険負担
(2)建物建築請負建築紛争と危険負担
(3)請負契約と危険負担の債務者主義の結果の妥当性
(4)目的建築物の所有権の帰属と危険負担
(5)建設業法の規定と建築物標準請負契約約款
(7)公共約款と危険負担
(8)民間連合約款の危険負担
(9)公共約款と民間連合約款との関係
本稿では指摘されていないが、以下を補足したい。
建築請負標準約款は、公共工事、民間工事、下請けの用途別に定めている。
① 公共工事
 建設業法は、公共工事の入札の前提となる経営審査事項などが定めている。
 公共工事の前払金保証事業に関する法律
② 民間工事
 新築住宅に関して、住宅の品質確保の促進等に関する法律、特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律 が適用される。
 中古の住宅、あるいは事業用建物に関して、民法に関する本稿は参考になる。
③ 下請け工事
建設業法で、下請け工事については、契約書を取り交わさなければならないと定めている。
なお、下請代金支払遅延等防止法は建設業には適用されず、建設業法が下請け業者の保護の規定を定めている。
「7 追加工事・変更工事」
 基本となる請負契約に関して、追加工事・変更工事、または、別工事を論じている。
 追加・変更工事の発注につき、代理権を授与されないかぎり、監理者は請負工事が設計図書のとおりになされているかを照合確認する業務であるから代理権がなく、また、発注者の家族も代理権がない。
また、発注者が下請人に指示しても、契約は発注者と元請負人との契約であるから、原則として、追加・変更工事の指示にはならない。
追加・変更工事により、工事期間が延長となる場合、建築確認と異なる建物ができる場合がある。
 追加・変更工事の算定基準については、本稿では指摘されていないが、現在では、東京地方裁判所民事22部(建築部)では、公共工事の積算単価を用いて算定されている。
「8 建築請負契約と事情変更の原則」
建築請負標準約款のうち、事情変更の原則の現れとして、インフレ条項、スライド条項が取り上げられている。
実務的には、急激なインフレよりも、労務賃・材料代・運賃などの高騰が考えられるであろう。
「9 建築請負における瑕疵担保責任と債務不履行責任」
 請負に関して、民法は、請負人の報酬請求権の要件事実を、仕事の完成と引き渡しを要件としている。
 建築請負の完成に関して、裁判例は、以下のとおり解しており、東京地方裁判所民事22部(建築部)の見解でもある。
工事の最後の工程を負えない場合は工事の未完成に該当し、請負人は、出来高報酬請求権があるが、報酬のすべてを請求できない。なお、最高裁判決は、出来高報酬について、当事者間に特約がある場合、または、仕事が可分で、かつ出来高部分だけでも有用性がある場合に認めている。
最後の工程まで一応終了している場合には、請負人は報酬請求権があり、注文者は瑕疵担保責任を追及できる。
なお、民法570条(瑕疵担保責任)については、古い判例には競売に関する事案が含まれている。その後、民事執行法が競売・強制競売の場合の瑕疵担保責任について特別規定を設けているので、今日では立法的に解決されている。
「10 住宅の瑕疵の調査・修補方法」
 論者は建築士であり、住宅・マンション等に関して、不具合事象から見た瑕疵、部位別の瑕疵、瑕疵の調査・調査の手順・修繕について、ひび割れ・雨漏り・漏水・傾斜等を具体例にして、専門的に解説されている。
「11 建売住宅・中古住宅の瑕疵」
売買契約の場合、買主は、無過失責任である瑕疵担保責任(民法570条)として、損害賠償請求権、契約目的が達成できない場合の契約解除権がある。判例の立場は、一般的に、賠償の内容は信頼利益であると解されているが、裁判例は、事案に応じた損害賠償請求の範囲・金額を認めている。ただし、一般的に、売買の瑕疵担保責任として、弁護士費用・慰謝料の請求をすることは難しいため、別に、不法行為に基づく損害賠償請求をする。
「隠れたる瑕疵」
「瑕疵を知ったとき」とは、瑕疵担保責任に基づく解除の意思表示や具体的損害額とその算定根拠を示せる程度の損害賠償請求を行うか否かの判断をなし得る程度に瑕疵の内容・程度を知った時点」である(最高裁平成4年10月20日判決)。
判例によれば、瑕疵担保責任は、裁判外の意思表示で足りる(最高裁平成4年10月20日判決)。瑕疵担保責任に基づく請求権は、損害賠償請求権、形成権である解除権であっても、引渡時から10年の除斥期間にかかる(最高裁平成13年11月27日判決)。
請負契約の場合、注文主は、瑕疵修補請求権、損害賠償請求権、契約解除権がある。民法の請負契約の瑕疵担保責任の規定は、賠償の内容は履行利益であり、債務不履行責任の特別規定である。瑕疵修補に代わる損害賠償請求権は目的物の引渡時から期限の定めのない債務として弁済期にある(最高裁昭和54年3月20日判決)。修補請求権、それに代わる損害賠償請求権は10年の除斥期間にかかるが、請負人の請負代金請求権と注文者の損害賠償請求権とは、除斥期間経過後も相殺できる(最高裁昭和51年3月4日判決)。
住宅の品質確保の促進等に関する法律87条・88条は、新築の住宅の請負契約(増改築を含まない)または売買契約につき、政令で定める構造耐力上の主要部分・雨水の浸入を防止する部分については、引渡時から10年間、担保責任を負い、これに反する特約は無効であると規定する。
宅地建物取引業法40条は、宅地建物取引業者が自ら売主で、かつ買主が宅地建物取引業者ではない場合には、引渡時から2年以上とする特約の場合を除き、隠れたる瑕疵を発見した時から1年以内に、瑕疵担保責任を請求することができ(民法570条・566条3項)、これに反する特約は無効であると定めている。
なお、住宅の品質確保の促進等に関する法律、宅地建物取引業法、特定商取引法、あるいは消費者契約法の類推等が全て適用されない場合には、特約・約款により、担保責任の期間を短縮する、あるいは排除することは可能であると解されている。
不動産仲介業者に対して、仲介契約関係にある場合、故意・過失を要件として(例えば、説明義務違反)、債務不履行責任に基づく損害賠償請求をできる場合がある。
契約関係にある場合、故意・過失を要件として(例えば、説明義務違反)、債務不履行責任に基づく損害賠償請求をできる場合がある。
契約のある場合もない場合も、故意・過失を要件として、不法行為に基づく損害賠償請求ができる。例えば、建売住宅・中古住宅で契約関係にない建築士に対する不法行為に基づく損害賠償請求ができる(最高裁平成15年11月14日判決)。同様に、中古住宅の買主は、契約関係にない施工業者に対して、不法行為に基づく損害賠償請求ができると解されている。
 以上の複数の建築関係者の責任は、二重てん補を許すものではないから、不真正連帯債務であると解されている。
「12 シックハウス」
 特定の有害な化学物質が拡散する建築材料・接着剤等(特定建材)については、日本農林規格法(JAS法)、日本工業規格法(JIS法)、建築基準法28条の2・同法施行令20条の4等の改正により規制されるようになった。
 住宅の品質確保の促進等に関する法律では、特定建材については、住宅性能表示制度に基づく「住宅性能評価書」(同法6条)に表示される。
「13 修補と建替え」
 請負契約について、民法634条ただし書にかかわらず、最高裁平成14年9月24日判決では、建替え相当額の損害賠償請求が認められている。
「14 欠陥住宅の損害賠償の範囲・金額」
「15 瑕疵担保責任の排除・軽減」
「16 瑕疵担保責任の消滅」
「17 建築関係者の責任の競合」
 以上(14~17)については、前述したとおりである。
「18 請負契約と倒産」
「19 請負代金債権を巡る担保物権の交錯」
「20 建築士の法令遵守義務」については、前述したとおりである。

Ⅴ 紛争解決
「28 建築関係訴訟の審理の特色」
・建築関係訴訟の特質及び問題点
・専門訴訟としての建築関係訴訟への取組
・建築関係訴訟の審理の実際
 上記テーマについて、理論的に言葉で説明している。理論面の集大成といえるので、一読を勧める。
 建築関係訴訟では、一覧表形式で作成を求められるのは、追加・変更工事、瑕疵、時系列(事実経過)であるが、事案に応じて、争点となっている部分について必要なものを作成することになる。例えば、事実経過については、短期間で工事が済むようなものについては、作成を求められず、準備書面への記載で足りる。もっとも、代理人が手控えとして、予め準備しておく方がベターな場合もある。
 提訴前の証拠保全は利用されるが、提訴前の照会の制度はあまり活用されていない。当事者であれば、質問事項をファックスや電子メールで質問する方が穏当であろう。代理人の場合、配達証明付き内容証明郵便で質問書を送付するからであろう。
なお、建築紛争は、図面・計算式等で説明することが多いので、それについては、別途、他の文献等で補う必要がある。
「29 建築紛争と調停制度の活用」
 大阪地方裁判所の建築部での調停の運用に関する論考である。東京地方裁判所の建築部の運用とほぼ同様である。
 商事調停の「調停委員会の定める調停条項の制度」は、実務上あまり利用されていない。
「30 建築工事に関する仮処分」
生活環境をめぐる紛争に関する仮処分として、日照被害(人格権に基づく準物権的請求権説)、騒音、採光・通風の阻害、風害、プライバシー侵害、眺望阻害、景観利益などを理由とする。
日照阻害については、建築基準法の日影規制、北側斜線等の規制を遵守していれば、おおむね受忍限度内と判断される。
ただし、建築工事に伴う建設車両の出入り、騒音等については、建築基準法が定めておらず、民法の不法行為に基づく損害賠償請求であるから、「迷惑料」的な金銭解決を求められることもある。
敷地利用権(借地借家法など)、相隣関係、通行権などがある。これらは、民法などの規定が根拠で、被保全権利の有無が比較的明確である。
「31 住宅紛争に関する弁護士会のADR」
 弁護士会またはその他ADR機関に設置されている「住宅紛争審査会」は、住宅の品質確保の促進等に関する法律に基づく「建設住宅性能評価書」(同法5条以下)が交付された新築住宅の建築請負契約または売買契約に関する紛争について限定されている(同法63条1項)。また、特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律 により、保険が適用される場合も、対象である。
 その他の住宅紛争は、一般のあっせん、調停、仲裁等の手続による。
「32 行政による建築紛争の予防と調整」
 建築確認が建設主事だけでなく指定確認検査機関も行えるようになったこと、建築確認を受理しないで行政指導することは行政手続法に違反すること等の理由から、行政による建築紛争の予防については、工事現場に建築計画の標識を設置し、周辺住民に対する説明会を開催し、説明をして、資料を配布すれば足りるようになった。
 「中高層建築物の建築に関わる紛争の予防と調整に関する条例」に基づくあっせん、調停については、建築基準法等の行政法規を遵守していれば、それ以上の行政機関の介入がないので、そもそも建築主等は応じないことが多い。建築工事期間との兼ね合いから、短期間でなされる。
日照被害等の補償・慰謝料等の金銭的解決については、行政機関は、一切関与しない。仮に行政ADRで和解が成立しても、民法上の和解であって、裁判と同様の効力(特に強制執行力)はない。
Ⅵ 保険
「33 住宅保険」
・住宅総合保険
 住宅の火災保険と家財についての火災・盗難等の保険である。
・借家人賠償責任保険
 失火を起こした借家人は、家主に対する債務不履行責任(賃貸借契約の保管義務違反)を免れない。このような場合の借家人は、軽過失の失火については免責される旨を規定する失火責任法によって免責されない。
・地震保険特約
 ただし、保険法の立法前のものである。 
「補遺1 指定確認検査機関の問題点」
1 指定確認検査機関の概要
 一定の建築物は、建築基準関係規定に適合するものであることについて、建築主事による建築確認を受けなければならない(建築基準法6条)。
建築基準法6条第1項に掲げる建築物の計画(6条第3項各号のいずれかに該当するものを除く。)が建築基準関係規定に適合するものであることについて、指定確認検査機関の確認を受け、確認済証の交付を受けたときは、当該確認は6条第1項の規定による確認と、当該確認済証は同項の確認済証とみなす(建築基準法6条の2第1項)。
 指定確認検査機関は、確認検査を行うときは、確認検査員に確認検査を実施させなければならない(建築基準法77条の24第1項)。
 指定確認検査機関の確認検査員は、建築基準適合判定資格者(建築基準法77条の58第1項)の登録を受けた者のうちから、選任しなければならない(建築基準法77条の24第2項)。
 指定確認検査機関は、確認の申請を受けた場合において、申請に係る建築物の計画が建築基準法第20条第2号又は第3号に定める基準に適合するかどうかを審査するときは、都道府県知事の構造計算適合性判定を求めなければならない(建築基準法77条の24第3項)。この構造計算適合性判定により適合判定がされた場合に限り、第一項の規定による確認をすることができる(建築基準法77条の24第8項)。
建築物に関する完了検査に関する規定として、以下のとおり定めている。
 建築主は、第六条第一項の規定による工事を完了したときは、建築主事の検査を申請しなければならない(建築基準法7条1項)。
 建築主事等は、検査(建築基準法7条4項)をした場合において、当該建築物及びその敷地が建築基準関係規定に適合していることを認めたときは、国土交通省令で定めるところにより、当該建築物の建築主に対して検査済証を交付しなければならない(建築基準法7条5項)。
 指定確認検査機関は、建築主から申請を受けた場合、建築物に関する完了検査を行い、当該建築物の建築主に対して検査済証を交付しなければならない(建築基準法7条の2)。これらは、建築主事によるものとみなされる。
指定確認検査機関は、確認の申請を受けた場合において、申請に係る建築物の計画が建築基準関係規定に適合しないことを認めたとき、又は申請の内容によっては建築基準関係規定に適合するかどうかを決定することができない正当な理由があるときは、国土交通省令で定めるところにより、その旨及びその理由を記載した通知書を当該申請者に交付しなければならない(建築基準法6条の2第9項)。
 指定確認検査機関は、同項の確認済証又は前項の通知書の交付をしたときは、国土交通省令で定める期間内に、国土交通省令で定めるところにより、確認審査報告書を作成し、当該確認済証又は当該通知書の交付に係る建築物の計画に関する国土交通省令で定める書類を添えて、これを特定行政庁に提出しなければならない(建築基準法6条の2第10項)。
 特定行政庁は、前項の規定による確認審査報告書の提出を受けた場合において、第一項の確認済証の交付を受けた建築物の計画が建築基準関係規定に適合しないと認めるときは、当該建築物の建築主及び当該確認済証を交付した同項の規定による指定を受けた者にその旨を通知しなければならない。この場合において、当該確認済証は、その効力を失う(建築基準法6条の2第11項)。この場合において、特定行政庁は、必要に応じ、建築基準法第9条第1項(除却、使用制限等の命令)又は第10項(工事停止命令)の命令その他の措置を講ずるものとする(建築基準法6条の2第12項。
また、特定工程にかかる工事中の建築物等の中間検査合格証については、建築基準法7条の4第5項参照。
2 指定確認検査機関の処分の取消請求に関する問題
 建築物等が完成すると、建築確認の取消訴訟は、訴えの利益を失う(最高裁昭和59年10月26日)ので、行政不服審査法・行政事件訴訟法に際しては、注意を要する。
 指定確認検査機関の確認等に対する不服申立ては、審査請求前置主義が取られているので(例外的に行政事件訴訟法8条)、当該確認等をする権限を有する建築主事の置かれた市町村または都道府県の建築審査会に対して行う(建築基準法94条、97条の3)。
 指定確認検査機関は、行政不服審査法の処分庁として、処分の適法妥当性を主張立証しなければならない。
3 指定確認検査機関の違法な確認検査によって被った損害についての賠償請求に関する問題
 本稿では指摘されていないが、行政事件訴訟法の改正後の現在では、建築確認等の取消訴訟の被告適格は、指定確認検査機関は「公共団体に属しない」処分庁(行政事件訴訟法11条2項)であるが、「当該処分・裁決に係る事務の帰属する国または公共団体」として、建築主事の置かれた地方公共団体を被告とすべきである(行政事件訴訟法21条、最高裁平成17年6月24日決定参照)。(なお、行政事件訴訟法の改正前には、旧・行政事件訴訟法では、処分庁を被告としていたので、被告適格については、争いがあった。)
 したがって、訴えの利益が失われた場合に、建築確認等の取消訴訟を国家賠償請求訴訟に訴え変更することはできる。
「補遺2 敷地の接道義務と建築基準法43条1項ただし書の運用」
 建築基準法43条は、建築物が道路に接していなければならない義務(接道義務)について、以下のとおり定めている。ここにいう「道路」とは、建築基準法41条に規定されている。敷地とは、「一の建築物又は用途上不可分の関係にある二以上の建築物のある一団の土地」をいう(建築基準法施行令1条1項)。
 接道義務は、交通の確保、災害時における避難行動、火災時の消防活動に欠かせず、ひいては、周辺の建物や居住者の安全等にも寄与する。また、日照・通風の確保、上下水道、ガス管等の設置にも必要である。
 1敷地に1つの建築物しか建築できず、1敷地ごとに接道義務が満たされていなければならない。例外的に、総合設計制度(建築基準法86条)がある。
 (敷地等と道路との関係)
第四十三条  建築物の敷地は、道路(次に掲げるものを除く。第四十四条第一項を除き、以下同じ。)に二メートル以上接しなければならない。ただし、その敷地の周囲に広い空地を有する建築物その他の国土交通省令で定める基準に適合する建築物で、特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めて建築審査会の同意を得て許可したものについては、この限りでない。
一  自動車のみの交通の用に供する道路
二  高架の道路その他の道路であって自動車の沿道への出入りができない構造のものとして政令で定める基準に該当するもの(第四十四条第一項第三号において「特定高架道路等」という。)で、地区計画の区域(地区整備計画が定められている区域のうち都市計画法第十二条の十一 の規定により建築物その他の工作物の敷地として併せて利用すべき区域として定められている区域に限る。同号において同じ。)内のもの
2  地方公共団体は、特殊建築物、階数が三以上である建築物、政令で定める窓その他の開口部を有しない居室を有する建築物又は延べ面積(同一敷地内に二以上の建築物がある場合においては、その延べ面積の合計。第四節、第七節及び別表第三において同じ。)が千平方メートルを超える建築物の敷地が接しなければならない道路の幅員、その敷地が道路に接する部分の長さその他その敷地又は建築物と道路との関係についてこれらの建築物の用途又は規模の特殊性により、前項の規定によっては避難又は通行の安全の目的を充分に達し難いと認める場合においては、条例で、必要な制限を付加することができる。
建築基準法43条2項により、地方公共団体は、条例により制限を設けることができる。例えば、東京都建築安全条例は路地状敷地(敷地が細長い部分で道路に接している場合のその細長い部分)に対する制限を設けている。例えば、3階以上の建物・2階建ての共同住宅の敷地は道路に4メートル以上接していなければならない、延べ面積が1千平方メートル超2千平方メートル以下の建築物の敷地は長さ6メートル以上の道路に接していなければならないとされている。
 43条1項ただし書の趣旨は、交通上、安全上、防災上、衛生上支障がない場合には、建築を認めようとするものである。
 平成11年5月施行の建築基準法改正に際して、新たに建築確認を指定確認検査機関が行える制度を創設した際に、43条1項ただし書の認定について、民間の指定確認検査機関に任せてしまうのは適当ではないことから、新たに建築審査会の同意事項とされた。
(敷地と道路との関係の特例の基準)
建築基準法43条1項ただし書の国土交通省令で定める基準は、次の各号のいずれかに掲げるものとする。(建築基準法施行規則10条の2の2)。
一  その敷地の周囲に公園、緑地、広場等広い空地を有すること。
二  その敷地が農道その他これに類する公共の用に供する道(幅員四メートル以上のものに限る。)に二メートル以上接すること。
三  その敷地が、その建築物の用途、規模、位置及び構造に応じ、避難及び通行の安全等の目的を達するために十分な幅員を有する通路であつて、道路に通ずるものに有効に接すること。
 接道義務が満たされていない場合は、確認不適合の通知がされる(建築基準法6条5項)。
 接道義務違反の場合、建築が禁止され(建築基準法6条6項)、建築しようとすると、罰則(建築基準法101条1項)のほか、特定行政庁(市町村長または都道府県知事)により、建築主、請負人等に対し、工事停止命令、除却命令等の是正命令がされ、行政代執行法によって建築物の除却がされる場合もある(建築基準法9条)。
 東京都など地方公共団体は、予め事前に許可が得られる定型的な基準(一括同意基準)を定めている。一括同意基準に該当する場合には、建築基準法43条1項ただし書の審査が簡略化される。

(その敷地が四メートル未満の道路にのみ接する建築物に対する制限の付加)
第四十三条の二  地方公共団体は、交通上、安全上、防火上又は衛生上必要があると認めるときは、その敷地が第四十二条第三項の規定により水平距離が指定された道路にのみ二メートル(前条第二項に規定する建築物で同項の条例によりその敷地が道路に接する部分の長さの制限が付加されているものにあっては、当該長さ)以上接する建築物について、条例で、その敷地、構造、建築設備又は用途に関して必要な制限を付加することができる。