労災保険法の休業補償の給付制限 - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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労災保険法の休業補償の給付制限

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相続

労災保険法の休業補償の給付制限

最高裁判決昭和58年10月13日、労働災害補償不支給処分取消請求事件

民集37巻8号1108頁 、判例タイムズ513号139頁

【判示事項】 休日、出勤停止の懲戒処分等のため雇用契約上賃金請求権が発生しない日と労働者災害補償保険法14条1項所定の休業補償給付の支給の可否(積極)

【判決要旨】 労働者災害補償保険法14条1項所定の休業補償給付は、労働者が業務上の傷病による療養のため労働不能の状態にあって賃金を受けることができない場合であれば、休日出勤停止の懲戒処分等のため雇用契約上賃金請求権が発生しない日についても、支給される。

【参照条文】 労働者災害補償保険法14条1項

労働者災害補償保険法第十四条1項  休業補償給付は、労働者が業務上の負傷又は疾病による療養のため労働することができないために賃金を受けない日の第四日目から支給するものとし、その額は、一日につき給付基礎日額の百分の六十に相当する額とする。ただし、労働者が業務上の負傷又は疾病による療養のため所定労働時間のうちその一部分についてのみ労働する日に係る休業補償給付の額は、給付基礎日額(第八条の二第二項第二号に定める額(以下この項において「最高限度額」という。)を給付基礎日額とすることとされている場合にあっては、同号の規定の適用がないものとした場合における給付基礎日額)から当該労働に対して支払われる賃金の額を控除して得た額(当該控除して得た額が最高限度額を超える場合にあっては、最高限度額に相当する額)の百分の六十に相当する額とする。

 一 本件は、鉄工所(株式会社)でレッカー車の運転手として雇用されていた原告(控訴人・上告人)が、被告労働基準監督署長(被控訴人・被上告人)のした労働者災害補償保険法(以下、単に「労災保険法」という)所定の休業補償給付を支給しない旨の決定(以下、「本件不支給決定」という)の取消を求めた事案である。

 二 原告は、作業現場でクレーン作業に従事中、同僚からスパナで暴行を受けて傷害を負ったため休業するのやむなきに至ったとして、被告に対し、労災保険法14条1項所定の休業補償給付の請求をしたが、被告は、本件傷害は業務上の災害とはいえないとして、本件不支給決定をしたものである。

 原告の主張は、要するに本件傷害が業務上のものであるというものである。

これに対し、被告は、第1次的に、本件傷害は業務外のものであると主張したほか、第2次的に、原告が休業した期間のうち、第1日目は有給休暇として賃金が支払われており、第2ないし第4日目は、労災保険法14条1項の規定により本来休業補償給付の対象とならない日であり、その余は、公休日又は出勤停止となった日(原告は、本件傷害の原因となった同僚との喧嘩について、会社から出勤停止の処分を受けている)であって、いずれも雇用契約上賃金請求権が発生しないから、休業補償給付請求権が発生する余地はない旨主張した(なお、被告は、原処分においては、右の第2次的に主張している諸点について何らの審査をすることなく、本件傷害が業務外のものであるとの理由のみで本件不支給決定をしている)。

 第1審、控訴審判決は、本件傷害が業務上のものか否かについて判断せず、したがって、この点の事実関係を確定することなく、被告の第2次的主張を全面的に認め、結論において本件不支給決定を適法なものと判断した。

 原告の上告理由は、要するに本件傷害は業務上の災害にあたるというにつきるが、本判決は、職権により、所定の休日や出勤停止となった日については休業補償給付請求権がそもそも発生する余地がないとした原判決の判断には、労災保険法14条1項の解釈適用を誤った違法があるとして原判決を破棄し、本件不支給決定の当否につき更に審理を尽くさせる必要があるとして、本件を原審に差し戻した。

 三 所定の休日や出勤停止となった日についてそもそも休業補償給付請求権が発生する余地があるか否かについては、本件一、二審判決のような消極説も考えられないわけではないが、

(1)労働者が業務上の傷病等により労働能力喪失の状態にあることにより受ける損害を迅速かつ公正に補償しようとするのが休業補償給付を含む災害補償給付制度の趣旨目的であること、

(2)労災保険法12条の5には、保険給付を受ける権利は労働者の退職によっても変更されない旨の規定があり、これによれば、労働者が事業場を退職したため当該事業場との関係で「休業」ということがなくとも休業補償給付が行なわれること(井上浩『労災保険法の理論と実務』118頁、212頁、労働省労災補償部編著『新労災保険法』295頁〕、

(3)所定の休日も休業補償の対象とされていること(前記『労災保険法の理論と実務』118頁)、

(4)上記(1)ないし(3)の取扱い、考え方は従前実務上一般的に行われてきたものであること

等を考慮すると、前記の点についての積極説にも十分合理性があると考えられるし、従前の実務上の考え方もこの積極説によっていたものと思われる。

 本判決は、右の点について、判決要旨のとおり、積極説の立場からの判断を示した初めての最高裁判例であり、今後の同種事案に対する指針ともなる重要なものとして実務上の参考となる。

五 なお、労働者災害補償保険法14条の2には、刑事施設・少年院などに刑事手続で拘禁されている場合には休業補償給付を支給しない旨規定している。休業給付についても、労働者災害補償保険法14条の2が準用されている(労働者災害補償保険法22条の2第2項)。逆にいうと、労働者災害補償保険法14条の2所定以外の場合には支給すべきと思われる。