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Blog201402、廃棄物処理法の最高裁判例、刑事

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Blog201402、廃棄物処理法の最高裁判例、刑事
廃棄物の処理及び清掃に関する法律についての最高裁判例


最高裁平成18年1月16日・刑集60巻1号1頁
廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反被告事件

【判示事項】 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平成15年法律第93号による改正前のもの)25条4号にいう「第12条第3項(中略)の規定に違反して,産業廃棄物の処理を他人に委託した」の意義

【判決要旨】 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平成15年法律第93号による改正前のもの)25条4号にいう「第12条第3項(中略)の規定に違反して,産業廃棄物の処理を他人に委託した」とは,上記12条3項所定の者に自ら委託する場合以外の,当該処理を目的とするすべての委託行為をいう。

【参照条文】 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平15法93号改正前)25条
       廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平15法93号改正前)12条3項

 1 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平成15年法律第93号による改正前のもの。以下「廃棄物処理法」という。)12条3項は,「排出事業者は,産業廃棄物の処分を他人に委託する場合には,許可業者等に委託しなければならない」旨定め,同法25条4号は,「12条3項に違反して,産業廃棄物の処分を他人に委託した者」を処罰するとしている。
 本件は,この罰則により,木くず等の産業廃棄物の処分を無許可業者に委託したとして,排出事業者である被告会社とその代表者である被告人が起訴された事案である。委託先の業者は,産業廃棄物収集運搬業の許可を受けた業者ではあったが,処分業の許可は受けていなかったところ,被告会社は,この業者の下に木くず等の産業廃棄物を搬入し,処分費を含む処理費用を一括して支払った。業者は,受け入れた産業廃棄物を実際には処分場に持ち込むことなく,自ら野焼や不法投棄をするなどして,無許可で産業廃棄物を処分した。
 被告人は,捜査・公判で,「委託先の業者は正規の処分場に持ち込んで処理していたものと考えていた」旨弁解した。
 第1審判決は,上記罰則について明確な法解釈は示していないが,被告人の前記弁解を直ちに虚偽として排斥できないとし,本件では,故意の証明が不十分であるとして被告人らを無罪とした。
 2 これに対し,検察官が控訴し,法令適用の誤りの主張として,「廃棄物処理法25条4号により処罰されるのは,処分業の許可のない受託者自らに処分させる趣旨で委託した場合に限らず(この場合に限る,としたのが第1審判決の前提とした解釈であると検察官は理解したものと思われる。),受託者が他の者に処分を再委託することを予定して委託する場合も含むとし,仮に,委託者が,委託の時点で,再委託先として許可処分業者を具体的に指示していたとしても,処罰の対象となる」旨の法解釈を展開した。
 本件は,被告会社において,処分先や処分方法を具体的に指示した形跡はなく,いわば上記業者に対し丸投げして処分を委託した事案であって,控訴審判決は,このような場合は処罰の対象となるとし,被告人の故意を認めた上,第1審判決を事実誤認を理由に破棄し,第1審に差し戻した。しかし,その判文中では,委託に際し,「許可を受けた産業廃棄物処分業者のところまで運搬して処分を委託するように指示するなど,法が要求する適正な処理の努めを果たしたと評価されるような行動をした」場合には,処罰の対象とはならない旨の説示をし,検察官の主張する前記の解釈論は,立法政策としては魅力があるが,再委託する処分先を指示して委託した場合にまで処罰するのは行き過ぎであるとした。
 3 この控訴審判決に対し,被告人が上告し,弁護人は,上告趣意において,「排出事業者が,許可を受けた収集運搬業者に対し,引き渡した産業廃棄物の処分を一任して委託する行為は,違反行為を構成しないと解すベきである」などと主張した。
 本決定は,上告趣意は単なる法令違反の主張であり,刑訴法405条の上告理由に当たらないとしたが,職権で次のとおり判示し,原判決の前記法解釈を正した上で,上告を棄却した。
「上記25条4号にいう『第12条第3項(中略)の規定に違反して,産業廃棄物の処理を他人に委託した』とは,上記12条3項所定の者に自ら委託する場合以外の,当該処理を目的とするすべての委託行為を含むと解するのが相当であるから,その他人自らが処分を行うように委託する場合のみならず,更に他の者に処分を行うように再委託することを委託する場合も含み,再委託先についての指示いかんを問わないというべきである。」
 4 本件は,丸投げで無許可業者に処分を委託した場合であり,控訴審判決が故意を認定し,破棄・差戻しをした結論自体には誤りのないことは明らかであると思われる。しかし,控訴審判決の「再委託する処分先を指示して委託した場合にまで処罰するのは行き過ぎ」との解釈論については,次のような理由から採用し難いのではないかと思われる。
 すなわち,廃棄物処理法は,排出事業者に対し,自らの責任で適正に廃棄物を処理する責任を定め(法3条1項,11条1項),他人に処理を委託する場合には,許可を受けた処理業者等に処理を委託しなければならない旨規定し(法12条3項),その際,一定事項を記載した委託契約書を作成するなどの法所定の委託基準による義務(法12条4項,施行令6条の2)を課すとともに,産業廃棄物管理票(マニフェスト)を作成して受託者に交付し,産業廃棄物の最終処分終了まで確認させることとし(法12条の3),その履行担保のための関連罰則(管理票不交付の罪等。29条)も置き,排出事業者に対し適正処理の責任を最後まで持たせることとしている。これら法の仕組みからすると,排出事業者(なお,中間処理がされる場合は,「中間処理業者」を含む。法12条3項)は,収集運搬業者に対する収集運搬の委託契約とは別個に,「自ら」処分業者との間で委託契約を締結することが当然に予定されていると思われる。さらに,平成9年の法改正(平成9年法律第85号)により,無許可の処理業者が産業廃棄物の処理を受託することを禁止し(改正後14条9項,現14条13項),受託に止まり処理に至らなかった場合や自ら処理せずに他へ委託した場合でも,処罰の対象とされるようになった(改正後26条5号。現26条1項8号)。この受託禁止規定は,再委託を予定して処分を委託する排出事業者の行為に対応する,受託者側の行為の違法性を明らかにしたものといえる(増田啓祐「廃棄物の処理及び清掃に関する法律における受託禁止違反の罪等について」研修607号91頁)。
 このような法全体の趣旨,改正の経緯等に照らすと,決定要旨にあるとおり,「法12条3項に違反して,産業廃棄物の処理を他人に委託した」とは,同条所定の者に自ら委託する場合以外の,当該処理を目的とするすべての委託行為を含むと解するのが相当であり,排出事業者が処分業者との間で委託契約を締結せずに,原判決がいうように,委託の相手方に,「許可処分業者に処分を再委託するように指示する」ということは,そもそも法の予定していない行為であるといわざるを得ないように思われる。
 仮に,事業者が,控訴審判決がいうような「法が要求する適正な処理」,すなわち,収集運搬業者に対し,許可を受けた処分業者に処分を委託するように具体的な指示を与えたとしても,その収集運搬業者が許可を受けた処分業者に処分を委託する保障はなく,収集運搬業者としては,処分代金込みの委託料金から自らの利益を大きく得ようとして他に委託することなく自ら不法投棄等したり,低廉な料金の無資格処分業者に再委託したりするおそれもあり(現に,本件はそのような事案である。),法は,そのような事態が生じることも想定して,事業者(「中間処理業者」を含む。法12条3項参照)に対し,自ら許可を受けた処分業者に「直接」委託すべきことを求めたと思われる。したがって,具体的に処分先を指示したとしても,自らが直接許可処分業者に委託していない以上,そのような委託も違反行為に該当すると解するのが相当であろう。また,廃棄物処理法12条3項違反の罪は,委託行為(契約)の時点で成立する形式犯であるから,後に,仮に正規の業者に再委託され,かつ適正に処分がされたからといって,後発的に犯罪の成立が否定されるというのも不合理な解釈であると思われる。原判決の解釈を前提とすると,無許可業者により不法投棄等の不適正な処分がされた場合であっても,排出事業者は,再委託先として許可処分業者を指示していたから故意はない旨の弁解により、安易に罪を免れる余地を残すことになり,排出事業者に適正処理の責任を最後まで持たせようとした法の趣旨が損なわれることにもなろう。
 本決定は,このような考え方から,控訴審判決の法解釈を正し,前記のように判示したものと推察される。
 5 なお,本件に関連する裁判例として東京地判平1年11月2日・判タ718号211頁がある。上記裁判例は,無許可業者に対し産業廃棄物を委託したものとは認められないなどとして無罪を言い渡したものであるが,その中に,「本件証拠に現れた限りのものではあるが,道路工事等の業界の実情としては,委託の相手が収集・運搬について許可を有するにすぎない業者である場合でも,廃棄物の排出業者が直接処分先を確保することは少なく,処分先の確保については右収集・運搬業者に依存し一任していることが多いようである。この場合,処分について別に委託や指示をしていない以上,処分を含めて委託したと見るべきであるということになると,収集・運搬業者が,その後,資格を有する処分業者等に委託して適法な処分をした場合でも,収集・運搬業者に委託した時点で委託基準違反の罪が成立することになる。これは実害のない行為を処罰するものであって,妥当ではない。処分の不法について責任を問うのは,収集・運搬業者が無許可業者に対して処分の委託をするなど違法な行為に出た場合で足りる」旨の判示部分がある。この判示部分の趣旨は,「処分の委託」の事実認定の在り方に言及したものであって,必ずしも一定の解釈論を示したものではないと思われる。原判決の説示内容は,上記判示部分に類似するが,上記東京地裁判決の当時は,未だマニフェスト制度がなく,受託禁止規定も存在しなかった(受託行為が違法でないのに,それに対向する委託行為を処罰することには疑義があったともいえる。)のであるから,前提となる法の仕組み自体が大きく異なっており,その判示部分に示された価値判断は、法改正後は妥当するものではないと解される。
 6 廃棄物処理法25条4号にいう「他人に委託した」の意義について特に論じた文献はなく,公刊物に登載された裁判例としても,前記東京地裁判決があるにすぎない。本決定は,上記条項の意義について,一般的な法解釈を示したものであって,先例としての価値は大きいと思われる。


最高裁平成18年2月20日・刑集60巻2号182頁(野積み事件)
廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反被告事件(不法投棄罪)

【判示事項】 工場から排出された産業廃棄物を同工場敷地内に掘られた穴に投入して埋め立てることを前提に、その穴のわきに野積みした行為(判文参照)は,廃棄物の処理及び清掃に関する法律16条違反の罪に当たる。

【参照条文】 廃棄物の処理及び清掃に関する法律16条
       廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平15法93号改正前)25条
  
 1 本件は,アルミニウム再生精錬事業を行う被告会社の事業に関し,同会社のアルミニウム再生精錬工場の工場長である被告人Aが,同工場従業員らをして,アルミニウム再生精錬過程から排出される汚泥,金属くず,鉱さい,がれき類等の産業廃棄物を工場敷地内に掘られた素堀の穴に埋め立てることを前提に,その穴のわきに野積みにさせた行為が廃棄物処理法(以下「法」という。)16条違反の不法投棄の罪に問われた事案である。
 すなわち,本件工場では,昭和51年ころから,アルミニウム再生精錬過程から排出される産業廃棄物を工場敷地内に掘られた素堀の穴に投入し,穴が一杯になったら覆土・舗装するなどして埋め立てるということを繰り返してきたが,排出された廃棄物は,その都度本件穴に投入されるのではなく,いったん穴のわきに積み上げられ,ある程度の量がたまったところで,ショベルローダー等により穴の中に押し込んで投入するという手順がとられていた。もっとも,穴のわきに積み上げられた廃棄物については,これが四散したり含有されるフッ素等の物質が空中や土中に浸出したりしないように防止措置を講じたり,廃棄物の種類別に分別したりするといった管理の手は全く加えられず,山積みの状態のまま相当期間にわたり野ざらしにされていた。本件は,このような中で,被告人Aが,本件工場から排出された産業廃棄物合計約9724kgを平成13年8月10日ころから同年11月28日ころまでの間,前後7回にわたり,同工場従業員らをして本件穴のわきに運ばせ,同所に無造作に積み上げさせた各行為が起訴されたものである。
 被告会社及び被告人Aは,本件廃棄物を被告会社の保有する工場敷地内に仮に積み置いただけであり,その時点では,法16条にいう「捨てた」には当たらないし,また,自己所有地内における処分であるから,同条の「みだりに」という要件にも当たらない旨の主張をして,本罪の成立を争った。
 2 本決定は,本件の事実関係の下では,穴に埋め立てることを前提にそのわきに廃棄物を野積みした行為が仮置きなどとは認められず,「不要物としてその管理を放棄したものというほかはない」として,これを穴に投入し最終的には埋め立てることを予定していたとしても,法16条の「廃棄物を捨て」る行為に当たるとの判断を示した。また,廃棄物の野積み行為は,被告会社の保有する工場敷地内で行われていたとしても,それが生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図るという法の趣旨に照らし,社会的に許容されるものと見る余地はないとして,「みだりに」の要件も満たすとして,本罪の成立を認めた。
 3 法16条の「捨て(る)」の意義については,これまでにその解釈を示した最高裁判例は見当たらない。
所管省庁の担当者らによる解説書においては,従来「廃棄物を最終的に占有者の手から離して自然に還元することをいい,『処分する』ということと同旨である」という解釈が示されていた(厚生省生活衛生局水道環境部編『廃棄物処理法の解説』(平成8年刊行)378頁,多谷千香子『廃棄物・リサイクル・環境事犯をめぐる101問』90頁も同旨。ただし,最近刊行された廃棄物法制研究会編『廃棄物処理法の解説(平成15年増補版)』625頁以下)では,「捨て(る)」についての一般的な定義は示されていない。)。そして,これに依拠したと見られる下級審の裁判例として,福島地会津若松支判平16.2.2判時1860号157頁がある。
 本決定は,「捨て(る)」の意義について明示的な判示はしていないが,上述の従来の行政解釈における「最終的に」「自然に還元させる」という要素に言及することなく,専ら不要物としてその管理を放棄したと認められることをメルクマールに「捨て(る)」に当たるものと判示している点が注目される。
 もともと「捨てる」という語義は,「不要のものとして物を手もとから離すこと」(広辞苑)をいう。また,不法投棄罪とほぼ同様の規定ぶりで汚廃物をみだりに捨てる行為を処罰している軽犯罪法1条27号の汚廃物放棄の罪の解釈において,「棄て」(る)とは,端的に当該物の管理権を放棄することをいうと解されている(伊藤榮樹ほか編『注釈特別刑法(2)』125頁)。ここで管理権というのは事実上のもので足り,所有権等の正当な権原に基づくものである必要はないというベきであるから,その物の管理を放棄することに帰着し,上記の「捨てる」の国語的語釈を法的観点から言い換えたものといえよう。
 これに対し,前述の従来の行政解釈が「最終的に」「自然に還元させる」という要素をも付加するのは,廃棄物処理法上の廃棄物処理の最終段階である「処分」と不法投棄罪の「捨て(る)」を同義と解したことによるものと思われる。
しかし,不法投棄罪は,法が予定する廃棄物処理体系を潜脱する廃棄物投棄行為を禁圧して,上記処理体系を裏側から補完する役割を担っているとしても,本来は,清潔な生活環境の破壊行為の処罰という自然犯的性格を有している(古田佑紀「廃棄物処理法罰則の解釈と運用(上)」警論32巻1号59頁)ものであり,このことは旧清掃法11条(汚物の投棄禁止)の規定を受け継いだという沿革からも明らかといえよう。不法投棄罪が「処分」ではなく,軽犯罪法などと同様に,日常用いられている「捨て(る)」という用語で規定されている背景が以上のようなものであることに照らせば,最終処分(埋立てと海洋投棄)を,焼却,中和,滅菌,再生等の中間処理と区別するためのファクターとして意味を持つものである「最終的に」,「自然に還元させる」という要素が,必然的に「捨て」る行為を画する要素となることを意味するものではないであろう。むしろ,「最終的に」「自然に還元させる」という要素を求めると,日常的に不法投棄事案として捕捉されるべき行為の処理に困難を来すことが懸念されないではない。例えば,「最終的に」という要素との関係では,客観的には放置状態にあるのに,回収・再利用も予定されないではないため,未必的な投棄意思が問題となる場合に困難な問題が生じないであろうか。本件事案においても,最終的には穴に投入して埋め立てることが予定されていたことを考慮してか,第1審判決は,「捨て(る)」について最終性の要素を除外し「廃棄物を占有者の手から離して自然に還元することをいう」と定義していたところである。
また,「自然に還元させる」という要素との関係でも,例えば不要となった家財道具をアーケードのある商店街の歩道上に放置したり,業者が管理する廃棄物の保管場所に第三者が廃棄物を勝手に捨てる行為などをどう扱うのかという問題を生じるように思われる。
 本決定が「最終的に」「自然に還元させる」という要素に言及することなく,専ら不要物としてその管理を放棄したと認められることをメルクマールに「捨て(る)」に当たるものと判断した背景には,以上のような考慮が働いているように思われる。
 他方,「捨て」る行為の外延が「管理の放棄」で言い尽くされているかについては,これまで十分に意識した議論がされてきたものではないことから,これを重視したことを示しつつ,事例判断にとどめたように思われる。
例えば,ゴミ集積場のゴミをほしいままにまき散らす行為(藤永幸治ほか編『シリーズ捜査実務全書(10)環境・医事犯罪』29頁)は,社会通念上みだりに「捨て」る行為に当たるといってよいが,この場合に行為者がゴミの管理を放棄したとは観念し難く,他者の管理下にある廃棄物を管理されていない状態に置くことも,やはり「捨て」る行為に含むべきもののように思われる。
 4 次に,法16条の「みだりに」については,通常「正当な理由がない」とか「違法である」ことを表す要件とされるが,本決定は,生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図るという法の趣旨に照らし,社会的に許容されるかどうかという観点から判断する立場を明らかにしている。
 このような観点からは,捨てる場所についての行為者の利用権の有無は,廃棄物の性質,投棄の規模,態様などから周囲の環境を害さないといえるような場合(例えば,台所から出る生ゴミを土中に埋めるなど)に限り,正当化に意味を持つにとどまるものといえるのであり,本件の野積み行為は,廃棄物の性質,投棄の規模,態様のいずれの観点からも,もはやそのような問題のらち外にあるといえよう。
 自己所有地内の投棄行為についても不法投棄に当たる旨判示した公刊物登載の裁判例として,広島高判平1年7月11日・高検速報集平成元年8号231頁があったが,傍論にとどまっており,事案に即した判断を示したものとしては,本決定が初めてのようである。
 5 以上のとおり,本決定は,事例判断ではあるが,廃棄物不法投棄罪の「捨て(る)」「みだりに」の意義を探る上で興味深い判示を含み,実務上も参考になるものと思われる。
 6 なお,不法投棄罪については,最高裁平成18年2月28日刑集60巻2号269頁において,一般廃棄物収集運搬業の許可を受けた業者が,一般廃棄物たるし尿を含む汚泥と産業廃棄物たる汚泥を混合させた廃棄物を,一般廃棄物と装って市のし尿処理施設の受入口から投入する行為は,混合物全量について不法投棄罪に当たる旨の判断を示している。


最高裁平成18年2月28日・刑集60巻2号269頁(不法投棄罪)
廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反被告事件 (不法投棄罪)

【判決要旨】  一般廃棄物収集運搬業の許可を受けた業者が,一般廃棄物たるし尿を含む汚泥と産業廃棄物たる汚泥を混合させた廃棄物を,一般廃棄物と装って市のし尿処理施設の受入口から投入する行為は,その混合物全量について,廃棄物の処理及び清掃に関する法律16条違反の罪に当たる。

【参照条文】 廃棄物の処理及び清掃に関する法律16条 、
       廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平15法93号改正前)25条

 1 本件は,廃棄物の収集運搬業を営む甲会社の従業員である被告人らが共謀の上,同会社の業務に関し,福岡市庁舎の汚水槽から収集する「一般廃棄物であるし尿を含む汚泥」と雑排水槽から収集する「産業廃棄物である汚泥」を,手間を省くためそれぞれ専用のバキュームカーで分別して収集することなく混合して収集し,その混合物を,一般廃棄物たるし尿等以外の搬入が許されていない福岡市中部中継所(本件し尿処理施設)に搬入し,もって廃棄物をみだりに捨てた,という不法投棄の事案である。甲会社は,本決定にもあるとおり,し尿を含む汚泥等の一般廃棄物収集運搬業の許可,汚泥(有機性)等の産業廃棄物収集運搬業の許可を受けた業者であり,福岡市から入札により上記各汚泥の収集運搬を受注したものである。
 なお,公訴事実の要旨は,「福岡市庁舎等から排出される一般廃棄物であるし尿を含む汚泥と産業廃棄物である汚泥の混合物合計34t余りを,2回にわたり産業廃棄物を投棄できない福岡市中部中継所(し尿処理施設)に搬入し,もって廃棄物をみだりに捨てた」というものである。
 2 第1審および控訴審で,弁護人は,①「不法投棄の対象となる廃棄物の性状は,投棄の時点を基準として判定すベきである。行政庁の解釈(「廃棄物の処理及び清掃に関する法律の適用に伴う留意事項について」(昭46.10.25環整45号))によれば,ビルの排水槽から出るビルピット汚泥のうちし尿を含む汚泥は一般廃棄物とされている。混合収集により混合した汚泥は,ビルの汚水槽から出るし尿を含む汚泥と,ビルの雑排水槽から出る有機性の汚泥の混合物であり,投棄の時点を基準とすると,当該混合物の客観的性状は,「し尿を含む汚泥」に転化しているから,一般廃棄物として本件し尿処理施設への搬入が許される。」と主張し,また,②「このような混合物たる汚泥をし尿処理施設の受入口から投入する行為は,中間処理に供したにすぎず,最終処分とはいえないから,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)16条にいう『みだりに捨てる』ことにならない」などと主張し,不法投棄罪の成立を争った。
 3 第1審判決は,本件の「みだりに捨てる行為」とは,「一般廃棄物であるし尿を含む汚泥と産業廃棄物である汚泥をあえて混同して収集し,その混合物を捨てた」行為であるとし,不法投棄の実行行為を混合収集行為も含めて構成した上(したがって,第1審判決の認定した犯罪事実中には,上記公訴事実のほか,混合収集行為も付加されている。),弁護人の上記各主張を退けて被告人を有罪とした。これに対し,被告人が控訴した。控訴審判決は,第1審判決の実行行為についての解釈に誤りがあるが,その誤りは判決に影響を及ぼさないとした上(前記公訴事実どおりに犯罪事実を認定すべきであったとする。),弁護人の上記各主張をいずれも退け,控訴を棄却した。
 4 これに対し,被告人らが上告し,弁護人は,上告趣意において,上記と同旨の主張をしたが,本決定は,弁護人の上告趣意は刑訴法405条の上告理由に当たらないとした上,本件の事実関係を認定し,「以上の事実関係によれば,甲の従業員は,一般廃棄物以外の廃棄物の搬入が許されていない本件施設へ一般廃棄物たるし尿を含む汚泥を搬入するように装い,一般廃棄物たる汚泥と産業廃棄物たる汚泥を混合させた廃棄物を上記受入口から投入したものであるから,その混合物全量について,法16条にいう「みだりに廃棄物を捨て」る行為を行ったものと認められ,不法投棄罪が成立するというべきである。」と職権で判断を示し,上告を棄却した。
 5 弁護人の前記①の主張は,不法投棄罪の対象となる「廃棄物」性の判断の基準時を投棄の時点に置いた大阪高判平成15年12月22日・判タ1160号94頁を援用するものである。本件の第1審判決は,この上記裁判例を意識し,その判断基準時によったのでは,本件の混合物全体が一般廃棄物たる汚泥に転化する余地があると考えたのか,不法投棄の実行行為の概念を拡張し,混合収集も含めて実行行為を構成し,投棄する目的で混合収集を開始するその時点を廃棄物の種別の判断基準時とすべきであるとの解釈により,弁護人の①の主張を退け,不法投棄罪の成立を肯定したものである。しかし,このような見解は,不法投棄の概念を収集段階にまで拡張するもので採り難いように思われる。弁護人が引用する上記裁判例は,中間処理の結果,再生利用の余地が生じた建設汚泥について判示したもので,いずれにしても,事案を異にしており,本件では,し尿処理施設に投入した時点で,端的に一般廃棄物と産業廃棄物が混合した廃棄物と認めて,その投棄の当否を論じれば足りるようにも思われる。控訴審の福岡高裁もそのような趣旨の判示をして第1審判決の解釈を正し,本決定もその判断を是認したものといえよう。
 6 弁護人の前記②の主張は,本件のし尿処理施設が,し尿を粉砕し夾雑物を取り除いた上,これを最終処分場となる下水処理施設に送る中間処理施設であるから,そこに搬入しても最終処分したことにはならず,不法投棄罪は成立しないという趣旨のものである。この主張は,①「廃棄物処理法16条の『捨てる』とは廃棄物を最終的に占有者の手から離して自然に還元することをいい,『処分する』ということと同旨であると解される。」旨の見解(厚生省生活衛生局水道環境部編『廃棄物処理法の解説』(平成8年)A・377頁),②「廃棄物処理法16条の『捨てる』とは,日常用語と同義と解して差し支えなく,地上に投棄する行為のみならず,海中に投棄する行為,地中に埋める行為など,最終処分する行為のことで,廃棄物を最終的に占有者の手から離して自然に還元することをいう。広義の処分には,埋立処分,海洋投棄処分などの最終処分のほか,焼却・中和・滅菌などの中間処理も含まれるが,ここにいう『捨てる』には中間処理は含まれない。」との見解(多谷千香子『廃棄物・リサイクル・環境事犯をめぐる101問』(立花書房,平成17年)90頁)等を踏まえたものと思われる。
 しかし,廃棄物処理法の改正の経緯や,類似の投棄処罰規定を有する軽犯罪法1条27号等の解釈(伊藤栄樹『注釈特別刑法(2)(準刑法)』(立花書房,昭57)125頁)等からすると,「捨てる」とは,端的に「管理権を放棄する」あるいは「管理されない状態におく」と解する立場もある(最高裁決定平成18年2月20日・刑集60巻2号182頁参照)。
本決定は,「捨てる」の概念について一般的な解釈を示しているわけではないが,同様の解釈を前提としたとも考えられる。本件においては,甲会社は,本件し尿処理施設に搬入する権限が与えられているとはいえ,し尿等の一般廃棄物以外には搬入の許されていない本件し尿処理施設に,分離不能な状態の産業廃棄物と一般廃棄物の混合物を投入し,その管理権をみだりに放棄したものであることから,その混合物全量につき不法投棄罪が成立するということができよう。その実質は,いわば無断で他人の敷地内に廃棄物を放棄してきたのと異ならないともいえる(なお,古田佑紀「廃棄物処理法罰則の解釈と運用(上)」警論32巻1号73頁は,夜陰に乗じ最終処分場に同種の廃棄物を持ち込み投棄した場合も不法投棄罪に該当するとする。)。本決定は,上記のような考え方から,本件において不法投棄罪の成立を肯定したものと推察される。
 なお,本件のような態様で一般廃棄物に産業廃棄物を混合し,これをし尿処理施設(中間処理施設)に搬入した場合において,廃棄物処理法上,これを処理基準違反として直接処罰する規定は設けられていない。
本件では,甲会社は,産業廃棄物たる汚泥の収集運搬業の許可も得ていることから,産業廃棄物の無許可収集運搬業により処罰することもできない。また,一般廃棄物については,マニフェスト制度が設けられていないため,その関連罰則による処罰もできない。そうすると,本件し尿処理施設への搬入行為については,現行法下では,結局,問擬できる罰則は不法投棄罪しかないということにも留意すべきであろう。
 7 本件は,外形上,法に適合するような形態を装って正規の処理場に搬入しており,典型的な野外等での不法投棄とは類型が異なる。「みだりに捨てる」の概念,廃棄物処理法上のし尿処理施設の位置付け,一般廃棄物処理及び産業廃棄物の処理の体系及びその関連罰則との関係等も視野に入れて判断すべき法的問題を含んでいる。近時,不法投棄が跡を絶たず,その方法も巧妙化してきていることなどを考えると,本決定が,本件のような収集運搬業者による混入事犯について不法投棄罪の構成要件該当性を示したことは,類似の類型の事犯の処理にも参考となり,先例的価値がある。