最高裁平成18年2月28日・刑集60巻2号269頁(不法投棄罪) - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
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東京都
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最高裁平成18年2月28日・刑集60巻2号269頁(不法投棄罪)

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相続

最高裁平成18年2月28日・刑集60巻2号269頁(不法投棄罪)

廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反被告事件 (不法投棄罪)

【判決要旨】  一般廃棄物収集運搬業の許可を受けた業者が,一般廃棄物たるし尿を含む汚泥と産業廃棄物たる汚泥を混合させた廃棄物を,一般廃棄物と装って市のし尿処理施設の受入口から投入する行為は,その混合物全量について,廃棄物の処理及び清掃に関する法律16条違反の罪に当たる。

【参照条文】 廃棄物の処理及び清掃に関する法律16条 

       廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平15法93号改正前)25条

 1 本件は,廃棄物の収集運搬業を営む甲会社の従業員である被告人らが共謀の上,同会社の業務に関し,福岡市庁舎の汚水槽から収集する「一般廃棄物であるし尿を含む汚泥」と雑排水槽から収集する「産業廃棄物である汚泥」を,手間を省くためそれぞれ専用のバキュームカーで分別して収集することなく混合して収集し,その混合物を,一般廃棄物たるし尿等以外の搬入が許されていない福岡市中部中継所(本件し尿処理施設)に搬入し,もって廃棄物をみだりに捨てた,という不法投棄の事案である。甲会社は,本決定にもあるとおり,し尿を含む汚泥等の一般廃棄物収集運搬業の許可,汚泥(有機性)等の産業廃棄物収集運搬業の許可を受けた業者であり,福岡市から入札により上記各汚泥の収集運搬を受注したものである。

 なお,公訴事実の要旨は,「福岡市庁舎等から排出される一般廃棄物であるし尿を含む汚泥と産業廃棄物である汚泥の混合物合計34t余りを,2回にわたり産業廃棄物を投棄できない福岡市中部中継所(し尿処理施設)に搬入し,もって廃棄物をみだりに捨てた」というものである。

 2 第1審および控訴審で,弁護人は,①「不法投棄の対象となる廃棄物の性状は,投棄の時点を基準として判定すベきである。行政庁の解釈(「廃棄物の処理及び清掃に関する法律の適用に伴う留意事項について」(昭46.10.25環整45号))によれば,ビルの排水槽から出るビルピット汚泥のうちし尿を含む汚泥は一般廃棄物とされている。混合収集により混合した汚泥は,ビルの汚水槽から出るし尿を含む汚泥と,ビルの雑排水槽から出る有機性の汚泥の混合物であり,投棄の時点を基準とすると,当該混合物の客観的性状は,「し尿を含む汚泥」に転化しているから,一般廃棄物として本件し尿処理施設への搬入が許される。」と主張し,また,②「このような混合物たる汚泥をし尿処理施設の受入口から投入する行為は,中間処理に供したにすぎず,最終処分とはいえないから,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)16条にいう『みだりに捨てる』ことにならない」などと主張し,不法投棄罪の成立を争った。

 3 第1審判決は,本件の「みだりに捨てる行為」とは,「一般廃棄物であるし尿を含む汚泥と産業廃棄物である汚泥をあえて混同して収集し,その混合物を捨てた」行為であるとし,不法投棄の実行行為を混合収集行為も含めて構成した上(したがって,第1審判決の認定した犯罪事実中には,上記公訴事実のほか,混合収集行為も付加されている。),弁護人の上記各主張を退けて被告人を有罪とした。これに対し,被告人が控訴した。控訴審判決は,第1審判決の実行行為についての解釈に誤りがあるが,その誤りは判決に影響を及ぼさないとした上(前記公訴事実どおりに犯罪事実を認定すべきであったとする。),弁護人の上記各主張をいずれも退け,控訴を棄却した。

 4 これに対し,被告人らが上告し,弁護人は,上告趣意において,上記と同旨の主張をしたが,本決定は,弁護人の上告趣意は刑訴法405条の上告理由に当たらないとした上,本件の事実関係を認定し,「以上の事実関係によれば,甲の従業員は,一般廃棄物以外の廃棄物の搬入が許されていない本件施設へ一般廃棄物たるし尿を含む汚泥を搬入するように装い,一般廃棄物たる汚泥と産業廃棄物たる汚泥を混合させた廃棄物を上記受入口から投入したものであるから,その混合物全量について,法16条にいう「みだりに廃棄物を捨て」る行為を行ったものと認められ,不法投棄罪が成立するというべきである。」と職権で判断を示し,上告を棄却した。

 5 弁護人の前記①の主張は,不法投棄罪の対象となる「廃棄物」性の判断の基準時を投棄の時点に置いた大阪高判平成15年12月22日・判タ1160号94頁を援用するものである。本件の第1審判決は,この上記裁判例を意識し,その判断基準時によったのでは,本件の混合物全体が一般廃棄物たる汚泥に転化する余地があると考えたのか,不法投棄の実行行為の概念を拡張し,混合収集も含めて実行行為を構成し,投棄する目的で混合収集を開始するその時点を廃棄物の種別の判断基準時とすべきであるとの解釈により,弁護人の①の主張を退け,不法投棄罪の成立を肯定したものである。しかし,このような見解は,不法投棄の概念を収集段階にまで拡張するもので採り難いように思われる。弁護人が引用する上記裁判例は,中間処理の結果,再生利用の余地が生じた建設汚泥について判示したもので,いずれにしても,事案を異にしており,本件では,し尿処理施設に投入した時点で,端的に一般廃棄物と産業廃棄物が混合した廃棄物と認めて,その投棄の当否を論じれば足りるようにも思われる。控訴審の福岡高裁もそのような趣旨の判示をして第1審判決の解釈を正し,本決定もその判断を是認したものといえよう。

 6 弁護人の前記②の主張は,本件のし尿処理施設が,し尿を粉砕し夾雑物を取り除いた上,これを最終処分場となる下水処理施設に送る中間処理施設であるから,そこに搬入しても最終処分したことにはならず,不法投棄罪は成立しないという趣旨のものである。この主張は,①「廃棄物処理法16条の『捨てる』とは廃棄物を最終的に占有者の手から離して自然に還元することをいい,『処分する』ということと同旨であると解される。」旨の見解(厚生省生活衛生局水道環境部編『廃棄物処理法の解説』(平成8年)A・377頁),②「廃棄物処理法16条の『捨てる』とは,日常用語と同義と解して差し支えなく,地上に投棄する行為のみならず,海中に投棄する行為,地中に埋める行為など,最終処分する行為のことで,廃棄物を最終的に占有者の手から離して自然に還元することをいう。広義の処分には,埋立処分,海洋投棄処分などの最終処分のほか,焼却・中和・滅菌などの中間処理も含まれるが,ここにいう『捨てる』には中間処理は含まれない。」との見解(多谷千香子『廃棄物・リサイクル・環境事犯をめぐる101問』(立花書房,平成17年)90頁)等を踏まえたものと思われる。

 しかし,廃棄物処理法の改正の経緯や,類似の投棄処罰規定を有する軽犯罪法1条27号等の解釈(伊藤栄樹『注釈特別刑法(2)(準刑法)』(立花書房,昭57)125頁)等からすると,「捨てる」とは,端的に「管理権を放棄する」あるいは「管理されない状態におく」と解する立場もある(最高裁決定平成18年2月20日・刑集60巻2号182頁参照)。

本決定は,「捨てる」の概念について一般的な解釈を示しているわけではないが,同様の解釈を前提としたとも考えられる。本件においては,甲会社は,本件し尿処理施設に搬入する権限が与えられているとはいえ,し尿等の一般廃棄物以外には搬入の許されていない本件し尿処理施設に,分離不能な状態の産業廃棄物と一般廃棄物の混合物を投入し,その管理権をみだりに放棄したものであることから,その混合物全量につき不法投棄罪が成立するということができよう。その実質は,いわば無断で他人の敷地内に廃棄物を放棄してきたのと異ならないともいえる(なお,古田佑紀「廃棄物処理法罰則の解釈と運用(上)」警論32巻1号73頁は,夜陰に乗じ最終処分場に同種の廃棄物を持ち込み投棄した場合も不法投棄罪に該当するとする。)。本決定は,上記のような考え方から,本件において不法投棄罪の成立を肯定したものと推察される。

 なお,本件のような態様で一般廃棄物に産業廃棄物を混合し,これをし尿処理施設(中間処理施設)に搬入した場合において,廃棄物処理法上,これを処理基準違反として直接処罰する規定は設けられていない。

本件では,甲会社は,産業廃棄物たる汚泥の収集運搬業の許可も得ていることから,産業廃棄物の無許可収集運搬業により処罰することもできない。また,一般廃棄物については,マニフェスト制度が設けられていないため,その関連罰則による処罰もできない。そうすると,本件し尿処理施設への搬入行為については,現行法下では,結局,問擬できる罰則は不法投棄罪しかないということにも留意すべきであろう。

 7 本件は,外形上,法に適合するような形態を装って正規の処理場に搬入しており,典型的な野外等での不法投棄とは類型が異なる。「みだりに捨てる」の概念,廃棄物処理法上のし尿処理施設の位置付け,一般廃棄物処理及び産業廃棄物の処理の体系及びその関連罰則との関係等も視野に入れて判断すべき法的問題を含んでいる。近時,不法投棄が跡を絶たず,その方法も巧妙化してきていることなどを考えると,本決定が,本件のような収集運搬業者による混入事犯について不法投棄罪の構成要件該当性を示したことは,類似の類型の事犯の処理にも参考となり,先例的価値がある。