- 葛西 伸一
- 株式会社メンター・クラフト 代表取締役
- 東京都
- 経営コンサルタント
対象:人材育成
将棋と同じ理論で、次の一手を考える
ビジネスで成功するためには、複数の選択肢を考え、もっとも成功確率の高い選択肢を選び
実行することが必要不可欠だ。
これは、将棋やマージャンなどのゲームとよく似ている。
将棋であれば、次の一手は何通りもの選択肢があるが、まずはそれを考え、
それに対応する相手の出方を予想する。
その中から経験と相手の特性を考慮し成功確率の高い選択をしていく。
マージャンは、捨牌を見ながらこれからツモる可能性の高いであろう牌を予想し、
また自分の手牌の中から最もフリコム可能性が低い牌を選択していく。
このように、選択肢を考え成功確率を高める。しかし、言うのは簡単だが実行するは容易ではない。
なぜなら、たとえ成功確率が高い選択肢を見つけ実行しようとしても、社内外に様々な障壁が
存在するからだ。
つまり、選択肢を実行に移し成功させるためには、あらゆる障壁を乗り越えなければならない。
その障壁を乗り越えるスキルとして必要なのが、5つの交渉力である。
その5つの交渉力を身につけることで、選択肢の実行が可能になるのだ。
・自分との交渉力
・上司との交渉力
・部下との交渉力
・他部門との交渉力
・取引先との交渉力
ケーススタディから学ぶ
仕事は、上記の5つの交渉ですべて成り立っていると言えるのだ。
仮にあなたがあるコンピュータを販売する商社の営業課長だとしよう。
あなたの部下はA製品の大口商談を抱えている。
しかし、そのA製品は、他社のX製品と真っ向からぶつかる、いわば競合商品だ。
このA製品はX製品のおかげで、いつも価格競争の泥試合になる。
得意先からは、X製品はお宅のA製品よりも10%安い。
この情報を仕入れた部下が相談してくる。
「課長、競合のX製品は当社よりも10%も安い価格を出してきています。
当社も10%の価格を下げるしかありません。」
あなたが課長なら、このあとどのようなアクションを取っていくだろうか?
まず大事なのは、選択肢を考えることだ。
価格を下げる。価格を下げない。本当に価格だけが得意先の決定条件なのか。
価格と一概に言ってもそれは、製品自体の価格なのか?それとも配送コストや
保守サービス費用を含めた価格なのか?
それとも購入してからのランニングコストを含めた価格なのか?
まずは正しく正確な情報を部下に収集させることが、あなたの最初のアクションだ。
しかし、部下から見れば自分が得意先と会話している以上自信を持っている。
そこであなたは部下との交渉が始まるのだ。
部下がハッピーになるために部下を動かす。部下自身が正確な情報を収集することで、
商談に勝つ確率が高くなることを理解させ動かす。
部下が正確な情報をつかんできたとする。
どうやら顧客は、製品本体だけの価格だけではなく、購入してから3年間の償却を計算しており、
3年間のトータルコストがX製品の方が10%安いというのだ。
そして、製品自体は、ほぼ同等の価格だが、保守価格が30%も安い。
次に、製品を下げるか、保守を下げるか自社としてトータル利益が大きい方が優先される。
そこで、あなたは保守サービス費用の価格を35%下げることにする。
そのためには、第一に、保守費用を35%下げたら顧客がA製品を選択してくという
約束を取り付けておかねばならない。
そのためには、まずはA製品のメーカーに事情を伝え、35%ダウンの見込みを確認する。
手ごたえを感じたら、顧客と約束を取り付ける。
その時点で、顧客に対いては「保守サービス費用の35%を下げるのは当社として、
過去に事例のない話です。」という難易度を提示しておく。
先方は、「35%も本当に下げられるのですか?」とくる。
こうなればこっちのペースだ。
「はい。非常に難しいと思いますが、私が上司を説得します!」
と回答する。当然顧客は熱意を買ってくれる。
次は上司の部長に対して保守サービス費用を35%下げる交渉をしなければならないが、
上司のツボは「当社の利益が下がらなければ価格を下げてもよい」と言うだろう。
したがって、そのためには「売値も仕入れ値も同時に下げること」もしくは「今回は下げたが、それによって、
今後にわたった顧客が当社から買ってくれそうであり、それを考えれば会社にとってトータル利益は
向上する」という点を抑えておかねばならない。
その準備だけしておけば、上司との交渉は楽勝だ。上司は首を縦に振らざるを得ない。
そして、最後は、実際に保守サービスを管理している自社の他部門との交渉だ。
仮に価格を下げれば管理部門から「また営業は、簡単に値下げをして」とやっかまられる可能性がある。
そんな誤解を受けては社内稟議を通すときだけでなく、今後の仕事にも支障がでる。
そこで、その管理部門のキーパーソンに対しては、あらかじめ事情を対面口頭で報告しておく。
いわゆる「根回し」だ。これで、完璧な体制が整った。
このように、たとえば商社の営業の場合でいえば、取引先(得意先、仕入先)、部下、上司、他部門、
そしてこれらを実行するよう自分自身と交渉し成立させることで、ほとんどすべての仕事が成功に向かうのだ。
大辞林によると、交渉とは。
(1)ある事を実現するために、当事者と話し合うこと。かけあうこと。
「―が決裂する」「労使が―する」
(2)人と人との結びつき。かかわりあい。関係。
「―をもつ」「―を絶つ」
とある。そう、交渉とはまさにビジネスのコミュニケーションにおけるコアツールなのだ。