田尻 健二
タジリ ケンジ利己主義の徹底は、むしろ良好な人間関係につながる?
-
利己主義を徹底すると、周囲の人の都合を考えざるを得なくなる:
これまで何回かに分けて利他主義について検討した結果、私たちは純粋に利他的には行動できないだけでなく、徹底的に利己的に行動したとしても「自分勝手」「自分のことしか考えない」などと批判さ れるような状態にはならず、むしろ(自分の利益のために)周囲の人のことも考え、かつできるだけ良好な、あるいは苦痛の少ない人間関係を築こうと試みるは ずとの結論に至りました。
なお後半の、徹底的に利己的に振舞うことがなぜ自分勝手ではなく、周囲の人の都合も考えるようになることに繋がるのかについて、自己心理学の理論を使って説明させていただきます。
他人から肯定されることを望むのは、人間の基本的な欲求の一つ:
以前に自己愛講座1で「他人から肯定されることによる自尊心の維持をめぐってパーソナリティが構成されている人」を自己愛的な人と定義しましたが、これは自 己愛的な人が、このことへの関心があまりに強すぎることを指摘したものであり、自己愛的ではない人がこのような関心を持たないという意味ではありません。
むしろ次のような理由から、ほとんどすべての人が多かれ少なかれ、他人からの肯定的な反応や評価を欲していると考えられます。
自己心理学では、人間は自尊心を支えるために3つの基本的な欲求を持っており、その一つが「自分の考えや気持ちを肯定して(認めて)欲しい」「褒めて欲し い」「存在価値を認めて欲しい」というような、一般的には「承認欲求」、自己心理学では「鏡自己対象欲求」と呼ばれる欲求と考えています。
そして人間は、自尊心をある程度保てないことには精神的に辛くて生きていけない、というのが自己心理学の考えです。
他人から肯定されることで、生きていくために必要不可欠な自尊心という利益がもたらされる:
この自己心理学の考え方からすれば、自分勝手に振る舞い、周囲の人から非難されたり孤立したりしてしまっては、生きていくために必要不可欠とさえいえる「他人からの肯定的な反応」が得られなくなり、これは自分の利益に反する事態のはずです。
ですから自分ができるだけ快適な人生を送ろうと望めば望むほど、他人からの肯定的な反応を引き出すために、相手の方のことも考えざるを得なくなることになります。
これが自己心理学の理論を用いて検証した「自分の幸せを最大限に望めば、それを叶えるために他人の都合も同時に考慮しなければならなくなる」理由です。
以上の理由から、利己主義は世間で思われているような自分勝手なものとは限らず、むしろ相手の方の都合も考え、良好な人間関係を築ける可能性さえあると考えられ、これが健全なナルシシズム(自己愛)の一つの形ではないかと思います。
なお私はいくら利己主義が実は健全なものだとしても、自分が利己的に考え振舞っていることをしっかりと自覚することが大切だと思っています。
次回はその理由について書かせていただく予定です。
「心の病」のコラム
現代型うつのメカニズム(私説)-自己愛講座6(2013/12/06 21:12)
気持ちの上では、自分と他人の区別が非常に曖昧な日本人の心性~自己愛講座5(2013/06/23 22:06)
不正や悲惨な出来事などへの怒りは、自らの理想を傷つけられたことへの心の防衛反応(2013/04/04 22:04)
「怒り」は自尊心が傷つけられたことによる「悲しみ」の辛さから自分を守る自然な反応です(2013/04/02 20:04)
利己主義から逃れられないとしても、それを自覚することで謙虚になれます(2013/03/29 00:03)
このコラムに関連するサービス
- 料金
- 4,000円
カウンセリングの実務経験5年以上の産業カウンセラーによる、新宿近辺の比較的空いているカフェを利用した低料金のカウンセリングです。