中国職務発明条例案のポイント - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国職務発明条例案のポイント

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中国職務発明条例案のポイント

河野特許事務所 2012年12月20日 執筆者:弁理士 河野 英仁

 

 中国国家知識産権局は職務発明に関する各種取り扱いを規定する職務発明条例案を公表した。現行専利法及び実施細則には既に職務発明に関する規定が存在するが(専利法第6条[1]等)、企業側と発明者側とのバランスが十分でないという問題があった。

 

 そこで、発明者の権益保護に係る手続き及び実体内容を完全なものとし、職務発明の誕生と応用を奨励すべく職務発明条例案が制定された。現在職務発明条例案に対する意見募集が行われており、2012年12月3日まで国家知識産権局条法司に意見を提出することができる。

 

 

1.本条例案の対象

 本条例案の対象となる発明は、特許権、植物新品種権、集成回路配布図設計専有権または技術秘密に係るものである(条例案第4条)。また職務発明の対象として発明特許の他、実用新型特許及び外観設計特許も含まれる。

 

 

2.発明報告制度の導入

(1)概要

 今回の条例案では、企業に発明報告制度を導入するよう義務づけている(条例案第6条第2項)。

 

条例案第6条第2項

研究開発に従事する機関または組織は、発明報告制度を確立し、または発明者と約定して発明完成後の機関または組織と発明者間との権利、義務及び責任を明確にし、発明に係る権益帰属を適時に確定しなければならない。

 

(2)報告時期

 組織が別途規定し、又は発明者と別途約定する場合を除き、発明者は、組織の業務に関わる発明を完成した場合、発明完成の日より2ヶ月以内に当該発明を組織に報告しなければならない(条例案第10条)。

 

(3)報告内容

 報告書には、以下の事項を列記しなければならない(条例案第11条)。

(i)発明者の氏名

(ii)発明の名称と内容

(iii)発明が職務発明それとも非職務発明であるか、及びその理由

(iv)発明者が説明する必要があると認めるその他の事項

 

(4)非職務発明であるとの報告の場合

 発明者がその報告した発明につき非職務発明であると主張する場合、機関又は組織は、発明報告書を受領した日より2ヶ月以内に書面による回答を発行しなければならない(条例案第12条)。

 ここで、機関又は組織が期限内に回答しなかった場合、当該発明は非職務発明であると認めたものとみなされるため、注意が必要である。

 

(5)機関または組織が反論した場合

 機関または組織が職務発明であると主張する反論を行い、かつ、発明者が反対意見を2ヵ月以内に提出した場合、双方は、条例案第42条に基づく紛争解決手段をとることができる(条例案第13条)。すなわち、県級の人民政府知的財産権主管部門に調停を要請するか、裁判所に対し起訴するか、または仲裁を申し立てることができる。

 

 なお、発明者が期間内に反対意見を提出しなかった場合、当該発明は職務発明とみなされる。

 

(6)出願手続期限

 発明者が職務発明を報告した場合、機関又は組織は、報告日より6ヶ月以内に、国内で知的財産権を出願し、技術秘密として保護し、または、開示するか否かを決め、かつかかる決定を書面にて発明者に通知しなければならない(条例第14条)。

 

 6月以内に発明者の通知を行わなかった場合、発明者は、書面で組織に対し回答を催告することができる。発明者の書面による催告から1ヶ月以内に組織より依然として回答がない場合、組織が当該発明を技術秘密として保護しているものとみなし、発明者は、本条例第25条(技術秘密に基づく補償金の支払い)の規定に基づき、補償を取得する権利を有する。

 

 なお、後に組織が国内で当該発明に係る知的財産権を出願し、かつ登録された場合、発明者は、本条例に規定の奨励と報酬を取得する権利を有する。

 

(7)出願の取りやめまたは権利の放棄

 機関または組織は、職務発明に係る知的財産権の出願手続きを停止し、または職務発明に係る知的財産権を放棄する予定の場合、1ヶ月前までに発明者に通知しなければならない(条例案第16条)。

 

 ここで、発明者は、機関又は組織との間で当該職務発明に係る知的財産権を無償にて取得することについて、協議することができる。機関又は組織は、権利移転の手続きに積極的に協力しなければならない。協議が不調に終わった場合、本条例第42条の規定に基づく紛争解決手段をとることができる。

 

 発明者が関連権利を無償にて取得した場合、機関または組織は、当該職務発明またはその他の知的財産権に係る権利を無料で実施する権利を有する。

 

(8)注意点

 条例案に規定された発明報告制度は企業と発明者側との間で契約があれば、契約が優先される。従って、本条例案に沿った形で事前に発明報告制度に関する取り決めを行っておいた方が良い。参考図1は発明報告制度の流れを示すフローチャートである。

 

3.職務発明に対する報酬

 実施細則第76条には、特許権を付与された機関または組織は、発明者または創作者と、専利法第16条に規定の奨励と対価の支払い方式および金額を約束し、または上記機関又は組織が適法に作った規定・制度において規定することができる旨規定されている。反対に、機関または組織と、発明者との間で報酬に関する規定が存在しない場合、実施細則及び条例案に定める報酬額が適用されるので、注意が必要である。

 

(1)発明者への意見徴収及び通知の義務づけ

 機関または組織は、職務発明者に与える奨励金と報酬に係る手続き、方式及び金額を確定する場合、職務発明者より意見を聴取しなければならない(条例案第20条)。また、組織は、職務発明により得られた経済効果を自ら実施し、譲渡し、または他人に実施許諾する場合、その経済効果に係る状況を発明者に通知しなくてはならない。

 

 このように、新たな条例案では、職務発明の報酬規定策定に関し発明者の意見を徴収しなければならない旨、規定された。また、職務発明を自社にて実施、他社に実施許諾等を行った場合、これらに伴う経済効果状況を発明者に通知しなければならない。

 

(2)職務発明報酬額の算定基準

 機関または組織は、報酬金額を算定する場合、各職務発明により製品又は技術による経済効果の全体に対する貢献、並びに各職務発明者によるそれぞれの職務発明に対する貢献程度などの要素を考慮しなければならない(条例案第23条)。

 

(3)約定がない場合の取り扱い

 約定がない場合、以下の取り扱いとなる。

 

(i)発明奨励金

 発明特許の報奨金は3000 元以上、一つの実用新案特許又は意匠特許の奨金は1000 元以上でなければならない(実施細則第77条)。

 また、発明特許権を取得した職務発明について、全発明者に与える奨励金の総額は、最低でも当該組織の在職従業員月間平均給与の2倍を下回ってはならず、その他の知的財産権を取得した職務発明について、全発明者に与える奨励金の総額は、最低でも当該組織の在職従業員月平均給与の2倍を下回ってはならない(条例案第21条)。

 

(ii)自社実施時の発明者報酬

 特許権の存続期間内に、発明創造の特許を実施した後、毎年当該発明または実用新案の実施により得られた利益の2%以上、当該意匠の実施により得られた利益の0.2%以上を、対価として発明者又は考案者に与えなければならない。

 

 さらに条例案では以下の案が提案されている。

全発明者に対し、下記の各号に掲げる方式の一つにより、報酬を支払わなくてはならない(条例案第22条)。

(a)知的財産権の有効期間中は、毎年発明特許権又は植物新品種権の実施に係る営業利益のうち5%を下回らずに控除するものを、その他の知的財産権の実施に係る営業利益のうち3%を下回らずに控除したものを、報酬として支払う。

(b)知的財産権の有効期間中は、毎年発明特許権又は植物新品種権の実施に係る販売収入のうち0.5%を下回らずに控除するものとし、その他の知的財産権の実施に係る販売収入のうち0.3%を下回らずに控除したものを、報酬として支払う。

(c)知的財産権の有効期間中に、上記の2項により計算した金額を参照して、発明者の個人給与の合理的倍数に応じて、毎年支払うべき報酬金額を確定する。

(d)上記の2項により計算した金額の合理的倍数を参照の上、発明者に一括して支払うべき報酬の金額を確定する。

 なお、上記の報酬累計が当該知的財産権の実施による営業利益累計額の50%を上回ってはならない。

 

(iii)譲渡時または他社実施許諾時の報酬

 特許権が付与された機関または組織が他の機関等にその特許の実施を許諾した場合、受領した実施料の10%以上を対価として発明者又は創作者に与えなければならない(実施細則第78条)。

 条例案ではさらに以下の案が提案されている。

 機関または組織がその知的財産権を譲渡し、又は他人による実施を許諾した後、その譲渡または許諾により取得した純収入から、報酬として20%を下回らずに発明者に支払わなくてはならない(条例案第20条)。

 

4.監督検査

 監督管理部門は、法により機関又は組織が職務発明制度を実行する状況に対して、監督検査を行う(条例案第34条)。監督検査を経て、機関又は組織が法により職務発明制度を確実に実行していないことを発見した場合、監督管理部門は、期限を限定してこれを是正するよう命じ、かつ警告を与えることができる。

                                                                            以上



[1]第6条

 所属機関または組織(単位)の任務を遂行しまたは主として所属機関または組織の物的技術的条件を利用して完成させた発明創造は職務発明とする。職務発明の特許出願する権利はその機関または組織に帰属し、出願が許可された後は、その機関または組織が特許権者となる。

 非職務発明創造を特許出願する権利は発明者又は創作者に帰属し、出願が許可された後は、発明者又は創作者が特許権者となる。

 所属機関又は組織の物的技術的条件を利用して完成させた発明創造について、機関又は組織と発明者又は創作者との間に契約があり、特許出願する権利及び特許権の帰属について約定されているときは、その約定に従う。

 

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