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中国特許判例紹介:中国における職務発明報酬の算定(第1回)
~専利法に依拠せず経済的利益に基づき報酬を算定した事件~
河野特許事務所 2013年2月19日 執筆者:弁理士 河野 英仁
深セン市金沙江投資有限公司
上訴人(原審被告)
v.
潘錫平
被上訴人(原審原告)
1.概要
専利法第16条では、職務発明についての奨励金及び報酬について以下のとおり規定している。
特許権を付与された機関又は組織は、職務発明の発明者又は創作者に対して報奨を与えなければならない。発明創造の特許を実施した後、その普及応用の範囲及び取得した経済的利益に基づき、発明者又は創作者に対して合理的な報酬を与えなければならない。
すなわち、特許出願及び権利化の段階で発明者に対し奨励金を支払う必要があり、自社が実施または他社に実施許諾を行っている場合、発明者に対し報酬を支払わなければならない。
本事件において人民法院は、専利法実施細則で規定されている他社に対するライセンス費を参酌せず、発明による経済的利益を考慮して100万人民元(約1500万円)の報酬を認めた。
2.背景
(1)特許の内容
潘錫平(原告)は1998年深セン市金沙江投資有限公司(被告)に就職した。原告は被告社内業務を行う間,医薬品に関する発明を行い、2001年4月23日知識産権局に発明特許出願を行った。発明の名称は「スクテラレイン及びカフェアシルキナ酸を含む薬用組成物」である。
知識産権局による審査を経て2004年11月3日に登録された。特許番号はZL01115358.X(以下、358特許)、特許権者は被告の販売会社である「深セン市生物谷科技有限公司」(以下、販売会社)である。
(2)358特許の実施許諾
被告は販売会社を通じて、2009年12月1日雲南生物谷公司に358特許の実施許諾を行った。被告の経営範囲は、保健品、自然食品、環境保護用品、医療器材、バイオ製品の技術開発、技術コンサルティング、薬品技術の研究開発、プロジェクト投資、輸出入業務である。また、雲南生物谷公司の経営範囲は、中国及び西洋の成薬原料と製剤の開発、生産、販売及び技術サービス等である。
(3)訴訟の経緯
2009年12月28日,潘錫平は、広東省深セン市中級人民法院(以下、中級人民法院)に訴訟を提起した。原告は、従業員である原告に職務発明特許の奨励金及び報酬として2000万人民元(約3億円)を支払うよう求めた。
中級人民法院は職務発明の報酬として従業員である原告に100万元(約1500万円)を支払うよう命じる判決をなした[1]。被告はこれを不服として広東省高級人民法院に上訴した。
3.高級人民法院での争点
争点:職務発明に対する奨励金と、他社にライセンスした場合に支払う報酬をどのように決定するか?
被告は、使用者と従業員との間の契約である《従業員関係管理弁法》第5.24条を根拠に、既に原告に対し奨励金及び報酬を支払ったと主張した。《従業員関係管理弁法》第5.24条には以下のとおり取り決められていた。
「会社は従業員の知識成果に依拠して特許権を取得した場合,会社は特許権公告の日から30日内に該従業員に対し、職務発明奨励金500人民元と、一次性の報酬1000人民元を支払う。」
また、被告は、原告に与えた四半期ボーナス及び年度ボーナス中には,既に職務発明の奨励金、報酬金が含まれていると主張した。
原告は、《従業員関係管理弁法》を見たこともなく,また《従業員関係管理弁法》に基づき奨励金、報酬金を受け取ったこともないと反論した。
また、被告は、358特許の特許実施許諾契約記録証明及び対応する特許実施許諾契約書を証拠として提出した。この契約書には、被告が雲南生物谷公司に2009年12月1日から2010年11月30日まで358特許の実施を許諾する旨記載されていた。そしてその実施料は1年あたり10万元(約150万円)であった。
まとめると、原告が見たこともないと主張する使用者と従業者との間の取り決めでは、職務発明奨励金500人民元、一次性の報酬1000人民元となっており、被告が他社に358特許を実施許諾した際の実施料は10万元ということである。このような場合に、発明者に支払う報酬額をどのようにして決定するのかが争点となった。
[1]広東省深セン市中級人民法院判決 (2010)深中法民三初字第65号
(第2回へ続く)
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