早わかり中国特許:第14回 中国特許の記載要件(2)(第1回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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早わかり中国特許:第14回 中国特許の記載要件(2)(第1回)

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早わかり中国特許

~中国特許の基礎と中国特許最新情報~

第14回 中国特許の記載要件(2) (第1回)

河野特許事務所 2012年8月20日 執筆者:弁理士 河野 英仁

(月刊ザ・ローヤーズ 2012年6月号掲載)

 

1.概要

 サポート要件に引き続き、中国特許の記載要件である明確性要件、必要な技術的特徴要件及び実施可能要件について詳述する。併せて中国外観設計特許出願に課される記載要件をも解説する。

 

2.明確性要件

 専利法第26条第4項は以下のとおり規定している。

「請求項は明細書に基づいて、特許保護を要求する範囲を明確、簡潔に限定しなければならない。」

 

 実務上指摘を受けることが多い拒絶理由の一つであるが、出願時に以下の点に注意することで、専利法第26条第4項に基づく拒絶理由を低減することができる。

 

(1)NGワード[1]

(i)請求項には、「厚い」、「薄い」、「強い」、「弱い」、「高温」、「高圧」、「広い範囲」等の意味の不確かな用語を使用してはいけない。ただし、特定の技術分野において公認された適切な意味を有する場合、使用することは可能である。例えば、アンプをクレームする場合、「高周波」を用いることができる。技術分野及び発明内容によってはこれらの文言を用いざるを得ない場合がある。この場合、拒絶理由を受けた際に、補正できるよう実施例にて詳細な説明(数値範囲、何に対してどの程度強いのか等)を明確に記載しておく。例えば「高温」が不明確とする拒絶理由を受けた場合、補正にて対応できるように好ましい温度範囲を明細書に記載しておく。また「厚い」を不明確とする拒絶理由を受けた場合、補正にて対応できるように、何に対して厚いのか、どの程度厚いのかを明細書に記載しておく。

 

(ii)請求項には「例えば」、「望ましい」、「特に」、「必要な際」等の文言を使用してはいけない。これらの用語は請求項において、異なる保護範囲を規定することとなり、保護範囲が不明瞭となるおそれがあるからである。

 

(iii) 請求項に「略」、「約」,「接近」,「等」,「或いは類似物」等の記載が存在する場合、一般的状況下では、拒絶理由の対象となる(審査指南第2部分第2章3.2.2)。日本の実務で多用される「略垂直」等の「略」は、範囲が不明確であるとして拒絶理由を受ける可能性が高い。ただし、審査指南には「一般的状況下では」と記載されているため、場合によっては使用することができる。この「略」については以下の対策が考えられる。

(a)審査官の指摘を受けた場合に、「略」を削除する。

 出願時には「略」を含めておき、拒絶理由を受けた場合に「略」を削除する。ただし、「略」の削除により、禁反言[2]が生じ権利範囲が限定解釈されるおそれがある。例えば、AがBに対し「略垂直」を「垂直」に補正した場合、権利範囲がAとBとが完全に垂直なものに限定解釈されてしまう。

(b) 審査官から指摘を受けた場合に、「略」を削除し、具体的な範囲に補正する。

 例えば、「略垂直」に対応させて、明細書中に「AとBとは垂直である。ただし完全に垂直である必要はなく、A線はB線に対し±5度程度傾斜していても良い」等の記載をしておく。拒絶理由を受けた際には「略」に代えて、±5度程度傾斜している旨を補正する。

(c)中国への出願時に「略」を削除しておく。

 明細書に(ii)の範囲を明記しておくと共に、中国への出願時に予め「略」を削除しておく。このようにしておけば拒絶理由を受けることなく権利を取得することができる。また、中国では均等論[3]の主張が可能であるため、「略」の記載がなくとも広い権利範囲を主張することができる。

 

 また接近、近傍等の用語も不明確であるとして拒絶理由を受ける場合がある。その際、どの程度、どのような形で対象物が、被対象物に接近しているのかが、実施例中に記載されているか否かがポイントとなる。実施例に記載していれば、補正により、明確化することができ、また引用文献により創造性欠如を指摘された場合でも、実施例の記載に基づき、引用文献と差別化することが可能となる。

 中国の実務では記載不備を指摘されやすいこと、また、補正の制限が厳しいことから、不明確と指摘されるおそれのある上述した用語については、補正にて対応できるよう実施例にきっちりと書き込んでおくことが重要である。

 

(iv) 添付図面の表記又は化学式及び数学式に使われる括弧を除き、請求項での括弧の使用は極力避けるべきである。例えば、「(コンクリート)型にて作ったレンガ」等である。ただし、「(メチル基)アクリル酸エステル」、「10%~60%(重量)のAを含む」等、通常使用されている括弧の使用は許容される。

 

(2)従属請求項の記載に関する規定

(i)多項従属請求項に従属する多項従属請求項の記載の禁止

 従属請求項とは、独立請求項の全ての技術的特徴を含み、さらに新たな技術的特徴を追加した請求項、または、独立請求項の技術的特徴をより詳細に限定した請求項をいう。また、多項従属請求項とは複数の請求項に従属する請求項をいう。以下に例を示す。

 

【請求項】

1.風向調節機構および風量調節機構…が含まれたことを特徴とするエアコン。(独立項)

2.前記風向調節機構は…ことを特徴とする請求項1記載のエアコン。(単項従属請求項)

3.前記風量調節機構は…ことを特徴とする請求項1または2記載のエアコン。(多項従属請求項)

4.…をさらに備えることを特徴とする請求項2または3記載のエアコン。(多項従属請求項に従属する多項従属請求項)

 

 請求項3は複数の請求項に従属しているため多項従属請求項である。また請求項4は請求項2と、多項従属請求項3とに従属しているため多項従属請求項に従属する多項従属請求項である。すなわち、自身が多項従属請求項であり、かつ、従属先も多項従属請求項である場合は多項従属請求項に従属する多項従属請求項(以下、重複多項従属請求項という。)となる。

 

 中国では多項従属請求項の記載は認められているが、日本と異なり重複多項従属請求項の記載は認められていないため、拒絶理由となる(実施細則第22条第2項[4])。従って、中国出願時には重複多項従属請求項を多項従属請求項の形式に補正しておく必要がある。上述の例では、請求項4は以下のとおり補正すればよい。

 

4.…をさらに備えることを特徴とする請求項記載のエアコン。(多項従属請求項)

5.…をさらに備えることを特徴とする請求項3記載のエアコン。(多項従属請求項)

 

(ii)複数の独立請求項が存在する場合の取り扱い

 独立請求項に直接または間接的に従属している全ての従属請求項は、当該独立請求項の後に、そして、別の独立請求項の前に書かなければならない(審査指南第2部分第2章3.3.2)。従って、従属請求項が別の独立請求項の後に記載してはならない。

 

【請求項】

1.風向調節機構および風量調節機構…が含まれたことを特徴とするエアコン。(独立項)

2.前記風向調節機構は…ことを特徴とする請求項1記載のエアコン。

3.温度調節機構および風量調節機構…が含まれたことを特徴とするエアコン。(独立項)

4.前記風量調節機構は…ことを特徴とする請求項1または3記載のエアコン。

 

 請求項2は独立従属請求項1の従属請求項である。請求項4は独立請求項1及び別の独立請求項3の従属請求項である。請求項4の従属は日本では認められるが中国では認められない。この場合、以下のように補正する。

 

【請求項】

1.風向調節機構および風量調節機構…が含まれたことを特徴とするエアコン。(独立項)

2.前記風向調節機構は…ことを特徴とする請求項1記載のエアコン。

3.前記風量調節機構は…ことを特徴とする請求項1記載のエアコン。

4.温度調節機構および風量調節機構…が含まれたことを特徴とするエアコン。(独立項)

5.前記風量調節機構は…ことを特徴とする請求項3記載のエアコン。

 

 従属請求項3を新設し独立請求項1に従属させ、従属請求項5を別の独立請求項4に従属させればよい。

 

3. 必要な技術的特徴の記載

 専利法実施細則20条第2項は、独立請求項中に必要な技術的特徴を記載しなければ成らない旨規定している。

 

独立請求項は全体的に発明または実用新案の技術的構想を反映し、技術課題を解決するのに必要な技術特徴を記載しなければならない。」

 

 日本には当該拒絶理由に対応するものが存在しないため、拒絶理由を受けた際に対応に苦慮することが多い。

 

 参考図1 必要な技術的特徴記載要件のイメージを示す説明図

 

 参考図1は必要な技術的特徴記載要件のイメージを示す説明図である。発明はある課題を解決すべく、複数の手段を採用する。出願人が手段A、手段B及び手段Cをもって課題を解決することができると考え請求項に手段A~手段Cを記載したとする。しかし審査官は課題を解決するためには、手段Bではなくその下位概念である手段b1と他の手段Dをも追加しなければ、発明の課題を解決することができないと認定したとする。

 この場合、審査官は実施細則20条第2項の規定に基づき拒絶理由を通知することになる。当該拒絶理由を受けた場合、新たな手段b1及び手段Dの追加が課題解決のために必須か否か分析する。必須でなければ、審査官の認定に誤りがあることを意見書にて主張する。審査官の認定が妥当であると判断した場合、手段b1及び手段Dを追加する補正を行う。なお、本拒絶理由は独立請求項に対してのみ行われ、従属請求項に対しては行われない。

 



[1]審査指南第2部分第2章3.2.2

[2] 中国における禁反言は司法解釈[2009]第21号第6条に以下のとおり規定されている。

 特許出願人、特許権者が特許授権または無効宣告手続において請求項、明細書について補正または意見陳述することによって放棄した技術方案について、権利者が特許権侵害紛争案件において改めてこれを特許権の技術的範囲に加えた場合、人民法院はこれを支持しない。

[3] 中国における均等論は司法解釈[2001]第21号第17条に以下のとおり規定されている。「均等な特徴とは、記載された技術的特徴と基本的に相同する手段により、基本的に相同する機能を実現し、基本的に相同する効果をもたらし、且つ当該領域の普通の技術者が創造的な労働を経なくても連想できる特徴を指す。」

[4] 従属請求項は前の請求項のみを引用することができる。2 つ以上の請求項を引用する二項以上の従属請求項は、一つを選択する形で前の請求項を引用することができるだけであり、かつ別の多数項従属請求項の基礎とすることができない。

(第2回へ続く)

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