中国特許判例紹介:中国におけるプロダクトバイプロセスクレームの解釈(第1回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国特許判例紹介:中国におけるプロダクトバイプロセスクレームの解釈(第1回)

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中国特許判例紹介:中国におけるプロダクトバイプロセスクレームの解釈(第1回)

~製造方法により物を限定した請求項の権利範囲解釈~

河野特許事務所 2013年5月17日 執筆者:弁理士 河野 英仁

 

 

万高公司

                                再審請求人(原審被告)

v.

優他公司

                                 被再審請求人(原審原告)

 

1.概要

 中国においては、製品クレームにおける技術的特徴が、構成的特徴またはパラメータ特徴により明瞭に表現できない場合、方法的特徴で記載することが許容されている[1]。方法的特徴により製品を特定するクレームはプロダクトバイプロセスクレームという。

 

 本事件ではプロダクトバイプロセスクレームにおける技術的範囲の属否が争われた。中級人民法院及び高級人民法院は、クレームに記載された製法と、イ号製品の製法とが均等であることを理由に特許権侵害を認めた。これに対し、最高人民法院は審査過程及び無効宣告請求手続での特許権者の主張に基づく禁反言を根拠に、特許権侵害は成立しないと判断した[2]。

 

 

2.背景

(1)特許の内容

 優他公司(原告)は、2004年4月20日国家知識産権局特許局へ“藏薬[3]独一味[4]ソフトカプセル製剤及びその調製方法”と称する発明特許出願を行った。特許出願番号は、200410031071.4(以下、071特許)である。争点となった出願時の独立請求項1は以下のとおりである。

 

“独一味ソフトカプセル製剤において,

 該ソフトカプセルは、以下の重量部の原料薬組成である:

独一味抽出物20~30重量部,植物油25~36重量部,懸濁液1~5重量部”。

 

 すなわち出願当初は、プロダクトバイプロセスクレームではなく、重量部の比率により、物を特定していた。

 

(2)審査過程

 審査官は実質審査の後、《第一次審査意見通知書》を通知した。原告は、拒絶理由を解消すべく、請求項1を補正した。具体的には、明細書に記載された独一味抽出物の4種の調製方法を用いて、請求項1の独一味抽出物を限定する補正を行った。

 

 また先行技術である《中華人民共和国薬典》(2000年版)に記載された独一味抽出物との相違点を明確化すべく、意見書において以下の陳述をなした。

 

「本発明に記載した独一味抽出物の4種の調製方法は発明者が、大量の篩い選別を行い、検証試験後に最終的に確定した技術工程であり、現有技術中には公開されていない。従って、本発明中に記載の独一味抽出物は、現有技術、例えば《中華人民共和国薬典》(2000年版)中の独一味抽出物とは必ずしも均等ではない。」

 

 審査官は原告の主張を認め、2006年5月10日、特許権を付与した。公告番号はCN 1255100である。登録時の請求項1の記載は以下のとおりである。

 

独一味ソフトカプセル製剤において,該ソフトカプセルは、以下の重量部の原料薬組成である:独一味抽出物20~30重量部,植物油25~36重量部,懸濁液1~5重量部:

その中で独一味抽出物は以下の4種の抽出方法中任意の1種の調製である:

I. 独一味薬材を取り出し,最粗粉に粉砕し(以下、技術特徴B1という,他も同様である);

水を加えて2回煎じ,第一回目は10~30倍の水を加え,1~2時間煎じ,第2回目は10~20倍の水を加え,0.5~1.5時間煎じる(B2);

薬液を合併し,濾過し,濾液を密膏に濃縮し(B3);

减圧乾燥し,粉砕により細粉とし,200メッシュ篩に通し,準備する(B4)。

II……(以下省略)。

 

 なお、当該独一物抽出方法に関し、明細書には以下の記載があった。

特許明細書第12ページの「最も好ましい抽出条件の確定」節には、「2回煎じることは、3回に比べて,生産コストを低減することができる,それゆえ2回煎じる事を選択した」と記載されている。

明細書第15~16ページの「実験例5 エキス(浸膏)粉の細度確定」には、「独一味抽出物を粉砕し200メッシュ篩の細粉とする。製造されたソフトカプセルの内容物の懸濁体系は最も安定している。」と記載されていた。

 

 

(3)訴訟の経緯

 原告は2007年2月、万高公司(被告)が製造販売する“独一味ソフトカプセル”(以下、イ号製品)が071号特許を侵害するとして、四川省成都市中級人民法院に特許権侵害訴訟を提起した。これに対し、被告は071号特許が無効であるとして、復審委員会に無効宣告請求手続を行った。

 

 復審委員会では071号特許は有効[5]、また控訴審である北京市第一中級人民法院及び北京市高級人民法院の行政訴訟においても、071号特許は有効と判断された。ただし、無効宣告の口頭審理の答弁書において「200メッシュ篩に通す」に関し、以下の主張を行っていた。

 

「本件特許は独一味抽出物の粉砕度に対し、200メッシュ篩の細粉の沈下比値は最大であることを研究表明し,製造したソフトカプセルの内容物の懸濁体系は最も安定している」、「独一味ソフトカプセルは、独一味カプセルと比較すれば以下の優位性がある:……独一味ソフトカプセル調製過程において,独一味抽出物は最終的に粉砕して細粉にし、200メッシュの篩に通す。」

 

(4)中級人民法院の判断

  原告は被告製品の製造方法についての証拠を提出していなかったため、中級人民法院に薬品承認に関する資料の取り調べを申請した。中級人民法院は、当該申請に基づき,国家食品薬品監督管理局(国家薬監局)にて薬品承認番号“国薬准字Z20050221”薬品登録許可文書YBZ08242005標準(試行)及び江蘇晨牌薬業有限公司(晨牌薬業公司)が報告した“独一味ソフトカプセル”生産工程の研究資料(以下まとめて“争議工程資料”という)を取り調べた。

 

 争議工程資料には、以下の記載があった。“独一味”の抽出方法は:“独一味薬材1000gを取り出し,粉砕し(技術特徴b1);10倍量の水を加えて3度煎じる,毎回1時間(b2);煎じた液を合併し,濾過し,濾液を相対密度1.30の清膏に濃縮し(b3); 80℃以下で乾燥し,細粉となるまですりつぶして準備する(b4)。”

 

 被告は、イ号製品の組成及び組成比率が071号特許と同一であることを認めたものの、請求項1に記載された製造方法とは異なると反論した。071号特許と、イ号製品との相違点は以下のとおりである。

 

071号特許

イ号製品

2回煎じる(B2)

3回煎じる(b2)

粉砕して細粉にし、200メッシュの篩に通す(B4)

細粉となるまですりつぶす(b4)

 

 中級人民法院は、上述した相違点はあるものの、争いとなった工程資料中“独一味”の抽出方法の各ステップ特徴と071号特許請求項1の対応ステップ特徴は、基本的に同一の手段であり、基本的に同一の機能を実現し、基本的に同一の効果を奏しており,かつ創造性労働を必要とせず特許明細書から直接得ることができ,均等特徴を構成すると判断[6]した。中級人民法院は均等論上の侵害を認める判決をなした。被告はこれを不服として高級人民法院へ上訴した。

 

(5)高級人民法院の判断

 被告は二審において、イ号製品は「細粉となるまですりつぶす」だけであり、071号特許の「200メッシュの篩に通す」の構成要件を具備しないと主張した。

 しかしながら、争議工程資料には、イ号製品の製造工程について明確に記載されておらず、篩い処理についても明記されていなかった。原告は、一審及び二審の過程において何度も、被告に製品の生産記録及びGMP[7]届出資料等、イ号薬品の詳細な生産過程を記載した資料を提供するよう要求したが、被告は挙証期限内に当該資料を提出しなかった。

 

 司法解釈[2001]第33号第75条[8](《民事訴訟証拠規则》第七十五条)は以下のとおり規定している。

第75条 一方の当事者が証拠を持っていて正当な理由がなくそれを提供することを拒んでいることを証明する証拠があって、他方の当事者がその証拠の内容がその所持者にとって不利であると主張した場合、その主張は成立すると推定することができる。

 

 人民法院は被告が証拠を提出しなかったため、当該推定規定に基づき、技術特徴B4とb4は均等であり、特許権侵害が成立するとして中級人民法院の判断を支持する判決をなした。被告はこれを不服として最高人民法院へ再審請求[9]を行った。

 



[1]審査指南第2部分第2章3.1.1

[2] 最高人民法院2010年11月24日判決 (2010)民提字第158号

[3] 藏薬とは中国医学及び印度医学等を融合した中国独自の医薬体系をいう。

[4] 独一味とは多年性草本植物であり、漢方薬に用いられる。

[5] 復審委員会第11005号

[6]均等論の条件については、司法解釈[2001]第21号第17条第2項に以下のとおり規定されている。

 均等な特徴とは、記載された技術的特徴と基本的に相同する手段により、基本的に相同する機能を実現し、基本的に相同する効果をもたらし、且つ当該領域の普通の技術者が創造的な労働を経なくても連想できる特徴を指す。

[7] GMP:good manufacturing practice 医薬品の製造と品質管理に関する国際基準のこと。メーカの品質管理マニュアルのようなもので、内容は多岐にわたる。最終医薬品の製造に関する規範、建物、機械設備の他、製造工程・保管・衛生の各管理者をおいて、品質管理基準書を作成することや、出荷の記録、有効期間の設定、苦情処理等の各項目がある。百科辞典マイペディア電子辞書版

[8] 『最高人民法院、民事訴訟証拠に関する若干の規定』(法釈[2001]第33号 2002年4月1日施行)

[9]再審制度とは、人民法院の行った誤った判決または裁定に対して再び裁判を行う制度をいう。事実の認定、及び、法律の適用のいずれかにおいて誤りがある場合は、本制度により再度審理が行われる。

 

(第2回へ続く)

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