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対象:特許・商標・著作権
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中国特許判例紹介:中国におけるプロダクトバイプロセスクレームの解釈(第2回)
~製造方法により物を限定した請求項の権利範囲解釈~
河野特許事務所 2013年5月20日 執筆者:弁理士 河野 英仁
万高公司
再審請求人(原審被告)
v.
優他公司
被再審請求人(原審原告)
3.最高人民法院での争点
争点1:証拠提出を拒んだ場合の推定
被告は構成要件b4についての具体的な工程についての証拠を提出しなかったため、司法解釈[2001]第33号第75条の規定に基づき、「200メッシュの篩いに通す」の技術特徴を具備すると認定された。最高人民法院では当該認定が妥当であるか否かが争点となった。
争点2:2つの技術特徴が均等と言えるか否か
煎じる回数(B2,b2)と200メッシュの篩いに通す点(B4,b4)という2つの相違点が存在するが、これらが均等といえるか否かが争点となった。
4.最高人民法院の判断
争点1: 軽々しく司法解釈[2001]第33号第75条の規定を適用すべきではない。
イ号製品の「細粉となるまですりつぶす」について、これ以上の説明は争議工程資料には記載されていなかった。最高人民法院は、新たに提出された証拠《中華人民共和国薬典》(2000年版)に基づけば、「細粉となるまですりつぶし」は80メッシュの篩に通した細粉を意味することから、イ号製品は200メッシュの篩いに通す工程を具備しないと判断した。
また高級人民法院は、取り調べた生産工程が不完全であることを理由に,司法解釈[2001]第33号第75条に基づき、「細粉となるまですりつぶし(b4)」が、「細粉となるまで粉砕し、200メッシュの篩に通す(B4)」と均等であるとの主張を推定したのは妥当ではないと指摘した。
最高人民法院は、《民事訴訟法》及び《特許法》の証拠保全に関する規定に基づき、現場検証、生産記録の差押え等の証拠保全を行うべきであり、軽々しく司法解釈[2001]第33号第75条に基づき推定を行うべきではないと判示した。
争点2: 均等の主張は禁反言により認められない
最高人民法院は続いて、技術特徴B2及びB4の均等について検討した。最高人民法院は原告が特許取得時及び無效宣告過程において述べた意見に注目した。原告は071号特許取得及び無效宣告過程中における意見陳述を通じて、「本発明における独一味抽出物の四種調製方法は、発明者が大量の工程篩い分け及び検証試験後を行い、最後に確定した工程ステップであり,現有技術中には公開されておらず,それゆえ本発明中における独一味抽出物は、現有技術の《中華人民共和国薬典》(2000年版,一部)中の独一味抽出物とは必ずしも均等ではない。」と述べた。
また、071号特許明細書の第12ページ「最も好ましい抽出条件の确定」欄には、「2回煎じること、3回煎じる場合に比べ,生産コストを下げることができる。従って、2回煎じることを選択した」と記載されていた。
明細書第15~16ページ「実験例5 エキス(浸膏)粉の細度確定」欄には「独一味抽出物を粉砕し200メッシュ篩の細粉とする。製造されたソフトカプセルの内容物の懸濁体系は最も安定している。」と記載されていた。
すなわち、先行技術との相違点を明確化すべく、製造方法により減縮補正を行った。明細書の記載に基づき、意図的に煎じる回数を2回に限定したのである。同様に、最も安定している200メッシュに限定したのである。司法解釈[2009]第21号第6条には以下のとおり規定されている。
第6条 特許出願人、特許権者が特許授権または無効宣告手続において請求項、明細書について補正または意見陳述することによって放棄した技術方案について、権利者が特許権侵害紛争案件において改めてこれを特許権の技術的範囲に加えた場合、人民法院はこれを支持しない。
最高人民法院は、禁反言により、技術特徴B2とb2、B4とb4が均等であるとの主張は制限され、特許権の侵害を構成しないと結論づけた。
5.結論
最高人民法院は、均等侵害が成立するとした中級人民法院及び高級人民法院判決を取り消す判決をなした。
6.コメント
(1)プロダクトバイプロセスクレームについての権利範囲解釈
本事件では、プロダクトバイプロセスクレームにおける物が同一であっても、製造方法が相違すれば、権利範囲に属さないことが明確にされている。この点は基本的に諸外国と同じ考えである。
一方、新規性(専利法第22条第2項)の判断に際しては、引用文献との製造方法が異なっていたとしても最終的な物が同じである場合、新規性が否定される(審査指南第2部分第3章3.2.5)。
ただし、出願人が明細書の記載または出願時の技術水準に基づき、引用文献に記載された物と比較して、クレームされた方法により物の構造・構成が異なる物に変化したことを証明した場合、または、クレームされた方法が引用文献に記載された物と比較して異なる性能をもたらし、クレームに係る物の構造・構成が変化したことを証明した場合新規性が肯定される。
例えば、クレームに「X方法により得られるガラスコップ」と記載されており、引用文献には「Y方法により得られるガラスコップ」が開示されていたとする。ここで、2つの方法により得られるガラスコップの構造、形状及び構成材料が同じである場合、新規性は否定される。
その一方で、クレームに記載されたX方法が、引用文献に記載されていない特定温度での焼き戻しステップを含んでおり、これによって引用文献に記載されたガラスコップに対し、耐久性が明確に向上し、クレームされた方法により微視的な構造変化が生じ、先行技術に記載された物の内部構造とは異なる構造を備える場合、新規性は肯定される。なお、創造性の判断も当該基準に則って行われる。
(2)証拠保全
本事件においては被告側が製造工程の一部を開示しなかったため、原審では司法解釈[2001]第33号第75条に基づき同様の方法を採用しているとの推定を行い、最終的に均等と認定した。
これに対し、最高人民法院は司法解釈における推定は最終手段であり、その前に民事訴訟法及び専利法の規定に基づき、現場検証、生産記録の差押え等の証拠保全を行うべきであると判示した。
本年1月に施行された改正民事訴訟法第81条には以下のとおり証拠の保全に関し規定されている。
第81条(証拠保全)
証拠が滅失し、又はその後において取得するのが困難となるおそれのある状況の下においては、当事者は、訴訟過程において人民法院に証拠の保全を申し立てることができ、人民法院も、自ら保全措置を執ることができる。緊急状態により、証拠が滅失し、又はその後において取得するのが困難となるおそれのある状況の下においては、利害関係人は、訴訟提起或いは仲裁申請前に証拠所在地、被申請人の住所または案件に対し管轄権を有する人民法院に証拠の保全を申し立てることができる。証拠保全のその他の過程は本法第9章の保全に関する規定を参照して適用する。
また専利法第67条においても、TRIPS協定の要請を受けて、第3次改正時に訴訟提起前の証拠保全が新設されている。
専利法第67条
特許権侵害行為を差止めるために、証拠が消滅する可能性、又はその後は取得が困難になる可能性がある場合には、特許権者又は利害関係者は提訴前に、人民法院に証拠の保全を申請することができる。
人民法院は保全措置をとるとき、申請人に担保の提供を命じることができ、申請人が担保を提供しないときは、その申請を却下する。
人民法院は申請を受理した後、48時間以内に裁定しなければならない。
保全措置をとると裁定したときは、直ちに執行しなければならない。
人民法院が保全措置をとった日から15日以内に、申請人が提訴しないときは、人民法院はその措置を解除しなければならない。
判決 2010年11月24日
以上
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