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河野 英仁
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米国特許判例紹介:アップルとサムスンのタブレット端末訴訟(3)

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米国特許判例紹介: アップルとサムスンのタブレット端末訴訟 (第3回)

~意匠特許の非自明性判断~

河野特許事務所 2012年8月17日 執筆者:弁理士  河野 英仁

 

                                 Apple, Inc.,

                                           Plaintiff-Appellant,

                                 v.

                       Samsung Electronics Co., Ltd., et al.,

                                          Defendants Appellees.

(3)本事件における非自明性の判断

 CAFCは、主引用文献であるFidlerタブレットが889特許と同一の視覚的印象を有するとした地裁の判断は誤りであると述べた。参考図5は889特許とFidlerタブレットとの対比説明図である。CAFCは、2つのデザインについて対比観察を行い、全体的に見れば、外観において実質的な相違があると述べた。

 

  参考図5 889特許とFidlerタブレットとの対比説明図

 

 CAFCが認定した相違点は以下のとおりである。

Fidlerタブレットは、対称的ではない。

Fidlerタブレットのフレームは、「フレームのない」889特許とは非常に異なる印象を与えている。

Fidlerタブレットにおいて、スクリーンを囲むフレームはスクリーンそのものに対して顕著な明暗を有する。

Fidlerタブレットのスクリーンは、フレームに対して沈んでおり、「写真のフレーム」のようであり、フレームとスクリーンとの間の継続性がない。これに対し、889特許の透過ガラスのような前面は、継続性が破綻しておらず、基本的に特許デザインの前面全体をカバーしている。

889特許は、タブレットの前面において端から端までフラットな厚板ガラスに係る視覚印象を生成している。Fidlerタブレットはそのような印象を生成していない。

 

CAFCはさらに以下の相違点を挙げた。

Fidlerタブレットは、2つのカード上の突起物が頂部から飛び出ており、一つの側面において刻み目がある。

Fidler引用文献の背面も889特許のそれとは、異なる視覚的印象をもたらしている。

 

 以上の相違点に基づき、CAFCは889特許とは全く異なる視覚印象を与えるFidlerタブレットを主引例文献とした地裁の判断を誤りと指摘した。

 

 次にCAFCはTC1000について検討した。CAFCは、第2引用文献であるTC1000では、Fidlerタブレットと889特許とのギャップを埋めることができないと述べた。CAFCが認定した相違点は以下のとおりである。

 

TC1000はフラットなガラスフロントを有するが、当該装置のスクリーンエリアは、さらに幅広のグレーのエリアにより囲まれている。

TC1000の周囲は広い丸みを帯びたメタリック枠により取り囲まれている。

889特許のミニマムデザインと異なり、スクリーンエリアにはインジケータライトが複数の箇所に設置されている。

 

 以上のとおりCAFCは、TC1000は889特許とは外観が大きく異なることから、FidlerタブレットとTC1000とからは自明とはいえないと結論づけた。

 

 

5.結論

 CAFCは、2つの引用文献により自明とした地裁の判断を無効とし、地裁にさらなる審理を行うよう命じる判決をなした。

 

 

6.コメント

 本事件は判断が難しいデザイン特許の非自明性を考える上で参考となる判例である。タブレット表面のクリアガラスが覆う範囲に、主引用文献とは大きな相違があった。また、889特許は裁判所で装飾のないミニマムデザインと呼ばれ、逆に装飾がないことが評価された興味深い案件である。

 

 本事件が差し戻されたことにより、2012年6月26日カリフォルニア州連邦地方裁判所は、原告の請求を認め、被告のイ号製品についての仮差し止めを認める判決を下した。

 

 米国を含めた諸外国での意匠特許権の活用を再考させる非常に意義のある判決であるといえる。

 

判決 2012年5月14日

                                                                                                                                         以上

【関連事項】

判決の全文は連邦巡回控訴裁判所のホームページから閲覧することができる[PDFファイル]。

http://www.cafc.uscourts.gov/images/stories/opinions-orders/12-1105.pdf

 

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